85話 光の拳
→→→→→???ターン
中指と小指の悪魔はけたたましく嗤いながら砕け散り、最後の魔除けの障壁を粉砕した。
「開いたねぇっっ」
「中指と小指ぃ、嘆かわしいぃ〜っ」
「さっさとゆこう」
「いや、追い付かれちゃったよ?」
ネルドーアの森の正規ルートの後方、配置しておいた『カオススライム』の群れを打ち砕き、強力なスキルの矢と攻撃魔法の連打が中指と小指の欠けた左手の悪魔達を襲った。
悪魔は闇の障壁を張り相殺してこれを防いだが直後に、剛腕で投げ付けられた中に霊木の灰を混ぜ込んだ聖水4本が直撃した。
爆発的な青い浄化の炎で焼かれる左手の悪魔。さらに立て続けに遠距離攻撃を撃ち込まれ続ける中、後衛を含めて一斉に突進してくる一団があった。
「また『指の魔物』かっ、嫌な引きだ!」
「機神の指より柔らかそうかも?」
ヒロシ達であり、ノッコが投げるボルッカ特製の『混ぜ込み聖水』が効果抜群となっていた。
「効いてんぞっ、坊っちゃんはちょっと待ってくれ! 聖水がヤバいっっ、エルフの後衛は」
「···足止めよろしく」
ボルッカの指示の途中で悪魔の掌が親指と人差し指と薬指を切り離し、聖水の炎を振り払って障壁を破った先へと闇を逆巻いて滑るように去っていった。
「マズいっ! 先越されるよっ」
エルフの長が警告すると同時に残された指達が変化しながらヒロシ達に襲い掛かった。
→→→→→ノッコターン
清めの炎を破りやって、親指はペリカンとテーブルクロス? の悪魔に、人差し指はカミキリムシと辞典? の悪魔に、薬指は猿と金鋏? の悪魔に変化してウチらに飛び掛かってきたわっ!
「どすこいっっ」
ハードシェルに『御馳走パワー3割』を乗せて受けちんやけど、大盾にヒビが入りやる! 正面で受けた人差し指やった悪魔にウチはそのまま後方に凄い勢いで押されてくっ。
皆と離れてく! 見たらナンクゥーとヨンクゥーも薬指指やった悪魔に押されて吹っ飛ばされとるっ。
「ううっ、アカン! 離されるっっ」
森の中に突っ込んでく!! ウチ頑丈やけどネルドーアの魔力強い大木やとか露出した魔石原石とかをぶち抜きまくると流石にしんどいっっ。
強化してた収納リュックが壊れてすんごい一杯ある中身が弾けて森に散らばる! 食べ物もっ、混ぜ込み聖水もっ!
森のモンスター達は今んとこビックリして逃げやってくれてるけど。持たんっっ。
(なるほどなるほどぉ〜、ノッコ・ジンクウ、オーガ族、変質気味の捕食系スキル持ち···)
なんや? 記憶読まれてる?? コイツの思念に合わせてコイツの身体の辞典になんか書かれてる! 段々力が抜けてくっっ??
(西方の血統、ジンクウ氏、ほほう、嘆かわしいぃ〜、飢饉の上に地域紛争、魔物にも郷が襲われ···ほほう、共喰いが横行し、土を食っていたお前は食べ物を隠し持ってると疑われ、郷民折檻され)
「やめろっ! なんや?! 普通に戦えっ!」
(嘆かわしいぃ〜、お前はナニと対峙している? 悪魔は人を苦しめるモノだろうぅ〜??)
盾を噛み砕いで、突進の代わりウチの腹に喰い付こうとする人差し指やったカミキリ辞典野郎!
クレリックハンマーの柄で押し留めるっ。ハンマーの破魔の力で悪魔の牙は焦げるけど、祓う程やないっ、アカン! 力抜けてく! あの辞典、どんどん書いてる! ウチのことやっ、アレに書かれるとアカンのやっっ。
ラピスの指輪は上手く防いでくれへん、これは呪いやなくてコイツの術やな!!
片膝付いてまうっ。
(なるほどなるほど〜、これは愉快! お前を庇って優しい優しい両親は狂った郷民に喰い)
バシュっ! 暗く『燃える血の蝙蝠』が飛んで辞典を斬り裂いてウチのページを焼き払った。
飛び退いて慌てて火をはたいて消す悪魔。
「魔族はいちいち苦しめるから回りくどいのである」
血の蝙蝠達を従えてモルテマ坊が来てくれやった。
「嘆かわしいぃ〜っ、闇の者でありながら人どもに与するはぁ! 人混じりめぇっ」
「人混じり? ふんっ」
マントをはためかせるモルテマ坊。
「ヴァンパイアロードの私生児にして、機神の欠片殺しにして、ヨシダハウスの地下室その2の支配者!! 我が名」
「死ねぃっ」
途中で飛び掛かってきたカミキリ辞典悪魔にマントの影からクリスタルガーゴイルを飛び出させて迎撃させやった。
「ふははっ、無粋なヤツよ。我が名はモルテマ・ビリア!! 内なる高貴を体現せし半吸血鬼にして行き掛けに森の魔物を蹴散らしつつ、拾ったエクスポーションを華麗にパスする貴公子!」
あれこれ言ってエクスポーションの小瓶をウチに投げ渡す坊! ウチは一気飲みした。
「ふぅぅううっっ」
ウチは立ち上がった。クリスタルガーゴイルを砕かれたけど、怯まん! ここで全然関係ない、森のモンスター『ギガントパイソン』が襲ってきたけど、ウチはハンマーを投げ付けて仕留め、護拳クレリックフィストを両手に構えた。
「ウチが間抜けで食いしん坊なのは好きに言ったらええけど、親と、あんなことになった故郷の人らを面白おかしく言ったのは許さんで!」
「補助してやろう。分体でも男爵級悪魔は早々死なず面倒である」
坊が横に付いてくれやった。
ここで雨が降り出しきた。ウチ、体温上がってるから湯気が出だしたわ。
「···『ヨモ』」
闇魔法を連射してくるカミキリ辞典悪魔! 坊が燃える血の蝙蝠を撃ちまくりやって打ち消してくれるっ。
ウチは突進しながら覚えたての回避速攻スキル、ダッキングで自分でも避けながら間合いを詰める!
辞典を焼かれた悪魔は近付かれるんを面倒がって飛び退こうしたんやけど、坊が『燃えるの剣』で後ろに檻を造って押し留めてくれやった!!
背中焼かれた悪魔は苦し紛れに毒気を吐いたけど、ニンフの指輪で効かんっ。過去ばっかし読んで今のウチを見切らんからや!
「受けやっ」
数日溜め込んで御馳走パワーで連続拳打スキル『ミンチメーカー』を打ち込む! ただの連続パンチと違って勢いどんどん増すでっ。戦鼓の服とも相性バッチシやっ!
ガンガン攻めて、火の檻も破って叩き潰したんやけどっ、肉塊からはっきりせん闇の塊になっていきなりウチを包み込んで縛りやった!!
(発現したお前のユニークスキルはお前の恐怖に依存している。理解しているだろぉ? 根本的にお前が食事を恐怖していることをぅ〜? 誤魔化し誤魔化し、生きてるなぁ? 嘆かわしいぃぃ···キヒヒヒヒッッッ)
闇の中、締め上げでウチの命を吸い上げてくる本性出した人差し指の悪魔をウチは見返した。
(オカンの得意料理は『痩せ芋の塩スープ』! 美味しくなるよう郷の近くで食べられるモンスターをボコして干物にしたの刻んで入れてくれやった)
ウチは左手を縛る闇を千切り、引きだして人差し指の顔面を闇ん中で思い切り掴むっ。
(イギッ?!)
(オトンの得意料理は干した柑橘草のお茶を近くで一番冷たい川で冷した『オレンジみたいな水』! 仕事が上手くいったときは蜜も買って入れてくれやる)
右手も自由にする! 護拳強く握り過ぎて持ち手砕けたから素の拳にパワー溜めるっっ。
(不幸なことになってもっ、それが全部とちゃうんやっ!!)
(なんだ?? 読んだスキルと仕様が違うっ?? こんなデタラメっっ)
「ウチは御飯食べるん大好きやぁーっ!!!」
掴んで逃がさん人差し指の悪魔の顔面にウチは魔力が暴発する拳を打ち込んでっ、ウチを包んだ闇ごと吹き飛ばした!!
「嘆、かわ、しい···」
悪魔は掻き消えていったわ。
「ほほう? 自力で打ち払うとは、やはり魔族は人の勇気に無力な物であるな。ふふん」
呑気そうなモルテマ坊。ウチ、力使い果たして水溜まりん中に倒れ込んでもうた。湯気凄っ。
お腹も、ぐぅ〜と鳴りやったわ···
他の皆、ヒロシ、カズネ、大丈夫やろか······
→→→→→ボルッカターン
くっそっ、マズいぜ! ノッコはモルテマ坊っちゃんがフォローに行った。
ナンクゥーと姉さんは取り敢えずブラウニーで防いでたからいけたはず。ヨンクゥーさんは凄腕だしな···
問題は、
「本隊が相手か。不足ないが、なにか勘違いしていないか? この先に生じたのは魔力の枯渇した『渇きの世界』への扉。宝やお前達に好ましい新天地は一切ないぞ?」
親指から変化したテーブルクロス? を纏ったペリカンのような悪魔だった。
この『布』、魔法も混ぜ込み聖水も矢も防ぐ厄介な性質だ! 耐久タイプか? 今、最悪なヤツっ。
オイラは収納ポーチから引っ張りだした飛行絨毯を2人の方に投げた。
「タキガワ兄妹! 隙作るから行けっ」
「「···了解」」
飛び乗る2人だったが、エルフの長も慌てて乗った。ん?
「郷で説明しただろうっ? 扉の調整をせんと『どのチキュウの、いつ』に飛ばされるかわからないんだよっ」
「ああ、任せた!」
「クェーッッ!!!」
布ペリカン悪魔はいきなり『吹雪のブレス』を全体に吐いてきた。ヒロシ達は絨毯で回避し、俺と自警団の連中は守備魔法の障壁でどうにか耐えた。
「抜けられる前提で話してるなっ!」
「そらそうよ!」
また聖水の瓶を2本投げ付けた。鳥野郎は嗤って布で防いできたが、今度の聖水瓶は激しく炸裂して、布に穴を開けたっ。
「何?!」
「さっきまでの混ぜ込み聖水にレッドジェム粉末と『ミスリル粉末』を混ぜた。『混ぜ込み聖水・改』だ。効くだろ?」
爆風強過ぎるし実は本数そんなないんだが、生地ごと通ってる! オイラはありったけ投げまくりだしたっ。
自警団も合わせて間接攻撃しまくり、守備魔法も張り直す!
「行け! じゃあなっ」
「ありがとうボルッカ! 皆も頼むっ」
「ちゃんとお別れしたかったよっっ」
ヒロシ達は絨毯で抜けていった。
「クェーッッ!!! 調子に乗り過ぎだっ!!」
遮断する布をズタズタにされた鳥悪魔は身体を膨らませて鳥巨人型にさらに変化した。
「隊列組み直すぜっ! ヤバそうだが、ダメージは通りそうだ」
「「「了解!!」」」
自警団に呼び掛け、オイラは仕上げの仕事に掛かった。




