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瀧川兄妹異世界転移する!  作者: 大石次郎


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84話 行きは易く帰りは泣く泣く

→→→→→ノッコターン



出発前の夜、ウチは夜中にパチっと起きて、おしっこに行ったあとで小腹が空いた気がして、滋養円盤にナコムの練乳塗って食べてから明日に備えとこ、て思てグリーンポーションも一本飲んでたらヒロシとカズネの気配とベランダの戸、開いてるんのに気付いたんや。


『また夜食モリモリ食べて』とか言われそうやから気配消して、なんとなくそ〜と近寄ってみたんや。チキュウの話とかしやってんのかな、て。


「(日本語)まだ半年も経ってないけど、帰れるかもしれない。って変な感じ」


「(日本語)記憶を保てるなら違和感あるだろな」


「(日本語)映画の途中で劇場から出ちゃう、みたいな」


「(日本語)カズネは帰らないと」


「(日本語)私は?」


「(日本語)あ、間違えた。俺達、な」


うん。なに言ってるかさっぱりわからんわ。チキュウ語や。でも真面目な感じやったから、そのままそ〜と、退散して寝室に戻ったんや。


きっとこの世界とお別れする話やったんやろなぁ。2人がおらへんかったらウチがこうなる切っ掛けなかったはずや。


どうしても帰りたいんやったら、ウチ、なんでもしよ。そう思って、あったかいふかふかのベッドに戻ったわ。



→→→→→ナンクゥーターン



ネルドーアの森の深部は結界や空間の歪みが込み合っていて、飛行絨毯では降りられません。

厳密には降りれるポイントもないではないのですが、今回扉が発生したと思われる所には返って遠回りになってしまいます。


安全も考慮して私達はヤーシュの長と自警団の手練二十名程と結局ついてきてくれるお姉ちゃんの共に、郷で管理してる魔除けの林道で深部の一角に発生したはずのチキュウへの扉を目指していました。


ただし飛べはしなくても急いでます。全員、大きなノッコ以外は数名ずつで『銀毛種の森カバ』に乗って爆走していました。


モルテマ坊っちゃんもまだ明るいですが棺から出日傘を差して乗っていました。


「焼けませんか? 到着前に灰にならないで下さいよ」


「この林道は木の影で暗い! それに『ブラックポーション』をガブ飲みして闇のパワーを高めておいたからなっ。吾輩絶好調である!!」


「ならいいんですが···」


深部魔力も強く、空間が歪みがちです。魔力はともかく、歪みに関しては妖精界より酷いですね。

以前の私達なら魔力酔いや歪み酔いになっていたでしょう。


皆、強くなりました。きっと気持ちも。


もうゼゼシュの暮らしには戻れません。少なくとも、お姉ちゃんのように、帰るべき時を見定めるまでは。


「? なぁに? ナンクゥーちゃん」


「お姉ちゃんは特別で、英雄になると思っていました。なんでゼゼシュに帰ったんですか? ボクを気に掛けたのでしょうか?」


お姉ちゃんが帰る前、暴走しがちなボクは村外れで小屋を立ててドリアードと2人で暮らしていました。特に不満はなかったのですが、昼間はネルドーアの森を徘徊して、モンスターにちょっかいを掛ける日々。

段々、村より森にいる時間が長くなっていたように思います。


『いつか人間の暮らしは合わなくなるな』


と思っていました。


「シンイチさんや、色々なタイミングもあったし、あなたのことも思っていたけど、私は私に必要なことをしただけだよ。それは、鑑定しなくてもわかること」


「···そうですか」


必要な選択。ボクもそれをいくつかして、今は爆走するカバに乗っています。


森に還らなくてよかった。そう思ってますよ。ボクは自然の摂理である前に、百花繚乱のナンクゥーですからね!


「この先に壊された一段目の魔除けの後があるっ。観測じゃ『インプ(下等魔)』が数百体はたむろしてるっ! 瀧川兄妹とその仲間達!!『行きは易く帰りは泣く泣く』エルフのことわざだよ?!」


「「「了解!」」」


「ふんっ、寝起きによい体操である!」


徐々に林道の魔除けも壊れ、邪気が増し、前方に黒い雲のようにインプ達の群れが見えてきました。


「お姉ちゃん!」


「瀧川兄妹に負けない、サミアン姉妹のコンビネーション! 見せてあげようねっ!」


鑑定眼で見切りだすヨンクゥーお姉ちゃん。ボクも光のラカと木のドリアードを構えました。



→→→→→モルテマターン



多重破魔陣の一層目崩壊跡のインプ数百体。二層目崩壊跡の『レッサーデーモン』数十体を仕留め、世紀ルート上の三層目に食い付いてるはずの一連の魔族群の首魁に挑む前に、吾輩達はエルフ達の深部探索用の緊急避難野営地で休息を取ることにした。


吾輩は魔法式をイジって『排除例外』とされている。具合は悪いが居れないでもない。ゆっくりブラックポーションと竜や巨人の血を飲めるだけマシである。


「手練の自警団とやらも半減であるな」


負傷損耗して中途で引き返されていた。カバ達も男爵級悪魔に干渉される前にと既に全て負傷者と帰されてる。ここはダンジョンではなく、脱出の鏡が使えないのはちと面倒だ。


「観測した首魁の気配は『男爵級悪魔』戦力的には足りてる。というよりアンタいやに協力的だね?」


「そうであろう? 吾輩自身もビックリである。寝起きでなんとなく付いてきてしまったというのが本当のところでもあるがな」


全員苦笑である。ふむ。


この者達がいなければ吾輩は酷い末路となり、それに激怒した父上達がムチャをしてさらに人間が反撃し、諸々ご破算になっていたであろう。


カトウの件が片付いた後も、吾輩に安心して休眠できるねぐらはもはや失われていた。


夢の間に間に、ヤツらの呑気な気配を感じるのも悪くはなかった。


しっかり眠れたのはどれくらいぶりであろうか?


義理はある。しかし、さほど近しくもないので、言わないでおこう。


吾輩は孤高の半吸血鬼! ヴァンパイアロードの私生児にして、瀧川兄妹を護衛せし影っ! それでよいのだ!!


「フハハハハッ!!!」


「うおっ、坊っちゃま急に高笑いしだしたっ」


「坊っちゃんの中でオチがついたんだろ?」


「時間差だからビックリだよ」


「坊、なんやねん。座っとき」


「シンパシーを感じますね」


「ナンクゥーちゃんもやっとく?」


「やっときましょう。瀧川兄妹の前途を祝して。ハハハハ」


ナンクゥーが対抗してドリアードの花吹雪を撒きだしたので、吾輩達は2人で笑い続け、残存のエルフ達を困惑させたのである。ふふん。



→→→→→???ターン



ネルドーアの森の深部に『逆巻く闇の巨人の左手のごとき悪魔』がいた。


強固な魔除けの障壁を前に『中指と小指の欠けた』その男爵級悪魔は、本体に変わって2体で合わさり旋回穴開け器のようになって障壁に突進する『中指と小指の分体』を見ていた。


分体2本は激しく損耗しているが、嬉々として止まらない。


「キヒヒヒッ!! 開けたいなっ、開けたいなっ、穴!!!」


「届けたいわ、届けたいわ、チキュウに!!! キヒッ」


「「キヒヒヒヒッッッ!!!」」


個ではなく、一塊の魔物であった。


「···二層目まで突破されたね。これはエルフだけではない」


薬指が語る。


「闇の者でぇ〜、力を貸してぇ、いる者がいるようだぁ~〜。嘆かわしいぃいい〜〜」


人差し指が語る。


「他は冒険者か? それにしては規模が足りない。たまたま居合わせたか?」


親指が語る。


「どうでもよくない? こんな機会はそうないよね? チキュウで罪を重ねられるんだよ? きっもちいいだろなぁ〜〜!! 一杯、広めようねっ、悪を! 偽の善を! 愚劣を! 穢れを! 虚偽を! ありもしない富を! 暴虐の権威を! 爛れた戒律を! 皆で協力して、頑張ろうねっ!」


掌が呼び掛けた。


「異議なし」


「異議なぁし〜」


「異議はない」


「「異議なし! キヒヒヒヒ!!!」」


悪魔達は嗤って宴のように闇を逆巻き続け、障壁に亀裂を入れだしていた。

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