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瀧川兄妹異世界転移する!  作者: 大石次郎


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83話 雨が降る前にさっさとゆけ

→→→→→兄ターン



早朝、ぶくぶくの日記を埋めた木の側で皆祈りを捧げてから、俺達は出発する為に飛行絨毯を広げた。ボルッカが先に乗って調整を始める。


吉田さん、ザセウ王とレプラコーン達、土器ゴーレム、それからシトリーさんも吉田ハウスの前まで見送りに来てくれていた。


「すっかり立派になりましたけど···元気でね!」


泣いてくれるシトリーさん。


「レプラコーンキャビネットは一応持ってけよ〜。あっちへの扉は『魔族』達に絡まれ易いからな!」


嫌な予感しかしないが、キャビネットがあるのは心強いっ。


「これも持ってゆけ。ワシとザセウ王、シトリーはもう入れておいた」


吉田さんは木を組み合わせたパズルのような小箱を俺達瀧川兄妹に渡した。


「なんスか?」


「ワシが若い頃に造った『魔法と生き物以外は地球に持ち帰れる細工箱』だ。材質に魔法を含む物はあちらの物質に変換されるハズだ。完成してからバカバカしくなってずっとうっちゃっておったがの。調整しておいたから機能はする。持ってゆけ」


「吉田さん···」


「というかまだ絶対帰れるかはわかんないよ? もう泣きそうだけどっ。ノッコ泣いてるし!」


「帰らんでええや〜んっ」


「ノッコ、ハイランドピープルが妖精界に。アクアピープルが水辺の住処に。ヴァンパイアが棺に戻るのと同じことです。見送ってあげましょう」


「いや、吾輩は好き好んで棺に入ってるワケではないぞ?」


「ややこしいから寝てて下さい」


朝陽を避けつつちょっと開けたモルテマ坊っちゃんの棺の蓋に座って閉めてしまうナンクゥー。


「う〜ん。ネルドーア深部のチキュウへの扉は不安定で滅多に開かないけど、予兆が確認されればほぼ必ず開くから。心積もりはしておいてね」


「「はい」」


地球か···ん? 元地球で、同じ時代なのかな??


「おい、絨毯の準備はできたぜ」


「ああ。じゃあ行ってきます!」


「これで最後じゃないと思うからっ」


俺達は、付き合ってくれるそうだからモルテマ坊っちゃんの棺もノッコが担いで、ちょっと手狭だが飛行絨毯に乗り込んだ。


果樹園やアトリエの木工の匂い。俺達の家だった。


ギムリーの飯場のタコ部屋や、居心地は悪くなかったけどずっとアミューズメント施設の部屋に寝泊まりしてるみたいだった最初のリコット村。旅の先々の野営や宿。


やっぱり落ち着いて住めたのはここだった。

それから吉田さんをザネルの貧民街からここに連れてこれたのも本当によかった。


「しれっとまた戻ってきたらカッコ悪いけど、ありがとう!」


「あーもうっ。今までで一番キツいよ! またね!!」


「オ達者デ〜」


「還るとき、ヴォーパルの欠片は置いてけよ? 向こうでただのガラクタにされたら敵わないぜ」


「私もギムリーで頑張りますから〜!!」


「雨が降る前にさっさとゆけ」


ボルッカは飛行絨毯の高度を上げた。


ネオ山梨の、俺達の家は遠ざかっていった。



→→→→→妹ターン



ネルドーアの森上空に入った私達の飛行絨毯はナンクゥーとヨンクゥーさんの郷、ハーフエルフ達が暮らすゼゼシュへは寄らずそのままエルフ郷ヤーシュに向かっていた。


「ゼゼシュ、寄らないんだ」


シンイチさんにも挨拶したかったかも?


「今は急ぎましょう」


「使い魔との連絡ではまだエルフの魔除けに妨げられているようだけど、万一魔族に先を越されると空振りになってしまうわ。次にいつ扉が開くか、わからないし」


「···? というか魔族って地球に来ちゃってるんですか? 魔法や魔法的なモノは行けないんですよね??」


「身体は失うという話はあるけど、『影のようなモノ』になって悪心や狂気を抱く者に取り憑いて、悪事を働かせることはできるというわね〜。こちらの世界でもないことじゃないけど」


この間の遠雷の主みたいな??


「え〜? なんか、凄い迷惑···」


「それで魔族になにかメリットあるんですか?」


1人だけ飛行中も日差し対策いらないから楽そうなヒロ兄。


「どうなんだろう? まぁ悪魔は悪事を働くことが本分だし、それに世界の摂理が違うから、なんというか、『感度』がよくなって、すごく気持ちいいみたいな話もあるわね〜」


「「···」」


瀧川兄妹ドン引きですわ。


「チキュウの悪事が全て魔族の仕業ということもないだろうけど、もし、向こうに帰っても記憶を保っていたら『怪しい気配』を感じても関わらないようにした方が無難ね。気付かれてると気付かれると狙われたりするでしょうし」


「「了解です···」」


地球、思ったよりデンジャーだったよ。こっわっ。確かに歴史の教科書とかニュースを見てると『人間の判断じゃないよね』ていうケース、ちらほらあったけど。


「カズネ、ヒロシ。どんな世界も危険はあるものです。魔族等いなくても、湯浴みしようと思って滑って転んで大怪我したりすることもあるわけですから」


「···だよね」


「なんとかなるさ」


「ウチもついてけたら守れるんやけど」


頼もしそうっ。


「工学だけで成立してる世界ってのも面白そうではあんな」


ボルッカはなんか上手くやってけそう。


「吾輩は魔法に近い。世界線は越えられんな」


う〜ん、坊っちゃんかぁ···。


「なんにしても、あちらに行ける魔族自体ごく稀よ? ネルドーアで確認されてるのもこの百年で数体程度だから」


そんなしょっちゅう来られてもね!


感動的に帰る気分から一転、戦々恐々としちゃったけど、私達はエルフ郷ヤーシュに急いだ。



→→→→→ボルッカターン



ヤーシュ郷に着いた。改めて来てみると妖精界よりまだ実体のしっかりした場所だったんだな、と。初めて来たノッコと棺の中からチラチラ見てるモルテマ坊っちゃんは珍しがってるが。


レンテ教官に見守る、と言ったばかりだが早々に見送ることになりそうな流れだ。仕事はするつもりだけどよ。


全員、準備に抜かりはない。


アクセサリーは元々効かないし装備し難いのもあるモルテマ坊っちゃん以外はニンフの指輪(毒麻痺胞子耐性)、修道士の指輪(誘惑耐性)、ラピスの指輪(呪い耐性)で揃えた。


B級になって、オイラはブルパリィと手裏剣と鎖鎌のスキルを習得。双短剣は魔族対策で神聖属性の『クリスナイフ改』を買った。防具は忍者職っぽくなっちまうが値段と性能の兼ね合いで『黒装束シリーズ』を買った。


ヒロシは竜騎士の職能を相応に補完して、『グリフォンシリーズ』の防具と神聖属性の槍『ジャッジランス』と小剣『ホワイトプロミス』を購入。


ノッコは格闘系スキルを色々取って、ハンマーと護拳を神聖属性の『クレリックシリーズ』に買い替えた。


カズネは使える魔法を増やして、神聖属性の鞭『ナイトスラッシャー』を購入。


ナンクゥーは装備は変わらないが、精霊の高度な扱いを色々覚えたらしい。


モルテマ坊っちゃんもずっと棺にいるが体調は万全!


あとは現地の状況次第だが···


「深部の魔除けは急いで3段構えに強化したんだが、こっちも『使うつもり』なのを見切られたのかもしれないね。昨夜急に戦力を増強してきて、2段目まで抜かれちまったよ」


ヤーシュの長は煙管を吹かしながらそう告げてきた。


こりゃまたヤベぇな。

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