82話 ビター、ディスティニー
→→→→→兄ターン
Bー級からB級への昇格でまた座学と実技の課題の追加が色々きた。
俺の実技はジャンプ技以外の近接と槍系以外の武器対応力の向上が課題だった。
「まぁ槍以外の武器対応はこんなものだろう」
木製の剣と斧を持っていたオッシモ教官がそれをポイと手離し、収納ポーチからミックスポーションの小瓶を2本取り出しながら言う。
「はぁはぁ、あ、ありがとうございましたっっ」
両手足の『重し』を付け稽古着の俺は木製の斧と剣を左右の手に持って、竜騎士の基礎訓練用の柱を群立させた稽古場の上で一礼した。
柱の下にはここまでで使った様々な槍系以外の木製近接武器が散らばってる。
「遠距離武器は苦手だ。教練所で専門の者に教われ」
「うッス」
「では下に移るぞ? ほれ、飲んでおけ」
投げ渡されたミックスポーションを木剣を持ち替えてキャッチして、俺も一息ついた。
···ネルドーアの森は一旦保留し、またそれぞれ鍛錬の日々に入ってた。近々モルテマ坊っちゃんも起こさなきゃならないが、こっちも片付けないとな。
途中、噂はあったがレンテ教官が教官を辞してBー級の人形使い職に転職し、故郷の冒険者ギルドに転籍したりもしていた。
俺達は時間が合わず夜簡単な送別会を開いただけになってしまったが、ボルッカは都合を付けて転送門まで見送りに行ったそうだ。
吹っ切れた顔をしてたんだってさ···いいね。
で、柱だらけの稽古場からオッシモ教官の家の前に移動。
「重しの代わりにコレを使う。『リングダッシュ』と『ユニコスティング』の確認だ!」
オッシモ教官が『鉄の長棍』を投げ渡してきた。俺はキャッチ(重っ)すると、手足の重しを外した。20キロあるんだよな、これ!
「まずは手本を見せるぞっ?!」
オッシモ教官は軽めに展開したエアステップリングを踏みその反動を使って加速しながら不規則に俺に迫ってきた。リングダッシュスキルだ。上下移動を含み側面や真上への切り込み力が高い!
「参る!」
「うッス!」
ユニコスティングスキルは捻り突きだが、集束させたホップリングによる槍の加速と、エアステップリングによる反動フォローが加味されてる!
爆発的な突きを俺は華麗に受け流···せなくてっ、巻き込まれるように弾かれて回転しながら吹っ飛ばされた!!
「だぁ〜っ?!」
「ふんっ! 攻撃以前に素の見切りと防御が甘いっ。まだまだだ!!」
「面目ないッス」
こりゃ実技も長くなりそうだ···
→→→→→ノッコターン
ウチ、カズネ、タレップ、ゾフでシトリーが『銅賞』取った美術展を見に来てる。
他のメンバーはもう行きやったけど、ウチとカズネB級昇格の課題クリア遅うなってもうて、まだ来てなかってん。
「結構、お客入ってるね」
「ここの喫茶コーナーに茶菓子提供してる店、いいよ? この間取材した」
「ナンクゥーが『気恥ずかしい』て言ってたよね?」
「ヒロシとボルッカと土器ゴーレムは褒めてたで? 吉田ジジとザセウはややこしいこと言うとったけど」
吉田ジジは自分も作家やから技術論言い出して話長い長い···ザセウは「妖精界なら俺様モチーフだろ?」で膨れとった。
シトリーはナンクゥーのイメージをモデルに絵、描きやったんやって。どんなんやろ〜。
というか美術展なんか初めてきたわ〜。抽象作家は解釈ようわからんな〜。言いたいことある系の人のは言葉が強い感じで、絵に気が回ってない気がするかもしれへん。
自分のキャラ守ってる人とか、売れる感じで描いてる人とか、一発カマしたろって感じの人とか、たぶん古典的なんきっちり抑えたり、逆に流行りをシュッとやってやる人もおるなぁ。
地味に見えてじんわり来る人とか、派手やけどペラペラな感じの人もおる。全部ウチの主観やけど···
物見てなに思うんか? それを確認するのにはちょうどええんかもなぁ。
「あ! あれっ、人集りできてるっ」
カズネが見付けやった。4人でシトリーの絵『五彩の木の娘』のとこに行く。
「「「お〜っ」」」
5色で描かれとんのは魔法の木を従えるちょっと半裸のピクシーっぽいナンクゥーな感じの少女やったわ。
綺麗やけどちょっと冷徹な感じとか、自然とそれを超える感じとか、上手く言えへんけど迫力ある。
端から端までみっちり。描き切ったる! いう描き手の気迫も感じられた。
そら銅賞くらい取るわ〜。
と、周りがザワつき出した。よそ行きの格好しやったシトリーがスタッフ連れて来やった。チヤホヤされとる! 顔、緩んどるっ。お洒落眼鏡掛けとる!
「そんな面識ないけど、売れっ子ムーヴしてるよっ!」
「半年後が怖いパターンだ、コレ」
「ちょっとちょっかい掛けに行かなくちゃ!」
「差し入れに饅頭持ってきたから食べさせたろっ」
ウチらは銅賞作家はんに絡みにいって結構困らせたったわ。
変な風にならんと、これからも真面目に描きや?
→→→→→ボルッカターン
B級昇格認定、結構遅れて、モルテマ坊っちゃん起こすの遅れちまったぜ。
カンテラ持った土器ゴーレムの先導でヨシダハウスの地下にオイラ達5人は降りてた。
ザセウ王は蝙蝠小僧なぞ知らん、と興味なしらしい。ヨシダ爺さんは言わずもがな。
守りのガーゴイル像の奥に棺はある。
ヴァンパイアロードの私生児にして、ロングフットハーフにして、手勢を失って義母(正妻)の影響の強い秘匿領に戻り難い吸血王子。てとこだ。さて···
「どう起こす? 一応、ギルド経由で坊っちゃんのパパンから竜の血ポーションとか『巨人の血ポーション』は預かってるけどよぉ」
ポーチから2本を取り出す。
「ノックでもするか?」
「寝る時は自分から起きる風な感じだったけど、起きないもんだよね」
「一応、『ニンニク香水』買ってみました」
「買ったんや」
「マジ、やめとけって」
だが、ニンニク香水にニオイに興味があった俺達はちょっと嗅いでみたり「臭っ?!」とか言って、ワイワイしたりしちまったんだが、
「起こすならさっさと起こすんであるっ! あと臭い! ここ吾輩の寝所!!」
自分から出てきちまったよ···
「家賃ヲ払ッテ下サイ」
払ってなかったのかよ···
→→→→→ナンクゥーターン
モルテマ坊が起きた夜は『起床歓迎会』になりましたね。まぁボク達もB級昇格手間取りましたしね。
「ふははっ、土器ゴーレムよ!『ブラッティーチョコレートドリンク』のお代わりを持て!」
「家賃ヲ払ッテ下サイ」
「騒がしくて仕事にならんわい」
「よしっ、俺様が『素敵な夜風ダンス』を御見舞いしてやろう! ノッコっ、ナンクゥーっ、バックダンサーをしろっ!」
「ええで!」
「お断りです。ちょっとベランダで涼んできます」
「ノリ悪いな〜、じゃ、ヒロシでいいや」
「俺かよ」
ボクはうっかり辛い料理を食べてしまったのと、大騒ぎに疲れてしまい、2階のベランダに向かいました。
本降りでもないですが、小雨が降っていますね。そろそろ雨季です。
遠くにギムリーの繁華街の魔力灯の光が見えます。あの元では、様々な悲喜こもごもがあることでしょう···
「フッ、ボクもすっかり都会のレディになってしまいましたね」
言いながらまだ舌が辛いのでメープルピーチアイスクリームを匙で掬って食べました。
汚れちまった悲しみの味がしますね。ビター、ディスティニー···ふふん。と、
「ハッ?!」
前庭の木陰、鋭い視線! 傘を差した長身の女に凄い『視線で鑑定』されてる?! この視線はぁっ、
相手は高速ダッシュで接近し、一っ跳びでベランダまで上がってきて傘を畳みました。
「お姉ちゃんの鑑定が正しければ、今、あなた、『ビター、ディスティニー』とか思ってたよね?」
「思考まで鑑定しないで下さいっ!!」
普通に旅装のお姉ちゃんでした。あと、お姉ちゃんの鑑定は強力過ぎるので要注意です!
→→→→→妹ターン
日除け帽子にゴーグルのボルッカが駆る飛行絨毯はネルドーアの森の上空に差し掛かったよ!
「わぁっ、楽ち〜ん! 最初ここ大変だったよね?」
「徒歩だったからな」
「ウチ初めてやー」
「早く棺から出たいのであるっ。夜移動すればいいものを!」
「いや、坊以外は夜危ねーし」
「空のモンスターや地上からの攻撃もあるので、ルートと高度の管理はしっかりして下さいね」
「この森の匂い、懐かしい物です···」
私達はモルテマ坊っちゃんも連れて、森に来ていた。ナンクゥーのお姉さん、ヨンクゥーさんの話では、
「エルフ郷の先で空間の歪みが起こっているようなの。少し周期がズレているけれど、もしかしたら、『あちら側』への入口が開いているのかもしれないわ」
とのこと。
私達、瀧川兄妹。
地球に還れるかもしれないんだ···




