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瀧川兄妹異世界転移する!  作者: 大石次郎


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90話 私のパーティー

→→→→→ずっとずっとカズネさんターン



駐車場の車列に紛れるように走る!


「(奇妙な言葉)あまり時間を掛けるとあちらの世界を思い出し過ぎてしまうかもなぁ? くくっ」


まだ余裕ぶってる、なんて思ってるといきなり背後に冷たい物を感じて素早く横に飛んだ。


ヒュッ、と小型のナイフが2本、私がいた所を抜けて駐車場の柱に当たって、甲高い音を立てて落ちた。


「飛び道具っっ」


思ったより色々持ってる! 離れてても射線通されたらダメじゃんっ。


私は慌てて自動車の影の低い姿勢で飛び込み、そのまま移動する。


「(奇妙な言葉)気配を察したな? 勘がよくなってきている。魔法タイプならばどうせなにもできないが、戦士タイプは厄介だ。やはりさっさと片すか」


よくなってきている? なに? 私なにか改善してる?? 来訪者がどうとか、記憶。···なんだろう、今すごく細工箱な中身を開けたい。ただの不安症じゃない。


確かに、なにかのチャンスがあると感じてる自分がいた。


けどちょっと距離詰められてるね。位置関係、周りの物。呼吸を整える。よしっ!


「ふぉおおおーーっっ!!!」


私は立ち上がって車列から飛び出し、すぐにキュッと曲がって料金やマナー表示なんかの看板の陰を走り抜けた。遅れて飛んできた数本のナイフがプラスチックの看板に深々刺さる! パワーっ。


それでも距離は空いた。私はまた車の陰に潜りながらデイパックから細工箱を引っ張り出した。勢い余ってノーモンくんの頭も出ちゃうけど、まぁよし!


しゃがんだまま移動しつつ、いつもなら毎回苦労する細工箱を不思議とスルスルと簡単にパズルを解き、開けた。花の栞は何年経ってもうっすら香りがした。

ピンチなこともあってグッと涙が出そうになるのを堪えて、中身を探る! なにか、あると、私は知っている。


「これだ!!」


私はそれをポケットに入れ、パズルはそのままに蓋だけ閉めて細工箱を抱え、態勢を整え直した。


「ヒィヤオッ」


私のいた車列の隙間の向こうに女が飛び込んできた。直後にナイフ2本の投擲が来る!


私は車の陰に逃げながら躱しきれなかったナイフの側面を箒でギリ打ち払って逸らした。危ないっ。


ナイフは凄い勢いで、箒の毛が何割かぶっ飛んだわっっ。


「ふぅーっ、ふぅーっ」


呼吸を整えようとする。心臓爆発しそう。位置関係、周囲の物、妙に身が軽いけどアスリートって程じゃない自分のフィジカル。


「(奇妙な言葉)惜しいなぁ。考えてみれば勝手のわかる人間は貴重だ。戸籍を買い直して選挙に出てみるつもりなのだが、手駒が足りないのだ。人を人とも思わぬ『いい人材』は他の『同胞』と取り合いだからな。くくっ」


確かにファ〜って議員になっちゃう人、最近多いけどっ。


「『善なる行い』や『魔に抗う心』がなければ、眷属にしたいのだが···いや、素体にいくらか魔力が残っているのであれば、死体の使役も可能か? 試してみるか」 


なんかよくわかんない嫌過ぎることずっと言ってるよっ。


私は間合いと角度を取りつつ、ポケットからそれを取り出し、蓋を開けた。


結構近付いてるし、でもここは隠れる場所が多い。さっき私が箒でナイフ払うくらいの動きするのは見てる。


時間は掛けないみたいなことも言ってた。気付いてるか知らないけど、その内警察も来る!


ここでもう一手だよっ。


「シャアッッ!!」


来たぁっ、すぐ近くに飛び込んできてナイフ投擲じゃなく包丁とハサミを構えて突進する構え! 待ってました!


「とりゃーすっ!!」


塩と灰の小瓶を投げ付ける! 女はすんごい反応速度で肉切り包丁で瓶を切断したけど、中身が女に振り掛かる!! 一瞬、ただ真っ白になっただけだったけど、すぐにキラキラした光を伴い、バシュッ! 衝撃が起こってっ、女から『透けた太った女の悪魔』?? みたいな物を半ば引き剥がした?!


「なにそれぇーっ??」


「うぎゃああっ??!!!」


わけわかんないままっ、私は走った。振り返ると女はだらんとして倒れそうだけど、半分『ハミ出た』悪魔っぽいのは苦しんでる。


取り憑かれた的な?? わかんな過ぎるけど、この調子なら時間稼ぎだけじゃなくて逃げられるかも?


···え? 人間じゃないなら逃げてもヤバくない? 警察逮捕できるの取り憑かれてる人だけだよね??


「ん〜っっ」


でも倒す方法がわかんないっ。タコス屋の店長のキャパ越えてんよ!


と、いきなり、ぐにゃり。視界と、足場が歪んだ。


「え?!」


全てが歪んでゆくっ。塗装されたコンクリ床も、車列も、照明も、鉄骨の梁も、前後左右もあやふやになってく! 辺りに奇妙な力が溢れるっ。


「今度はなになになに?!」


ダメっ、どっちに進んでいいかまるでわからない! それなのに、


「(奇妙な言葉)あちらの魔除け、いやこちらでも変換され難い物を当て込んで忍ばせていたか···」


煙を上げて損耗している風の悪魔は半分ハミ出たまま、よたよたと屈んで歩く女を操り、この空間でも真っ直ぐこちらに向かってくる!


「(奇妙な言葉)一カ所に因子が集まり過ぎたか? あるいは他にもなにか仕込んでいたか? 扉が開きかけているな。だがっ、あちら側には逃がさんっっ」


悪魔が『力』を込めると、女と両手の肉切り包丁とハサミが手と一体化したっ。


「いぃーっっ!!」


苦しんで仰け反るが、一体化した武器を構える女!


ヤバいヤバいっっ。どっち? どっちに行けば?? その時、


(···ネ···ズネ···カズネ、ボクの声が聴こえますか?)


懐かしい声が頭の中に響いた。これに呼応して、細工箱が開いて花の栞が飛び出して、光の花に変わった! マジカル?!


(案内します。百花繚乱で! ハハハ)


結構濃いナビゲーターだけど、なんか私っ、泣けてきた。


「ありがとう!」


歪んだ空間を開いた細工箱を抱えて私は走った。


(ヤーシュの長にも協力してもらい、世界線と空間軸と時間軸、調整できる扉を見付けるのに苦労しましたわ)


幼い似顔絵が光って開き、詳細な似顔絵に変わる! 懐かしい人達の顔! 十代の私の顔! 隣の···


「ヒロ兄!」


(おお、ちょうどいい扉繋げるのに8年くらい掛かっちまった。こっちで経った時間の整合性を)


2つの鍵みたいな物が光って力を取り戻した。


「ヒロ兄ばかっ! 私っ、さっきまで忘れてたんだよっ?!」


そう、私にはお兄ちゃんがいた!!


(ごめん。カズネ)


(感動的な流れだが、そちらに紛れ込んだ闇の者が迫っておるのである。急げ)


なにかの動物の牙が鋭い短剣のような竜の牙に変わって迫ってきた女を操る悪魔に飛んでく! 手と一体になった肉切り包を砕いて苦痛で怯ませるっ。


(箒じゃ厳しいだろ?)


玩具のナイフが鉄より硬いミスリルのナイフに変わった! 私は箒を捨ててそれを持つっ。


(だいぶ耄碌してきたが、ヨシダに手伝わせてキャビネットを俺様達が改造したっ。扉は近いぞ?!)


人形のマントが大きくなって独りでに私の肩に掛かると、私は浮き上がって加速した光の花を追って歪んだ駐車場を一気に進みだした!


「(ネオ山梨語)逃がさん!!」


右手を失った女を操る悪魔もパンプスを踏み潰しながら駆けてくるっ。


それでも速さが違うから逃げきれそうと思ったけど、魔力切れで減速! フラつきだすっ。


(ア、魔力ノ石、入レトキマシタヨ?)


綺麗な石が力を帯びだした! 私は石をマントに当てて魔力を補充して再加速させる!!


歪んだ消火器格納箱が見えてくるとっ、デイパックから顔を出してるノーモンくんが動きだし?! いきなり、


「もあ〜んっ!!」


と鳴いた。


ガタガタッ、揺れる格納箱!


(ちょお、退いてやっ)


私は察して慌てて軌道を変えたっ。途端、ドォンっ! と太くて逞しい左足が歪んだ格納箱を内側から蹴り開けて蓋を弾き、また、迫っていた女を操る悪魔に激突してふっ飛ばした。


手書きのお食事券が、ウドゥーン人気店のお食事券に変わる。


狭そうに出てきたノッコの次にボルッカ、ナンクゥー、ヨンクゥーさん、土器ゴーレム、モルテマ坊っちゃん、シトリーさん、それからそれから、


「お兄ちゃんっ!!」


私は光の花を手に取ってたヒロ兄にマントの勢いのまま抱き着いた。


ボディバッグから完全に時空精霊に戻ったノーモンくんが飛び出して格納箱の上に座る。


「おっ、人のこと言えないけど、我が妹が大人になってんな」


「皆ぁあっ、逢いたかったよぉーーっっ!!!」


大号泣の私を、全員なんか『エンドコンテンツやってます』て感じで立派になってる皆で抱き締めてくれる。


「いや、吾輩そこまで親しくないのである」


「勢イデスネ」


2人冷静な人がいるよっ。


「カズネ、まだ終わってない。この環境で、今のお前なら、いける」


ヒロ兄に促され、私は血まみれで起き上がって激昂して向かってくる女を操る悪魔に向き直った。


ミスリルナイフを構え、魔力を高めっ、理解できる魔法式を編む!


「ん〜っ、ラスタ!!!」


正確にっ、無属性魔法を乗せて打ち出したミスリルナイフは悪魔の方の眉間を超高速で撃ち抜き、討ち滅ぼした。

女の左手のハサミとの一体化も解ける。


続けて、私は細工箱を一旦置き、軍手を取って、気絶して出血して痙攣している女に歩み寄った。


「サティマ、アティ」


麻酔して回復魔法で応急処置はする。


「操られたとはいえ、闇の誘惑に負け、悪魔と契約した結果ではあります。そちらの世界の法の裁きを受けることになるでしょう」


「···うん」


昔より冷静な気もするナンクゥーに頷き、私は改めて扉の前の皆の元に戻った。周囲の空間の歪みが段々収まりつつあった。


「鑑定しなくてもわかるわ。素敵な若者に育っているのね、カズネちゃん」


箱から拙い地図が浮かび上がって、ギムリー周辺の地図に変わって私の手に収まった。


「カズネ、俺はもうそっちに戻らない。こっちで結婚しちゃってさ」


「えぇーっ?! 誰とぉ?! まさかっ」


ノッコ、ナンクゥー、シトリーさんを見るけど全員意味深に笑ってくる。


「そこボカさなくていいでしょっ?!」


「「「ふふふ」」」


「まぁ、とにかく! カズネはどうする? またこっちに来てみるか? 今の俺達ならまた扉を繋げられるぞ?」


「···そう」


私は大きく息を吐いた。


「私、今、こっちで仕事があるんだ。魔法もないし、皆もいないし、一人っ子設定だし、色々大変なことはあって、ガッカリすること多いよ? ガッカリすることに慣れたくないし···だから、もう皆を忘れないからっ。こっちで私なりに頑張るよ! っって言えたらカッコいいんだろうけど私だけ8年も仲間外れとか絶対ゆるさーーーーんっっっ!!! 私も連れてきなさいよぉっ!! ヨシダさんの箸でウドゥーン食べさせろよぉ〜っ!!!」


こっちでも変わらなかったヨシダさんの立派な箸を持って私がジタバタすると、全員苦笑。


「安定の我が妹クオリティで安心した。さ、閉じちまう前に行こうぜ? カズネ」


「うん!」


「もあーん」


細工箱を拾い、ヒロ兄のエスコートでノーモンくんと私のパーティーに戻り、ちょっと狭くてノッコが詰まりがちなネオ山梨への扉に入っていった。


「そういや、うちの両親と田中どうしてる?」


「お父さんとお母さんは早期退職して福祉食堂とか川の清掃活動とかしてる。田中さんはなんだかんだで酒屋継いで、私今キッチンカーやってるから、仕事でお世話になってるよ」


「へぇ? お前、まさか田中と??」


「ないよ。あの人、最近『AIのVR配信者』にベタ惚れだから」


「なにっ? 田中が進化してる??」


「はいはい」


私は久し振りに我が兄と気楽に話し、懐かしい異世界へと帰還していった。


···牛モツのタコスは、もうちょっと待っててね✩

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