77話 炎の凍て付く廟へ
→→→→→兄ターン
拠点奇襲の空振りは想定の内だったが、1年掛けて4層序盤に取り掛かりだしてたユケン一味がいきなり5層直通ルートを見付けたのは想定外だ。
水門のオーブによるショートカット込みでも、俺達は想定慌てて4層後半ルートの最大の難関であるはずの階層守護者として配置された樹木モンスター『ブリザードカースエント5体』を観測できるポイントまで回り込んだが、既に撃破されていた···
「ここまで手練れとはっっ」
絶句するミラリカさん。だが、ユケン側も4人団員を失っていた。叩き潰され、絞め殺され、刺され、氷漬けにされて砕かれている。
「進行は速いけど、4層拠点に控えが3人いた。手下は残り5〜6人程度だろ? この戦闘での損耗を考えると奇襲できなくても、まともにかち合ったら普通に倒せそうじゃないか?」
「いや、まず向こうはまともに戦う必要ねーし。進行し易いはずの5層まで行けてる。炎魔の杯を手に入れて、不死魔人化しなくても脱出の鏡なんかでここから離脱すれば目的達成だぜ」
「テレポート対策はちょっと一手間掛かるかも?」
「テレポートを封じたら相手は魔人化せざるを得なくなる気もしますが。まぁこちらはヴォーパルの欠片がありますけどね」
「? やっつけるんやろ??」
ちょっとザワザワしちまったが、時間がない。人魚の半数は簡単な援護とテレポート対策に専念。残りはここまで残るからにはそれなりだろう手下対策。といった想定をすることになった。
残りの俺達とミラリカさんはユケン担当だ。
中途半端に追っても空振りは致命的だから、俺達は思い切って炎魔の杯が封じられた『炎の凍てつく廟』の手前まで水門のオーブのショートカットルートで一気に回り込むことになった。
戦闘以前に追いかけっこや取り逃し対策であたふたすることになるとはっ、参ったな。
→→→→→レンテターン
(···ザミ、ザミ。よく頑張りましたね)
(これからがお前の本当の人生だ。だが、まだ仕事は残っているよ?)
(お前、今は教官なんだろう? 寝てる場合じゃないぞ)
(わん! わん!)
「?!」
あたしは目覚めた。消毒液のニオイ。この気怠さは薬物じゃないか? 右腕に回復薬の点滴が刺してあった。メーカーがギルド系だ。
段々頭が回り、周りが見えて聴こえてきた。
講堂のような所を救護所にしていた。あたし以外の患者は人魚達。この独特な香の匂い。手当てしてるのも人魚達が多いがギルド職員や治療系の冒険者らしいのもいる。
地元ギルドの人達が控えてたソーマセノ郷まで飛ばされてるね。
全部終わった? まだな気がする。さっきの夢···いや、夢じゃない!
あたしは身を起こし、点滴も抜いた。簡単な治療着を着ている。
あの時のお茶だね···気を遣わせてっ、情けないにゃ!
「レンテ教官! 起きられましたか。まだユケン討伐の報せは来ていませんよ?」
確か地元ギルドの治療系の冒険者のリーダーの方が話し掛けてきた。ロングフットで高齢だ。一線は退いてバックアップに回ってる感じだろうね。
「状況は?」
ざっと聞く。使い魔を使って4層から報せも来ていた。かなりマズいにゃ···
「待機組のリーダーと里長と話がしたい! 個人的な事情を別にしても、各層に控えてた幹部は単体でも想定より概ね厄介だったにゃ。それ以上の相手で、奇襲不成立。対策装備があっても相手に強化要素あり。これはもう郷の禁忌や利権を守ってる場合じゃないにゃっ!」
「確かに···既に5層までショートカットルートが通っているならば人魚達の案内込みで飛行絨毯や脚の速い召喚モンスターで一気に降りることも可能でしょうな」
理はある。この説得、ミスできないにゃっ!
→→→→→妹ターン
5層さっむぅぅぅ〜〜〜〜っっっ!!!!
無理ぃいいい〜〜〜〜!!!!
吹雪ーーーっっっ!!!
「あばばばっ(私)」
「ゔゔゔっっ(ナンクゥー)」
私とナンクゥーは防寒具の重ね着で着膨れしながら、必死で隊についていってるっ。
ヒロ兄達も結局レッドポーションを飲み。属性相性の悪いミラリカさん達人魚組はマジックポーションで魔力を高めて魔力ガードのゴリ押しで乗り切る感じだ。元々冷気に強いみたいではあるけど···
「ミラリカさんっ、寒くないの??」
「私達は寒さは耐えられるのですがあんまり寒いと休眠してしまうので、マジックポーションとは別に『苦飴』という眠気覚ましを口に含んでます」
なぬっ?!
「私も凄い眠いから下さい!」
「ぼ、ボクもっ!」
「構いませんが、慣れないとちょっと大変かもしれませんよ?」
困惑気味に渡された黒い正◯丸みたいなニオイの飴を私とナンクゥーは口に入れた。
···っ??!!!
「「苦ぁああーーーっっ???!!!!!」」
雪の上を転げ回る私とナンクゥー!!
「だから言いましたのに···」
「あにやってんだよ、お前ぇらはよぉ」
「なんか食べてんの?」
「着膨れしてるからいい感じに転がるな」
そんな苦しみを乗り越えて! 私達はショートカットルートで炎の凍てつく廟が見える所まで到着した。
「廟の扉の封印は破られていません。間に合いましたねっ」
「いや、ギリギリだったみたいだぜ?」
「のようだな!」
吹雪の向こう、廟を目指して雪煙を上げて突進して来る者達がいたっ!
蟹! おっきい蟹に乗ってるっ。大柄なヤマメ型魚人のオジサンと、5名の魚人の兵達!! 全員完全武装でこっちをガン見してるっっ。
リバーパイレーツ、ユケン一味の船長! にして団長! ユケン・アザン。Aー級相当の戦士にして淡水系限定のB級召喚師の職能持ち!!
忌まわしき川の王者っ、ユケ、
「どこのヌケサクがいやがると思ったぜっ!!!」
声デカっ! 解説最後までてきないしっ。横歩き爆走の蟹を手が出る際をきっちり見切って止めるユケン!
「郷の『陸人魚』(わりと蔑称)どもか! 速過ぎんな、その女、水門のオーブとやらを取り戻しな? 幹部どもは奇襲で各個撃破ってとこか···しょっぱいヤツらだ。たが冒険者が妙に少ねぇ。伏兵、いや、この期に及んで祠の利権を守りに掛かりやがったか? 出入り口か郷に待機か? 俺達がここまで詰めてるからにはそいつらも直に来そうだな。へっ」
かしこっ、なんか賢いよこのヤクザおじさん! というか、え? 増援来るの? 私達も知らないんだけど??
「ユケン! あなたの一味もここまでですっ。あなた達の船の拠点も蓄えた財宝目当ての衛兵団が強襲しているはずですっっ。観念を」
「するかぁあーーっっ!!! バカ兄の妹がっっ、賊が安全に仕事できるたぁ、一切思ってねぇ! 丸儲けしたいなら、邪魔するヤツは根刮ぎブっちめるだけよっ!! 行くぞ野郎ども!!!」
「「「オオォーーーッッ!!!」」」
「蟹に轢かれて死ねっっ!!!!」
うお〜っ?? 蟹で来たぁあーーーっっ!!!




