68話 カトブレパス狩り 前編
→→→→→兄ターン
転送門のある魔除けの利いたゴーレムだけが配置された祠から出ると、土と草いきれのニオイが強い。
「いい景色!」
地平線まで草地が続いている。マノーラ草原だ。
ギムリーから随分遠いが、B級は大体無料で使える転送門を使った遠方クエストの受注が可能になる。
「ボルッカ、なんとかの守り、いけそうか?」
「『ガルダの守り』な。充填式だがこっから行って帰ってくるだけなら余裕だぜ。天気いいしよ」
広げた飛行絨毯の改造したシルフ像に高価な魔除けアイテムを取り付けてるボルッカ。腰の左右の鞘には『アクセルダガー』を携帯してる。シルバーダガーより強力で、カラクリの属性を持つモンスターに効果大だ。
レアな超カラクリ解体スキルを修得したが、人形殺し職に転職するかどうかは考え中らしい。
「この装備、慣れませんね」
ナンクゥーはずっと使ってた『花咲くシリーズ』の帽子、服、靴から、一段強力でドリアード以外の精霊とも相性のいい『ハイランドピープルシリーズ』の装備に代えていた。
妖精界の住人をイメージした装備で、姫将軍様の平服っぽいかな? わりとゴージャス。
ナンクゥーも特訓で『ブッパ仕様』以外にも4精霊の器用な使い方を修得したようだ。まぁ元々『その内暴走するから力の使い方覚えよう』て感じの流れで仲間になってるから順当かな?
「私も私も! 茄子からカボチャになったっ。こっちの世界の『野菜のヒエラルキー』わかんないわ〜」
魔法を4種覚えて座学もみっちりやったらしいカズネは茄子の魔女シリーズから『カボチャの魔女シリーズ』の帽子と服に買い替えていた。
コンカフェを通り越して、もう童話に出てきそうだぞ我が妹よ。
「ウチは『ちょっと重くなったから』、はよ運動したいわ〜」
「「「···」」」
若干気まずい俺達! ノッコは快食2種の基準値なんかの割り出し実験で食べ過ぎて、その後もザセウ王が面白がって色々食べさせたもんだから、元々ムッチリしてたが、もはや『質量2倍』くらいでボヨンボヨンしてる···
装備はウォーハンマーをシルバーハンマーに買い替えてる。取り敢えず銀武器はアンデッドや魔族に効果大だ。
「よっしっ、絨毯準備できたぞ? ノッコ真ん中に乗れよ? そっとな?」
先に乗り込んで、ゴーグルをして傘代わりに日除け帽子を被って顎紐を結ぶ我が隊の飛行士ボルッカ。
「どすこーい!」
「どぉあ? だからそっと乗れってっ」
「ヒロ兄、ほんとに日傘しなくていいの?」
「日光弱耐性スキル取ったからさ。視界が利くから警戒は任せろ」
そう、俺は4種弱耐性に竜系座学にウィッチサインの正規修得をクリアしていた。
いきなり凍り付く空まで飛ばされた時は死ぬかと思ったが···
それにしても適性があって段階を踏んで鍛えるとどんどんスキルを覚えたりステータスが上がるネオ山梨はやっぱりミラクルだな、と。
ちなみに俺も防具をシルバーシリーズに買い替え、武器は空中攻撃の効果が上がる魔法の槍『エアマスター』をオッシモ教官に譲ってもらった。ありがたや〜。
全員、飛行絨毯に乗り込み、シルフ像の風の結界に守られながら上昇する。
見える範囲が広がり、遊牧民のフェザーフット族が牧羊犬代わりに狼モンスターのダイアーウルフを放ってる羊の群れが見えた。
チキュウの羊より随分モコモコしてる。
「『カトブレパス狩り』バチっと完遂だっ!」
「「「おぉーーっっ」」」
目的地は『マノーラ廃市』遺跡! ここから飛行絨毯ならそう遠くない。
俺達は緑の海原みたいな草原上空を飛行絨毯で直進していった。
→→→→→妹ターン
カトブレパス、忌まわしき石化魔獣。
遺跡等に土の魔力や獣の遺骸等が集まるとそこから発生する。
調査部によると半年程前にマノーラ廃市に住み着いていたゴブリン族の『ゴミ捨て場』から発生したらしい。
結構強力モンスターで小規模編成での討伐となるとBー級以上のパーティーでなければ厳しく、マリノーラ廃市は僻地の一通り探索され尽くした遺跡だったから、中々受注者がいなくて半年も塩漬けになっていたクエストだった。
私達は装備の刷新や2週間くらい試験やら特訓やらで仕事できなかったから金欠で、なおかつ人手不足のB級冒険者の中の下っ端だから引き受けていた。
というワケで着地したよマノーラ廃市の端っこに。
「前の森の遺跡よりだいぶ風化してるね」
建物の崩れっぷりもだけど地面がかなり草地に侵食されてた。
「同じ争乱期でもここ吹きっ晒しだしな〜。あと、地下も小規模だし、掘り尽くされたのも70年は前だぜ?」
絨毯を片してポーチにしまい、代わりにマップや資料を取り出すボルッカ。テキパキしてるよね。
「ボルッカ、トラップとノッコが踏み抜きそうなポイントは?」
「いや、ルートを間違えなきゃ。踏み抜きはこの動線はそもそも地下が無い所がほとんどだ。まぁ絶対安全でもないが···」
「ウチ、今重くなってるから心配やわ〜」
すんごいボリューミーだもんね。
「私、今回守備魔法掛けたらノッコの援護に専念していい? もし落っこちてもすぐ拾えるし」
「そうだな···ナンクゥーも前より細かく立ち回れるだろうし」
「問題ありません。今のボクは対人の素早い応酬にも対応できますから。ハハハ」
精霊4体の力で浮き上がって勢い付くナンクゥー。なんか『敵組織の幹部の1人』て感じ···
「いいんじゃねーか? 発破玉もあるし、火力に困るってことないと思うぜ」
私は今回おっきくなったノッコと組むことになった。
カトブレパスの棲家まで昼間でも他のモンスターはいる。私達は消耗や騒ぎを避ける為、戦闘を避けながら進んだ。
事前調査で、調査部の人達が所々に安全地帯の小規模な魔除けの野営地を作ったり復旧したりしてくれたから少し時間は掛かったけどなんとかなったね。
もう一息というところで、火は使えないけど一旦しっかり目に休憩を取ることになった。
「さて、滋養円盤のアイスクリーム乗せとポーションも取り終えましたし、『ノッコの腹肉ベッド』で仮眠にしましょうか?」
「ざんねーんっ、腹肉ベッドやなくて『腹肉スライム』やでぇ?!」
乗ってきたナンクゥーを腹肉で押さえ込むノッコ!
「むはぁーっ? 圧倒的な捕獲力です!」
「お前ら疲れるからあんまり本気で遊ぶなよ?」
「ボルッカも飛行絨毯の操縦とルート先導で疲れたろ? 俺はポーションと滋養円盤で十分だからちょっと寝たらいい」
「そうか? 悪ぃな」
「ボルッカもウチの腹肉スライムの餌食にしたろか〜?」
「いらねーよっ」
ボルッカは敷布と枕を出して横になるとすぐに浅い眠りに就いた。こっちの世界に来てわかったけど、すぐちゃんと寝れるって仕事のパフォーマンスに直結するよね。
ノッコとナンクゥーも少しして眠った。
「カズネ、寝ないのか?」
「今日は絨毯乗ってちょっと歩いただけだし。今、『保温缶』に入れてきたコーヒー飲んでるんだよね」
「ふぅん。···(日本語)BーからBに昇格したらチキュウへの帰還法探し本格的に調べてみるか? 結構楽しいこともあるし、皆と仲良くなったからもったいない気もしてきたけどさ」
「(日本語)うん。向こうでこんなにしっかり生きてなかった気がする。皆と、離れたくはないよ」
私はコーヒーをカップに入れてヒロ兄にも渡した。
「(日本語)ありがと。まぁ、向こうとこっちで行き来できたらいいんだけどな」
「(日本語)これまでの他の来訪者の人達を見ると、そんな簡単じゃないと思う」
「(日本語)かもな」
私達兄妹はスパイシーなコーヒーを飲みながら、上手くいってもこの世界とお別れすることにどうしようなく寂しさを予感してた。




