63話 亡骸山の開戦
→→→→→兄ターン
病床の老いた妖精王は姫将軍様に手を握られ、話しだした。
「遠雷の主はずっと待っていたのだろう···老いて代替わりする前に病む妖精王が現れ、手駒に相応しい者が現れることを。ヤツには無限の時間がある。老いて王が病むことは珍しくもなく、ただ、ぶくぶくフードなるような者が現れるのを待てばよかった。どこかで誘導はあったのかもしれないが···」
「やはり遠雷の主が干渉していたのでしょうか?」
「ああ、私は感じる。妖精王はアレの監視が使命だ。あの、100年は前に現れた哀れな来訪者は、遠雷の主の手の内にある。ザセウ王、外なる戦士達。どうかこの災いを退けてくれ」
「やれるだけのことはやってみます」
「死にかけのジャバウォックの心臓くらいなら」
「任せろ妖精王! というかお前が代替わりモタモタしてるからつけ込まれたんじゃないか?」
「面目ない···親族の不和が拗れてしまった。思う壺であった···」
すっかり弱りきった様子の妖精王だった。
まずは亡骸山の妖精の騎士団の拠点まで転送門で飛ぶ。俺達は緊張した面持ちで転送門のある部屋に来ていた。
「ヒロ兄、これ。皆で作った」
カズネは保冷樽を差し出してきた。藁の詰まった中にはスプーンと銀の容器があり、リボンで封がされていた。カラメルの甘い香りがする。
「正直難しそうだ。夢で見た子供のイメージがあるかもしれないが、彼はこの世界で長く生きてああなってる」
「···それでも」
「わかった。カズネはこれを」
俺はバターナイフになったヴォーパルの剣をカズネに渡した。
「カズネの精度のある念力なら、ハートのジャバウォックに対抗できるはずだ」
「うん! 任せてっ」
渡す物を渡し、受け取る物を受け取った俺達と姫将軍とお付きの人達、それからまだ寝起きのトルチャさんたミリーは転送門へと入っていった。
飛んだ先は荒涼とした岩山の山頂付近だった。負の力がかなり強く、ノッコの故郷の忌み地が拡大したような所だ。
山頂には妖精の騎士団の精鋭が守る祠があった。あれがバンダースナッチの封じられた墓所だろう。
「大した規模だぜ。普通に倒せる相手ならオイラ達いらないくらいだ」
「ぶくぶく君と、ハートがね」
こちらの軍勢は揃っていた。正直大きく軍を展開するには狭過ぎるが、飛行部隊を考慮すれば立ち回れる。総数は千六百近いそうだ。
大ジャバウォックに備えた野営地でも兵は合わせて千だったから大した規模だ。そして、
「うわ〜。これは気持ち悪いわ〜」
「分体は殺せるんですよね?」
岩山の麓の一角には遠目には虫かトカゲの群れのようなモノが蠢いていた。数百のジャバウォックの分体。翼のあるモノは虫に近い姿で、ないモノはよりトカゲに近い姿だ。
その背後には肥大した心臓が透けて見える皮膜に、申し訳程度に心臓に対して小さなジャバウォックが付いた姿のモノがいた。ハートだ。
その背にぶくぶくフードが乗っていた。
相手は様子を伺うように登り、翼のある個体も飛ばずにまだ這ってる。
「結構、じっくり来てる。ずっとセットでいてくれたらやり易いんだけどな」
「ふふん。向こうはヴォーパルの剣さえ奪えば勝ち確だしな」
「···陣を整えましょう」
姫将軍様は毅然と采配を始め、俺達も一先ず陣に組み込まれた。
結局、初期位置は少しカズネ達と離された。俺とザセウ王は途中まで翼の生えた馬ペガサスに乗ってく。黒毛の一番速いヤツらしい。
乗用飛行モンスターの扱いは冒険者ギルドでやってるが、ぶっつけ本番気味だっ。
俺は仲間達に目配せして、頷き合った。
収納鞄の中のプリンがここにきて重たい気がするが、手加減を考える程の実力は、たぶん俺にない。
まずは生き残ることを考えさせてもらうぞ、ぶくぶく! お前もそうだったろ?
→→→→→妹ターン
緊張する。大体大事な所はヒロ兄にパスしてきたけど、今回ハートのジャバウォックを私が倒せないと大変だ! それに、できるならこっちは早く済ませてぶくぶくフードの所に行きたい。
ヒロ兄はどんどん強くなってる気がするし···プリン、渡したいんだよ。
程なく、ジャバウォック軍の接近が、限界に達した。
「解毒の雨を!」
お付きの魔法使い達と協力して、アムリタオーブを使って姫将軍様が解毒の雨を広域に降らせると、それが開戦の合図になった!!
初手はこちらの攻撃の魔法使いが爆破魔法で岩を崩して雪崩のように落石を起こすっ。
翼のある半数の個体とハートのジャバウォックは飛び上がり、翼のないジャバウォックは槍のようなトゲを持つ姿で石化して受けきりに掛かった。
大半は耐えたけど、いくらか砕かれていった。でも耐えた個体は石化を解くといきなり高速で山肌を駆け上がりだし、なによりハートのジャバウォック以外の飛行する分体ジャバウォックは一気に山頂まで接近する!
こちらの飛行部隊と落石を起こす隊以外の攻撃魔法使いや、雨で使い難いけど飛び道具使いが迎撃に掛かるっ。
「出るぞっ!」
ボルッカが飛行絨毯を浮上させると護衛の妖精の騎士達もそれぞれの方法で飛行を始め、ヒロ兄達も浮上した。
チラっと見るとトルチャさんとミリーは姫将軍様にきっちり張り付いて、ミリーは攻撃魔法で、トルチャさんはへっぴり腰だけど強力そうな魔法のクロスボウを撃って迎撃を始めていた。がんばって!
飛行種はもう向こうも射程になってブレスを撃ち出し、中には急降下で陣に切り込もうとする個体もいて、段々乱戦になってた。
バフや回復は行き届くかな? 取り敢えず私やヒロ兄達には守りや運気アップの定番のバフはきていたけど。
地表種の駆け上りはまだギリ、間がありそう。
私達の隊は空中から、的は大きいハートのジャバウォックへの突入ルートやタイミングを伺っていた。
ヒロ兄達は突入以前に、ぶくぶくフードの出方を見てる感じ。
「ああ、もう焦れったいわぁ!」
今回はバリスタみたいな大きなクロスボウを借りたノッコが、ちょっかい掛けようとする飛行種を撃ち落としながら言う。
「落ち着いて迎撃して下さい。ノッコ。今、温存して攻撃できるのはあなただけですから」
意外と冷静なアドバイスのナンクゥー。
「地表種が陣まで来ると混乱しそうね。飛行種に祠を詰められても厄介だし。ルートが取れないなら、『抜けてみる』よ! バダン!!」
シトリーさんは強引に私達の飛行絨毯と護衛の妖精の騎士の人達とヒロ兄を飛行種の大群の『後ろ』にテレポートさせた! 一瞬でハートのジャバウォックと近付くっ!
背のぶくぶくフードはローブの身体を膨らませるような反応をした。
「ちょっと人数多かったっっ」
フラフラになるシトリーさん!
「プフポハッシュシュムッッ!!!」
声が甲高いけど、巨体だった時と同じ鳴き方のハートジャバウォック!!
特大の毒の炎のブレスを吐いてくる!
「落花流水」
水の壁を作って防いでくれるナンクゥー!
後ろでは飛行種達は慌てたけど、遅いもんねっ。
「ボルッカ、もうちょい接近して!」
「合点っ!」
ノッコに後ろから3割くらい引き返してくら飛行種に威嚇射撃してもらいながら私達とヒロ兄達は、ぶくぶくフードを乗せたハートのジャバウォックに迫った。
「プフポハッシュシュムッッ!!!」
「もうっ、あんたは話になんないから! ぶくぶくっ! 日記読んじゃった! 残してたんだから誰かに読んでほしかったんだよねっ?」
「ぎっ」
「ぎ?」
「(日本語)偽善者。ざ、雑魚」
ぶくぶくフードはそれだけ言って姿を消しちゃった。
「カズネ! ハートのジャバウォックに専念だっ。俺はそんなに優しくないがっ、ぶくぶくは引き受ける!!」
「自分の役目を果たせ、タキガワ妹よ」
ヒロ兄とザセウ王が黒毛のペガサスで間に入るようにしてきた。
「···了解!」
もうズブ濡れで、茄子帽子から芽が出そう。
私は腹を括って、サッチェルバッグの収納鞄からバターナイフのヴォーパルの剣を抜いた。
ヴォーパル剣は虹色に輝いて『矢』の形に変わった。
「ゔぉ、ゔぉ、ゔぉーーーぱるぅぅっっ!!!!」
自分を殺す物に反応し、ハートのジャバウォックは俄然敵意を剥き出しできた。
負けないよっ。今回、カズネさん仕事多いんだから!




