62話 プリンとキノコ
→→→→→妹ターン
「···」
今は魔法使いのカズネさんだからわかる。これは日記の延長戦だ。書かれる前の記憶。魔法適性的に私には見えてるのかな?
でもって、見てられないよ。口開いてた。
「ダメだよ。もう、部屋から出た方がいい。ネオ山梨、ストーリーとかないから。『ただの確率』だから。『その時、その場にいたら』だから。そこから離れて、逃げて!」
まるで聴こえない。そりゃそう。これは記憶。すでに起こったこと。
「くそっ。サイアク! もういいよ」
雑にログアウトして、電源も切って、散らかった部屋の小さな冷蔵庫を開けるけど、空。
「なんだよ! エナドリもプリンもないじゃんかっ」
ざんばら髪の男の子は癇癪を起こしながら、私をすり抜けて、ドアの方にゆき開ける。顔だけだす。
「お母さん! エナドリとプリン無いよっ! 買ってきて!!」
「フリースクールの課題終わったらねっ」
「なんだよっ!」
乱暴にドアを閉め、鍵を掛けベッドに座る男の子。ポ◯モンの縫いぐるみが多い。
「あんな雑魚と偽善者ばっかしの所っ、2度と行かないしっ! 俺、プロゲーマーになるしっっ」
ここでモニターに異様な魔力! 画面が点き、『FAIRY QUEST』と表示される。ああ、ダメ···
「なんだ? どっかでウィルス障った?? さっきディスったヤツじゃないだろな! くっそっ 平日の昼間、カッスしかいないっ!!」
慌ててキーボードに向かう男の子、でも、画面から奇妙なキラキラの渦が逆巻いて噴き出して、
「うわぁああーーーっっ??!!!」
「ダメ!!」
私は渦に呑まれ画面に吸い込まれる男の子の手を取ろうとしたけど、すり抜けてしまって、手を取れなかった。
「···まだ子供じゃんか」
透明の私は膝を抱えて泣いて、その子の暗いカーテンを閉め切った部屋で浮かぶだけだった。
「ハッ?」
私は泣いてベッドで目覚めた。大きなベッドで、ナンクゥーと出しっぱなしの精霊4体も一緒に寝てた。
隣のベッドではシトリーさんがノッコにがっちり抱えられた状態で大きなオッパイに挟まれて苦しげに眠ってる。
「す、スライムに詰め、られた。スライムごときにっっ。画家として、売れ、たかった···うっ、ひと思いに殺れ! なぜ頭部を固定するっ? くっ、なんという強固な拘束っ! 屈辱だわ···」
「くか〜···この猪、美味しそう〜、帰ったら鍋にしよか〜、吉田ジジは藻出汁のビネガーソイソースやなー。ザセウは鍋に落ちんよう気ぃ付けや〜」
「···」
脱力。涙引っ込んだわ。シリアスキープするの難しいわ、私のパーティー。
とにかく!
「お城のキッチンでプディング作れるかな? あとは蓋のある容器と、保冷樽と···」
意味無いかもしれないけど、さっきのを見てなにもしないカズネさんじゃないぞっ。
→→→→→兄ターン
起きた女子チームが「そっち任せた」と城の厨房でプリン? を作りだしたから、男子チームで姫将軍様の元へ作戦を聞きに向かった。
トルチャさんとミリーは俺達と入れ代わりで仮眠を取りにいった。
「眠〜」
「サテュロス族をどんだけ働かせるんだ···」
お疲れさん。
「どうも、日記の影響で妹が、ぶくぶくフードがこちらに来る前の姿を見たようです。プディングを欲していたとか」
「優しいですねカズネさんは···戦いは戦いで備えます。斥候によればぶくぶくフードは、方法は不明ですがどうもジャバウォックの心臓から分体のようなモノを翼のあるモノないモノ、合わせて数百体は作ったようです」
「数百っ」
「そりゃヤバいですね」
「不死身ですぐ復元するモンスターは分体作るのそう難しくはないぞ?」
「最初に戦った巨大なジャバウォックのような圧倒的な力はもう無いでしょうが、総力戦になるでしょう。バンダースナッチ以外の魔獣の守りは減らせませんが、他の増援はすでに到着しています」
消耗戦になりそうだ···
「集団戦で亡骸山は元々不毛の忌み地です。今回は後のことは考えず、最初から私は『アムリタオーブ』を使って解毒の雨を降らせ、支援に徹します」
それならブレスは大幅に弱体化できるか。
「皆さんは2隊に分かれ、ぶくぶくフードと『ハートのジャバウォック』の討伐に挑んでもらえないでしょうか? 勿論、手練れの妖精の騎士を護衛に付けます」
う〜ん。そうなる、よな。
「俺は構わないッス。対策は立ててみたんで」
「ありがとう、ヒロシ」
「いや、まぁ」
今回、ちょいちょい『勇者っぽいシチュエーション』多いな。
「オイラは飛行絨毯を使うからハートのジャバウォックを担当しよう」
「しょうがない、俺様もヒロシに付いてやろう。他の者はぶくぶくフードの異能に対処できないだろうからハートの方にゆくといい。ただ念の為、ヴォーパルの剣の一欠片はヒロシは持ってゆけ、遠雷の主がなにか仕掛けてくるかもしれないからな!」
遠雷の主。今の所、直接的な関わりは感じてない。
「切り離せるんッスね」
俺はペーパーナイフ型のヴォーパルの剣を取り出し、試しに『ちょっと千切る』イメージで摘んで引っ張ってみた。
「お?」
少し分割されたヴォーパルの剣は『小さな金属の牙』に変わった。残った方の剣の大部分はペーパーナイフから一回り小さなバターナイフに変化。
「ふふん。さしずめ、『仔猫の牙』てとこだ。失くすなよ? ヒロシ」
「うッス」
それから姫将軍も一緒に、一度病床の妖精王の見舞いにゆくことになった。
が、途中の廊下で取り巻きを引き連れた2つの一団が俺達の前に立ち塞がった!
「これはこれは姫将軍とザセウ王、おや?『外なる国』の野蛮人も2匹いますね」
「まったく! ヴォーパルの剣をくすねるなんてっ、手癖の悪い野蛮人ですこと!! 今回の件も手柄がほしい姫将軍自作自演だという噂もありますわよ?!」
過剰の豪華な格好をした男のハイランドピープルと女のハイランドピープルだ。
「私の弟と従姉妹です···『緑の公爵』と『真夏の婦人』。激励、ありがとうございます。私どもは妖精王陛下に出陣の報告に向かうところです」
「どさくさに父上に取り入るつもりだな!」
「なんと卑しい! いと気高き伯父様が臥せられたのも何者かが一服盛ったという噂もありますわ!!」
こんなストレートに突っ掛かってくるもんか?? 俺とボルッカは鼻白んだ。姫将軍も端正な口元をキュッと強く結んでる。
「面倒だなぁっ、時間無いからこれでも食ってろ!」
ザセウ王は『奇妙なキノコ』を2つ、宙から取り出し念力込みでいきなり姫将軍の弟君と従姉妹君の口に投げ入れた!!
「「むぐっ?! んーっ??!!!」」
物凄い勢いで踊りだす弟君と従姉妹君! 取り巻き連中も大慌てっ。
「『ハイランドダンシングマッシュルーム』だ。口だけのヤツらは、30時間くらい踊っとけっ」
「ゆきましょう。道を開けなさい!」
姫将軍は弟君と従姉妹君の取り巻きを退かせ、俺達と姫将軍のお付きの者達は、悔しげに恨み言を喚き散らしながら踊りまくる2人をその場に残し、先を急いだ。
俺もボルッカも姫将軍もザセウ王も、振り返らずにちょっと笑っちゃったさ。




