61話 姿を失くした来訪者
→→→→→兄ターン
書き出しから読み辛い日記をどうにか読み解いた。
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ようやく、日記を、日記を書けるようになった。20年? 20年と俺は思った。掛かった。
あの日。俺はゲームをしていたら、取り込まれて、この世界にいた。
隠れる力。ある。
それでもここは、人間のいられる所じゃなかった。俺は。俺が? 元の身体を失くした。沸き立つ。考えられるようになるのに5年。5年と俺は思った。掛かっている。
それでもそれでも、
俺は、来訪者の記憶を食った、ただのモンスターなのかもしれない。
誰も俺を知らない。俺も。
俺は隠れるだけ。
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俺とカズネは絶句した。
「···ぶくぶくフードは、おそらく手形のフェアリーコインを持たずに妖精界の方に来てしまった、来訪者だ。変異で身体を失くしている。当初は混乱していたみたいだ」
「カトウより詰んでる、かも?」
仲間達も兵達も多くは予想していても、気まずさを感じているようだった。
さらに読み進めると変異ではなく孤独と、生活の不安定さや、もはや人ではなくなっていることへの違和感に徐々に混乱の度合いが増してゆき、恨み辛みだけぎ殴り書きされ、ついにはなにを書いてあるか読めなくなっていった。
カズネは途中から泣くばかりだ。大会は避けていても朗読とかやってたもんな。
俺達は伝えられる範囲で日本語を翻訳して仲間や兵に伝えた。
「魔法的にはもっと上手くやれたと思うけど、錯乱気味で1人じゃね。『強い異能』が孤立を成立させてしまったのがよくなかったと思うわ···」
シトリーさんの意見はもっともではあった。
ネオ山梨より魔力と魔法の品で溢れる妖精界からスタートだ。やりようによっては文字通りチート転移者のルートもあったのかもしれない。
ゲーム好きのようでもあったし···
カトウとはまた違うパターンだが、やるせない気はした。
野営地に戻った俺達は、姫将軍様や側近に報告を済ませた。
ぶくぶくフードの素性。
敵意の理由。一連の犯行に遠雷の主が絡んでいるかは不明で居場所もわからなかったが、正体不明の通り魔相手ではなくなったことや、現時点でこれ以上に厄介な背景は見当たらないことは収穫だった。
「ぶくぶくフードの所在は探知できませんが、ジャバウォックの心臓なら妖精城まで戻れば方法があります。タキガワ兄妹とその仲間達は一緒に来てくれませんか?」
「ザセウ王とその仲間達な!」
「ザセウ王様と皆さん、でしたね」
苦笑しながら言い直す姫将軍様の申し出を断る理由はなかった。
移動は野営地内で管理されている直通の転送門で行う。俺達は姫将軍と共に、『姫将軍の護衛保佐』名目で一応トルチャとミリーも連れ、円形の門へと入った。
ふと気になって手形のフェアリーコインを手に取ってみる。
「手形コイン?」
「うん」
カズネも自分のを見た。
何気に入手してるが、こういった物を手にするまでの道筋。若い頃のイケイケだったらしい吉田さんの活動を含めて、それ自体が1つ力なのかもな。
光と共にヴゥンッ! 空間が歪み···
→→→→→妹ターン
私達は立派な装飾の魔力灯が付いた城の地下室? のような所に転送された。
「(日本語)電気風呂に入りながら強めのエレベーターに乗った気分」
「(日本語)それな」
エレベーターはともかく、小学生の頃までは「うひょーっ」と喜んで親について行っていたスーパー銭湯のビリビリ風呂と結び付けて言ってみた。
キッズの頃はわりと毎日大冒険だったけど、キッズじゃなくなってからコンカフェみたいな格好で『こういうこと』始めると、命のやり取りや哀しみに触れる機会が多くて、カズネさんはツラいよ···
「ゆきましょう。次の行動の方針が定まったら、ザセウ王と皆さんは休んで下さい」
姫将軍様は済まなそうだった。小休憩以外は実際動きっ放しだもんね。ヒロ兄とか稽古終わりからずっとじゃないの?? 昭和のサラリーマンじゃないんだから!
「俺様、上に乗ってるだけだけどな」
「つか、ナンクゥー歩きながら寝てんぜ?」
「ZZZ···」
「喋らへんと思ったわ〜」
「俺、護衛より楽団の仕事がいい」
「今じゃないよ」
とにかく私達は姫将軍様の後に続いた。
通された部屋には『6本の槍に倒される魔神』の像が中央に置かれてる。
それを囲むように5体の魔獣像が置かれ、さらにもう一つ像の崩れた台座もあった。破片からするとジャバウォックだね。
どれも魔力を感じる···
「中央の像は遠雷の主です。この部屋は単なる飾りではなく、私が許可すれば居場所の探知に利用することができます。シトリーさん協力できますか?」
「かしこまりました姫将軍様」
「ありがとう、まずは許諾を。ジャバウォックよ。その黒く影に光の楔を!」
姫将軍は短い輝く錫杖を振るい、これに崩れたジャバウォック像が魔力を高め浮遊しだした。
シトリーさんと、姫将軍のお付きの魔法使いの方々がその前に集まり、魔法で破片を使って額縁を造ってそこに印が光る地図を映しだした。
「姫様!『亡骸山』ですっ」
「2体目の封印魔獣『バンダースナッチ』の墓所の側です!」
「執拗なヤツ!」
「反応は一箇所だけど周囲に弱い反応が多数ある気がするわ···これは?」
魔法使い達はどよめき、シトリーさんは思案顔になった。
「どうやら、ぶくぶくフードの次の狙いはバンダースナッチのようです。現地の騎士団に使い魔を放ち斥候を出させます。増援も送りますが、一旦、休みましょう。私も、少々」
フラつき、お付きの人達や今は護衛のトルチャさんやミリーも慌てた。
「休憩だな。さすがに俺も今、槍を振るったらスッポ抜けそうだ」
「私も、限界っ! 頭の中で猫がフラダンス踊りそう」
「どんな心理だよ···??」
ニュアンスね! とにかく全体的に疲労困憊な私達は、またもらったエリクサーを飲んで装備を城の妖精の鍛冶場は裁縫部で調整してもらってる間に、特別な薬湯で湯浴みをして用意された部屋で仮眠を取ることになった。
疲労とエリクサーと薬湯と高価そうなベッドの効果で吸い込まれるように私達は眠りに落ちていった。
···ゲームの音?
気付くと私はゲーム画面以外は学習机の明かりだけの部屋に浮遊していた。身体は透けてる。
「くそっ、足手まといなんだよっ! ランキング下がるだろ!! ヘタクソはソシャゲで貯金溶かしてろっっ」
チーム対戦のサバイバルなゲームを、小学生くらいの不健康そうなお洒落でじゃない感じで髪伸びちゃってる男の子が悪態つきまくりながらゲームをしてた。




