64話 雨の中の戦い
→→→→→妹ターン
ナンクゥーの水の守りだけでなく、大き過ぎる心臓入りの透けた胴に対して頭や手足や尾が小さ過ぎることもあって、ブレスが上手く当たらないって考えたらしいハートのジャバウォックは代わりに『毒の鬼火』を自分の周囲に何十個も発生させて放ってきた。
「プフポハッシュシュムッッ!!!」
必死で飛行絨毯を操って避けるボルッカ。まだダウンしてるシトリーさん。ナンクゥーはいつでも直撃を避けられるようにウンディーネにブルーポーションを振り掛けたりしてる。
ノッコは後ろから取って返してくる飛行種にクロスボウを撃ってるけど、全然間に合わないっ。
私達の護衛の騎士団はハートのジャバウォックに牽制してくれてるけど、すぐ復元するから正直あんま意味ない感じ···
ヒロ兄は、
「こっちもヴォーパルの欠片を持ってる。構わないなら上から今度こそっ、ズブ! と行くぞっ?」
「オイっ! ぶくぶく!! コイツは『ドラゴン殺したい症』を発症した異常な来訪者だ! 俺様が言うんだから間違いないぜっ」
煽りまくりだけど、ヒロ兄達は高度を上げでずっと姿を消してるぶくぶくフードを引き付けてくれてる。
考えろ、私。
飛行種阻止は間に合ってない。私達に付いた妖精の騎士団は無駄打ちになってる。ヴォーパルは矢に変わった。ノッコは強力なクロスボウを使ってる。ナンクゥーはまだ防げる。
よし、別に難しくない。私が判断して仕切るのに慣れてないだけ。
カズネさんはやればできる子なはず!
1回大きく息を吐いて、吸う。
「ボルッカ! シルフ像で私達の護衛の人達まで声届かせられる?」
「おお? ちょっと雨対策甘くなるが、やれるとは思う!」
「ナンクゥー! ウンディーネのケアが済んだらシトリーさん介抱してあげてっ」
「やりましょう」
よし、シトリーさんで保険も掛けた!
「ボルッカお願いっ!」
「おう!」
風の守りが薄くなって高速飛行のせいで解毒の雨が結構激しく当たるようになったけどっ、風が散って護衛の人達まで通ったのは魔力の流れで見えたっ!
「皆さん! 取って返した飛行種対策お願いしますっ。ハートは私達でっ!」
「「「了解!!」」」
私達の護衛の騎士の皆さんはそれぞれ翼や飛行モンスターや飛行絨毯を駆って、飛行種対策に回ってくれた。これで少しは持つはず!
と、振り返った拍子に見たら地表種がもう山頂の陣まで到達し、戻って来なかった飛行種は姫将軍様の本陣やバンダースナッチの墓所にまで達してる! ヤバっっ。
「もういいな? 回避し辛いっ」
ボルッカがシルフ像を再調整して周囲の雨足を和らげてくれた。
「ノッコ! ヴォーパルの矢をっ。私がムートでフォローするからっ」
「任せときっ!」
「ボクがチャンスを作りましょう」
シトリーさんに貰い物のエリクサーをガブ飲みさせ終わったナンクゥーが言ってくれた。
よ〜しっ、段取りはつけられた!
「プフポハッシュシュムッッ!!!」
改めて毒の鬼火を撃ってくるハートのジャバウォック。もう避けるばかりじゃないぞ?
「大渦の、落花流水」
周囲の解毒の雨も取り込み、すり鉢状の渦で鬼火を打ち消しながらそのまま渦の底からハートのジャバウォックに叩き付け、押し留めるナンクゥー!
復元しようとしも頭部を潰され続けるから判断できなくなるハートのジャバウォックっ!
チャ〜〜ンスッッッ!!!!
「ボルッカ!」
「あいよっ」
素速く飛行絨毯を渦の面を避けた側面に回り込まさるボルッカ。
「ノッコ、合わせてね!」
「うん!」
私はビッグクロスボウにつがえられたヴォーパルの剣に魔力を呼応させ、魔法式を編む。
「今!」
「よっしゃっ」
「ム」
射撃に念力を合わせて倍速にしようとしたら、透けたハートのジャバウォックの胴のこちら側の側面に、多数の『目』がニョキっと生えて凝視してきた! ぎょえ〜っ?! でも、もう撃つから!!
「ムート!!」
放たれるヴォーパルの剣! ハートのジャバウォックは『視認』したその矢を鬼火で撃ち落としに掛かるっ。
それを私が念力で避けるぅーっっ!!!
ドスンっっ!!!
矢は透明の皮膚を貫き、虹色に発光し、一瞬で周囲をガラスみたいに変えて砕き、心臓にも刺さってこれもガラス化させていったけど···ちょっと浅いっ。勢い落とされたからっっ。
「プフポハッシュシュムッッ!!!」
ナンクゥーの渦を打ち払い、ガラス化しながら毒の炎を噴き付けてくるハートのジャバウォック! ナンクゥーはダウンしてるっ。迫る炎! 回避が間に合わないっ。
「バダン!」
ハートのジャバウォックの真下に私達はテレポートした。シトリーさんだっ。
「矢の先が刺さったまんまねっ。もう一撃入れたらたぶんいけるわ! カズネ、すぐ回復っ。やり直し!」
「ひぃ〜っっ」
私は半泣きで『ハイマジックポーション』を飲んだ。
すぐヒロ兄に合流したかったんだけどっ!
→→→→→兄ターン
絨毯のシルフ像より風の守りの調整はムズい。ズブ濡れもいいとこで大きく息を吐く、黒毛もペガサスも緊張してる。
「落ち着けよ、ヒロシ。逃げずにいるってことは暗殺向きの武器なりなんなりも備えてるぞ?」
「うッス」
護衛の妖精の騎士の皆さんもそれぞれ背中合わせのようにして構えてる。居てくれるだけで、ヤツには凄く邪魔だろう。
俺はさっきからずっとウィッチサインを発動しっぱなし。魔力が溜まり過ぎるから、チャージジェムももう『4個目』がフル充填だ。20個持ってるからまだ余裕はあるが···
「っ!」
下で動きがあった。カズネがハートにヴォーパルの剣を撃ち込んだようだが、まだ浅いか?
「下は時間の問題だ。ぶくぶくものんびりしてられなくなったぜ?」
「···」
シルバースピアを構え直す。意識を研ぎ澄ませる。
ウィッチサインでヤツの『消える力』は捉えられないが、この魔力に溢れた姫将軍の解毒の雨が降り注ぐ環境で『途切れ途切れに、ぶくぶくとして人型のなにも感じない空白が存在し続けている』。
感じないってのは適切じゃないか? なにも認識できない、なんなら認識できないことも上手く認識できてないが、その周囲全体を探知吸収してるから結果的に認識できていないと認識できないではない。それでも途切れ途切れだ。
ヤツが戦闘型の思考で鍛錬を積んでいたら俺なんかの付け焼き刃じゃ手がつけられなかったろう。
カトウもそうだが早々チートなんて使いこなせない、いや、戦闘の為に徹底的に活用する思考に至る者がレアなのかもしれない。
仮にいたとしても、ただそれだけのヤツもそれはそれで脆い気はする。
「っ!!」
槍を持つ斜め下の死角に泡立つような認識不能の魔力を吸えない空間が唐突に現れた。
そこは認識できないのでその下の空間にホップリングを発動させて、ぶくぶくフードを真上に弾いた。
「おっ、う?!」
姿を現すぶくぶくフード。右手には凶悪そうな力の籠もった短剣を持ち、捲れたフードから沸き立つ半透明の両生類のようなガスのような人影が見えた。
俺は黒毛のペガサスからエアステップで飛び上がり、石突ではなく穂先を構えるが、人なら急所になる場所は避ける。
ドッ!
俺はマシュマロでも突いたような手応えの胴に穂先を打ち込んだ。
「でかしたヒロシ!!」
ザセウ王が『豆』をぶくぶくに投げ付けると、芽吹いた豆から出た蔓がぶくぶくを縛り上げ、魔力を吸い出した。
「俺様達が魔族対策に品種改良した『超ハイランドマジックドレインソラマメ』だ。魔力スカスカになるぞ?」
「うっ、ううっっ」
「ぶくぶく、日記を読んだりお前の昔の部屋を妹が覗いたのは悪かった。エクスポーションとプリンがある。これで勘弁してくれないか?」
エアステップリングに乗ったまま俺は槍を抜いた。血の代わりにガスの出るきっともう年老いてもいるだろう彼に言ってみた。




