48話 距離感ムズい
→→→→→兄ターン
「これは困りまったな。···モルテマ坊ちゃま、私は御父上の命を受けてきたゼイラーン国の者です。この者達はこの地の冒険者。カトウが腹立たしいのはわかりますが、あなた方の秘匿領に戻って頂けませんか?」
普通に俺の後ろからヒョコっと出てきて諭しだす、ノーダメのミノベさん。
モルテマという名らしいハーフヴァンパイアは浮遊したまま面倒そうな顔をした。
「父上には使い魔をすぐやるから、そちらの筋は気にしなくていい。それより、ヤツの眷属と魔法遺物を使った黒血同盟に吾輩の手勢はほぼ根刮ぎやられた! そもそもヤツは最初、吾輩に取り入る素振りを見せたのだっ。その上で、ハメられて詰められたのがっ、断固っっっ、許せんっ!!!」
思ったより直接恨みありそうだな···いや、それより、
「モルテマ! 俺達も連れてゆけっ。眷属になってやる!!」
「俺達と人間を吸い殺しまくろうっ!」
「ギタギタに苦しめてからねっ、キャハハハッ!」
「最強の吸血軍を作りましょっ? 嫡子に目に物見せてやるのよ! ホホッ」
他の吸血種族の囚人達が騒ぎだしたっ。やっば。
「ちょっとさ、まずは地下から出ないか?」
俺は促したんだが、
「···馴れ馴れ馴れ馴れ馴れ馴れ馴れ馴れ馴れ馴れっっ!! 馴れ馴れしいしいぞっ、低級悪食どもっっっ!!!!」
爪で自分で腕を傷付け、傷から出た血を凄まじい魔力で逆巻かせるモルテマ!
「よし伏せよう」
軽い調子でミノベさんに促され、俺達は慌てて床に伏せた! 直後、
ザババババッッッ!!!!
血の刃が他の全ての牢を襲い、悲鳴と断末魔を響かせながら吸血囚人達を皆殺しにした。
「望み通り眷属にしてやるが、『吸血ゾンビ兵』として使ってやる! 貴様達の精神相応になっ」
囚人達の無惨な死骸は大量の血液と共にモルテマの影に引き込まれ、消えてゆく。
「即席だが、手勢は補充した。これで文句あるまい?」
ドヤ顔のモルテマに、ミノベさんも折れるしかなかった。
地上に上がる途中で「ギルドと国軍の上には話は通ってます。あとはよろしく」とミノベさんは姿を消した。
黒血同盟を制圧し終えていた衛兵達の前に日傘を生成したモルテマを連れ出した時は肝が冷えたが『解放済みのヴァンパイアロードの子』に突っ掛かる余裕は衛兵達にもなかったようだ。
案外、すんなり通してもらえた。他の冒険者隊の反応はまちまちだったが、普段姿をほぼ見せない頭巾を被ったギルドの調査部の人達が寄ってきて「リラキア支部までは護衛します」と言ってきて、いそいそと大きな飛行絨毯を2枚広げだした。
1枚は俺達用。
「わざわざ1回町に寄るのか? 吾輩、面倒であるぞ?」
「坊っちゃん、1回話は通しときましょう」
なんかそんな流れだし。
「ぶっちゃけどの勢力に袋叩きにされても不思議ない感じですぜ?」
俺とボルッカ、2人掛かりで納得してもらい、なんとか飛行絨毯に乗せた。調査部の人達の絨毯と共に高度を上げる。
衛兵隊はもうモルテマに構わず、魔法道具等で拘束した黒血同盟の連中の護送準備を始めていた。
冒険者連中は隊ごとに固まって、安否確認に回復や休憩雑談を始めていた。
俺ら一緒に動くと事情を把握しないまま『吸血鬼を擁護したグループ』と見なされるから、時間をズラすつもりもあるんだろな。
「カトウは許さないけど、黒血同盟はほっとくの?」
ノッコ以外はたぶん皆思ってたけど素で聞き出すカズネ! 我が妹よっ。
「吾輩達は人間より寛大だ。『獲物が反撃することは受け入れている』のだ。『変な絡み方』をしてこなければなっ!」
「距離間ムズいね···」
「そうだ。まず易々と吾輩達を招かないことだな。ククク」
それなり怪しいが、取り敢えずヴァンパイアロードの私生子、モルテマをリラキアまで連れてゆくことになった。
→→→→→妹ターン
リラキアのギルド支部にモルテマ坊っちゃんを預けたんだけど、「一応話がはっきりするまでオイラは残っとく」とボルッカは支部に残ることになった。
ちょっと悪いけどもう日暮れで、結構疲れてる私達は先に宿に戻ることにしたよ。
「さすがに疲れたね〜。お風呂入るの億劫だよ」
「お風呂上がりにストックの中で一番高いアイスを食べましょう」
「アイスもええけど、御飯食べたいねん!」
「よっし、報酬は結構貯まってきてる。俺は飯のあと『ハイポーション(ちょっと高い回復薬)』を1本買ってボルッカに差し入れにいくよ」
「ヒロ兄、まめ〜。でもお願いねー」
「ボルッカの分のアイスも取っておきましょう」
「ほなウチ、滋養円盤1枚あげるわ」
てな具合で、お風呂、御飯&アイス、出掛けるヒロ兄。を経て、私達は部屋の衝立の『女子エリア』のベッドで爆睡していた。
···しばらくして夜の闇の中、怪しい気配! 小柄なモンスターの影が私達のベッドスペースに!!
「ククククッ、吾輩を部屋に『招く』とは軽率であるぅ〜っっ!!!」
「キャーッ?! ラスタ!!(全力)」
「なんやっ、敵か? どすこい!(正拳突き)」
「寝起きの、花天月地(石の矢連打)」
ドカバキゴシャッッッ!!!!
小柄なモンスター、モルテマ坊っちゃんはスプラッタな姿となった···
「えっ?! 坊っちゃん??」
私達が困惑していると、いつの間にか普通にいたヒロ兄がため息つきながら、ミノベさんが使ったのと同じ血の高級ポーションをスプラッタな坊っちゃんに振り掛けた。
ジュッ、と吸い込み一瞬で復活するモルテマ坊っちゃん!
「ひゃっほうっ」
「坊っちゃん。この竜の血ポーション限りがあるんで、余計なことマジやめて下さいッスね?」
「軽く挨拶しただけだが、冒険者女子の民度の低さに吾輩、絶句である」
「勝手に女子エリアに入るからですぜ?」
ボルッカもいたよ。疲れた顔でアイスを挟んだ滋養円盤をもしゃもしゃ食べてる。
「ボルッカ、おかえり」
「おう。なんだかんだでカトウの拠点に踏み込む時、途中までモルテマ坊ちゃまの護衛、つーか露払いを俺達が担当することになったぜ?」
「親御さんには連絡済みだよ。カトウとその護衛に直に当たるのは危険過ぎるから、C級の俺達は避ける。坊っちゃんにはなるべく生け捕りをと頼んではいる。頼みますよ?」
「クククッ、気分次第である!」
怪しい···大丈夫かなぁ?
「それより女子エリアから出ていってもらえますか? 見た目はお子ちゃまでも『噛む人』はお断りです」
「ナンクゥーとカズネはウチが守るでっ!」
「ほほう、面白い。一度招かれたからには、あー??」
ヒロ兄に、ひょいと抱えられて女子エリアから退散させられるモルテマ坊ちゃん。
「まぁ、実際の突入の段取りは衛兵団とギルド次第だぜ? 2〜3日はリラキアで待機だな。なんか要望なりアイディアがあるなら早めにな。オイラは疲れたからコレ食って風呂入って寝るわ。ヒロシも休めよ?」
「ああ。坊っちゃんは夜行性ッスか?」
「動物みたいに言うなっ。吾輩は『夜型』である。ククク」
「ギルドの売店でパズル買っといたんで朝までやってて下さいッスね」
「うわ〜、かつてない程、つまんなそうな暇潰しのの提案である!」
とにかく男子達は女子エリアから退散した。なんだかなぁ。




