47話 ロードの子
→→→→→兄ターン
日傘越しの異世界の空と、眼下の大地は夢の中の出来事みたいだ。
···俺達が逮捕協力した狼商人の尋問結果に加え、他の隊やギルドの調査部、ここらのロングフットの国の間諜等の調べも合わせると、カトウの背景は、
吸血種族を狩る各種団体に多額の寄付をしている。
禁制品の争乱期の魔法遺物や改造遺物を専門マフィアや仲介業者に売り捌いている。
『機械の神』を信奉するカルトから支援を受けている。
黙々と手勢を増やし、金を稼いで吸血種族弾圧を進めているだけに見える
異能の性質や財力的に地球にもう還れそうなもんだが、その様子もない。
といったところだった。
「自分の経緯や能力にかなり引っ張られてるが、こりゃ、悪い方に居着いちまってんな。特定の国に捕まるとヒデェことにもなる。生け捕りならギルドで引っ張った方がいいんだろが」
俺達はボルッカお気に入りの飛行絨毯をまた借りて他の隊と共に飛んで移動している。
魔除けの『シルフ像』が固定台座に付けられてる。風の結界で守られてるが陽射しは強いので全員日傘を差していた。
かなり大きな物で全員乗ってる。カズネ、ノッコ、ナンクゥーは最初は面白がってたけど、さすがに『2時間』乗ってると飽きてしまい。3人で固まってドリアードの蔓で一応ベルトをして眠っている。
やたら時間が掛かるのは強かったり群体の飛行モンスターの縄張りを避けているからだった。
俺達はリラキアに一番近い吸血種族狩りの団体の1つ『黒血同盟』の固定野営地を目指していた。カトウと最も近い団体だ。
超武闘派の連中と『交渉』する衛兵の護衛役だ。こっちの世界での経験上まぁロクなことにならない。
「生け捕り···遺跡での様子も相当だったし、そんな穏便にいくもんかな?」
「ロングフット国や、ギルドの事務方は金にも戦力にもなるカトウは美味しいと思ってる。がっ、正直現場はもうここで処した方が後腐れない、てのが大半だぜ。カトウの異能は『効率良過ぎる』。ヤツはこんな形で見付かるべきじゃなかったんだよ」
「···」
クラフト系能力者の吉田さんがカトウを『詰んどる』と言った意味がわかってきた。俺とカズネ、無能力でよかったのかもしれない。
黒血同盟の拠点に程近い、廃棄野営地を無理から拡大させた仮設拠点で衛兵団と合流する。結構な規模だ。辺境から出てくると国力感じる場面多い。
「無許可の吸血種族狩りは非合法であるが、一定の支持はあり、実際、抑止にもなっている。冒険者諸君には可能な限り生け捕りを求める!」
衛兵団の指揮官、クエストの依頼書面と違って交渉する気ゼロ過ぎて清々しいくらいだ。
細かい段取りを確認し小一時間の小休憩に入った。
モソモソと5人で輪になって蜂蜜ハーブ茶と滋養円盤で小腹を満たしていると、
「君達、お茶屋の捕物でもいたね」
「?? ···あ! 店員に化けてた人ですか?!」
特徴の薄い、身軽な衛兵さんだ。
「私はミノベ。実は国の間諜なんだよ?」
声を潜めてくるミノベさんっ。俺達は困惑した。
「黒血同盟が吸血鬼氏族『ビリアファミリー』のロードの私生子のハーフヴァンパイアを拉致していてね。ビリアファミリーのロードから救出依頼が密命で出ている。衛兵団は捕虜の吸血種族は皆殺しの命を受けているから、ギルドが先に確保した体で保護したい」
「「「え〜?」」」
「いや、上で決めたとはいえ吸血鬼と取引したのは公にできなくてね。間諜も腕利きをもう何人か来るはずが、色々立て込んでしまって。協力してくれないかな? 君達も、帰還希望の来訪者なら、国の間諜とはツテがあった方が有利だろう?」
「「「···」」」
筒抜けだな、と。
協議の結果、引き受けることにした。
どさくさで捕虜皆殺しってのもどうなのかな? てのもあったしさ。
→→→→→妹ターン
黒血同盟は乗用飛行モンスターの『ヒポグリフ』を使うから、街道から全然離れたところに唐突に砦型の野営地を組んでいた。
戦闘が始まるか合図があれば私達冒険者組は参戦する手筈なんだけど、
ドゴォッ!!
いきなり前後の城門に砲筒撃ち込む衛兵団ーーっ?!
交渉の『ポーズ』もしないじゃんかっっ。
というワケで私達もそのまま参戦! 本来後援組は飛行絨毯に乗って援護する手筈なんだけど、ミノベさんの依頼を受けた私達は全員陸戦ーっ。
「眠りの、百花繚乱」
戦闘になった場合、冒険者や衛兵団の対応者がデバフを初手で掛ける段取り。ナンクゥーの眠りの他に麻痺、放心等々、行動不能系の状態以上を砦の地表全体に掛ける! どれが引っ掛ってね。特に使役モンスターは一網打尽でよろしくねっ。
という魂胆なんだけど···
「吸血狩りは3割! 使役は9割入った!!」
探知系の人が知らせてくれるっ。結構利いた、しゃっ。
「ドガラ!」
5人全員に守備魔法を掛け、あとはドガラを維持して地下牢までディフェンドウィップで身を守って皆に遅れないことが私の仕事!
砦に入ると大乱戦っ。黒血同盟の人達はコスプレ度強めのいかにもバンパイアハンターな黒尽くめ、マント、鍔の帽子の格好。
でもただのレイヤーさんじゃなくて、
「シャアオッ!!」
奇声をあげて大鎌振り下ろしてきたりするっ。ひょえ〜。取り敢えず鞭で桶を掴んで死角から膝裏に投げて膝カックンしとく!
あとはヒロ兄とボルッカとノッコがボコボコにしてくれた。
1人1人はたぶんCからC+くらいの手練れで吸血種族との戦いに特化してるんだろうけど、私達吸血鬼じゃないし、物量と奇襲で圧倒していった。
と、乱戦の中、物陰からミノベさんがちょいちょい、と手招きしてきた!
私達はナンクゥーにウンディーネで『水の弾』を連射して威嚇してもらいながらそっちに向かった。
「地下へ入る。鍵や罠が多いから鍵師には手伝ってもらうよ」
「任せなっ」
私達は隠し通路からランプの灯る酷い臭いの地下牢のフロアに入った。殿はノッコとナンクゥー。先頭で罠や鍵の解除や探知に専念するミノベさんとボルッカは私達瀧川兄妹でフォローする。
地下には骨の兵士『スケルトン』が番兵として配置されてたけど、今の私達ならどうってことない!
蹴散らしてくんだけど、それよりも、
「出せぇーーっっ!!!」
「人間んんっっ、血ぃ、吸わせろぉーー!!!」
収容されてる吸血種族の人達が怖過ぎるっ。
「ターゲット以外は極刑不可避の大量吸血殺人鬼ばかりなので。無視して大丈夫だよ?」
にっこり言ってくるミノベさん···
「そのハーフヴァンパイアの人は大丈夫なんですか?」
「ビリアファミリーは国と交渉できる程度にはお上品だからね」
お上品な吸血鬼??
よくわかんないよ、と思いつつも、目的の牢の前に来ちゃった。
厳重な鍵と罠を2人が解除した牢を開けると手品のショーみたいに剣を何本も刺された棺があった! 血塗れなんだけど···
「処刑済みに見えるんッスけど?」
「刺さっとるやん」
「いや、ハーフとはいえヴァンパイアロードの血を引いてる。これくらいじゃ死なないし、死ねないものだよ」
ミノベさんは収容ポーチから凄い魔力の赤黒い液体の入った小瓶を取り出した。
「『竜の血のエクスポーション割り』だ。一応守備魔法は維持してね?」
「しますけどっ」
ミノベさんはやんわり警告しつつ、小瓶の中身を串刺しの棺にぶち撒けた!
ジュッ!!
焼けたフライパンに水掛けたみたいな感じでそれは吸収され、次の瞬間っ、棺は炸裂!! 飛び散る破片はドガラでガード! ミノベさん大丈夫??
血なまぐさい蒸気の中、背に蝙蝠の翼を生やした地球だったら小学生くらいの少年が身を屈めて裸で浮遊していたけど、すぐにハーフパンツのゴシック礼服にシルクハットの装束が血の蒸気から生成されてゆく。
「···吾輩の為に、大義であった。では、とっととカトウをぶち殺しに行こうか?」
ロードの私生子は、その赤い瞳を開いて長めの犬歯の口でニッと笑ってきた。




