44話 バカバカしいことになるだけだわい
→→→→→兄ターン
ギルドの教練所の特別室を借りて、稽古着の俺とカズネは難度高めの特訓を受けていた。俺は木製の槍、カズネは革製の鞭だ。カズネはシトリーさんのお古のマナブレスレットの使用は許可されてる。これないとカズネ、すぐバテるかんな。
俺のターゲットは棒と球体で構成された青い奇妙なはゴーレム群。球体の一部が発光している。
「エアステップを多用する竜騎士職は前衛職でありながら魔力消費が大きい。ホップリングやドラゴンハントも消耗する。そこで接触することで魔力を奪う『ウォーロックサイン』スキルの活用が長丁場では必須となる!『コンパストレーニングゴーレム』の発光部位に蓄えた魔力を吸収し尽くすことで、物理耐性は解除される。吸える限度もあるから余剰分を使い切りつつ、全個体撃破するのだ。ヒロシよ! ちなみに『妹も攻撃対象』になっているからなっ」
教官は例によってオッシモ先生だ。
「うッス」
妹の兄としては気張らないとなっ!
で、その妹は赤いコンパストレーニングゴーレム群と対峙していた。身体の球体は光らず、代わりに頭部に魔力の光で数字が『5』と記されている。
「守備魔法『ドガラ』で5回ガードすると魔力耐性が解除されます。鞭に牽制や移動補助も上手く使って下さいね」
カズネの教官もいつも通りシャウシャル先生だ。
「ふぁい···」
覇気ない妹っ! シャウシャル教官の方がちょっと困惑している。
説明しよう。多少タフになっても、カズネの根っこは『スポ根じゃない方の文化部員』だ!
よって、休みや遊びを挟まずに、仕事や特訓が続くと集中力がガンガン減ってく!!
遺跡の『有害そうな来訪者騒動』のあと、ギルドでそれなりに大事になり、若手のC級冒険者は一通りC+級になれるよう緊急特訓が行われることになった(バックレる人続出ではあったが!)。ギムリーに帰ってから、休みなしでそのまま特訓に突入だっ。
そもそもカズネは対人戦が苦手で、それも地球人同士の争いになるかもしれない? だしな···
「(日本語)カズネ、終わったら2日は静養に当てよう。状況の整理ついてないしさ」
「(日本語)ネオ山梨に来てからずっと、進学校で部活もフル頑張ってる感じになりがちなんだ···」
「(日本語)日本語、わたくしもわかりますよ〜。はい、頑張って!」
「来訪者のトラブル云々はなくともB級A級を目指すのであればどの道、特訓は必須! ぼやぼやしてる暇はないぞ?!」
カズネがガス欠気味でも特訓は止まらないっ。2種のコンパストレーニングゴーレムは機動する!
「こんな感じかな?」
エアステップとホップリングを軽く利かせつつ、光る球体部位への攻撃と同時に丸暗記の抽象化した魔力印を発生させて魔力を吸う! うへっ、やっぱ感覚独特。ゾワゾワする。
結構ムズいし。吸収するだけじゃなく攻撃しながら他の動作をしながらってなるとな。
「···わっ、危な! ドガラっ」
先手を取られて慌てて避けながら、覚えたての守備魔法で鱗状の結界を小規模展開させて身を守り、鞭をゴーレムの足に絡めて引いてスライディングで位置替えしたりもするカズネ。
気乗りしなくても、来たばかりの頃とは違う。
「ちゃんと弾くか捌くかしないとカウントしませんからね〜」
「もー! 毎回やんわり難度高いのやらせるしっ」
よしっ、カズネもゴーレムに殴られたくないからしゃっきりしてきた。
「当たることは当たる」
まだ要領を得てないが俺も食らい付いてくぞっ?
→→→→→妹ターン
···はい、4時間たっぷりシゴかれたよ。もうボロっボロっっ。
「お、カズネも終わったか」
「疲れましたね」
「ヒロシはまだなんか?」
特別室近くのロビーで空のポーションとマジックポーションの瓶を持ったままグデっとしてると、稽古着のボルッカ、ナンクゥー、ノッコも特訓終わりの体でロビーに現れた。
「ヒロ兄は居残り自主練。元々こういうの嫌いじゃないタイプなんだよ···」
「だよなー。オイラも、基礎練積む感じでB−候補認定は取れた。クエストに必要なアクセサリーとか補助品の貸与買取交渉とかもやり易くなったぜ?」
「ボクは3属性の精霊運用の基礎練をひたすら。取り敢えず、『砂に埋められたり』『水に沈められたり』『食人植物に食べさせられたり』してきました···」
「ウチは護拳武器の扱い覚えたり、『ハンマースタンプ』スキル覚えたりした! アイツっ、今度会ったらガツン! と言わしたるんやっ!」
うん、ボルッカ隊戦力アップだね。装備も、全刷新する程の資金は無いけど、ワンポイント強化はできそう。ヒロ兄も夕方までには終わるだろうから、買い物はその後かな?
「カトウ! アイツはほっといたらアカンやつやっ!」
「ノッコ。気持ちはわかるけど、アレは相当強い感じだったし、私達と違ってなんかチート持ってるようだし、ギルドの方針決まってから考えよ?」
「そやかてっ···腕伸び夫ぉ〜!!」
また泣くノッコ。
「正直ヤツ1人ならなんとかなりそうだとは思うけどよ、ありゃ、自分の組織を持ってるヤツだ。モンスター討伐とか渡り場を抜けるついでに素材拾う、とか。いつも通りにゃいかないぜ?」
「うーん···」
まだ整理はつかない感じのノッコ。
「取り敢えず、お腹は好きましまね。教練所の食堂の業務用アイスの朴訥さ、嫌いじゃないです」
珍しくナンクゥーの提案で、自主トレにハマった、ちょっと不完全燃焼だったに違いない高校の部活ライフを取り戻そうとしてる気もするヒロ兄を置いて、私達は食堂に向かったよ。
夕方の買い物は私は攻撃力や魔力の乗せ易さはウィッチウィップと変わらないけれど、守備力が高い『ディフェンドウィップ』を購入!
ヒロ兄はヘッドギア兜と鎧とバックラーを『鋼シリーズ』に買い替えた。ネオ山梨の鋼って、鉄を魔法を使った鍛冶の錬成鍛冶で強化した素材なんだよね。同じ重さで硬くなったみたい。見た目もシュッとした。
ボルッカは元々早いけど『クィックブーツ』ていう魔力を込める加速できるブーツを購入! 見せてもらったけど、めちゃはっっやっ!!
ナンクゥーは植物属性のスプリングワンドから木と土と水の属性を合わせ持つ『ヤシの木島のスティック』に買い替えてた。凄い杖だけど、見た目がトロピカルな感じ。
ノッコはお祭りみたいなバーデラ村の服から『戦鼓の装束』に買い替えて、サブ武器用に『鉄の大護拳』を購入。
戦鼓の装束は変わらずお祭りみたいだけど、プロテクターも付いてて攻撃すればする程、攻撃力が最大1,5倍になる魔法の服! 大護拳はおっきなメリケンサックって感じ。
これはC+級判定とボルッカのB−判定いけるんじゃない?
なんて話ながら吉田ハウスに戻ったんだけど、
「チート持ち来訪者と事を構える? よせよせ」
話を聞き付けて2階に土器ゴーレムにおんぶしてもらってきた吉田さんの第一声。
「どうも育ちきってはおらんようだが、若くこの世界で無駄に野心を抱いたチートバカであろう? バカバカしいことになるだけだわい」
吉田さんはリビングのソファに座るとテーブルの籠にあったヨンゴーの実をワシワシ食べだした。
前から思ってたけど、吉田さん、歯が強い!
「戦闘型ではないワシですら、全盛期ならば今のお主らくらいは圧倒できる。この間、無事で済んだのも急に横槍入れられて『ダルかった』だけであろう。悪いことは言わん、退治する主旨のクエストに参加するにしても、周りでフワっとするくらいにしておけ。ノッコも! こうしてギルドに早々バレた時点でソイツはそこそこ詰んでおる。自分で直に殴ることに拘るのはよすことだの」
「···皆を危険な目に遭わすつもりはないねん」
「皆だけじゃなくて、ノッコもね」
「だな」
これ言っとかないと! 自主練ハマってても、我が兄も同意っ。
「うん、ごめん。カズネ···」
よし、皆、一回冷静になれた。ありがとう。吉田先輩。
めちゃ悪い顔で「悪人退治なんぞ自己満よっっ」とか毒づきなぎらヨンゴーの実齧りまくってるけど!




