36話 怪鳥モー・ショボー 前編
→→→→→ずっと兄ターン
古風なネオ山梨のガラス戸越しに見上げると、暗澹たる暗雲が立ち込め、不人気クエストゆえにギルドが気前よく用意してくれた強壮な銀毛種の馬車に揺られる俺達の、陰惨な未来を暗示しているかのようだった···
俺は無事、竜騎士職にクラスチェンジしギルドからC級認定を受けた。
カズネは回復魔法アティを覚えに行ったはずだが『治療に必須だった』として、麻痺魔法の『サティマ』と解毒魔法の『タミス』もセットで覚えてきてC級認定を受けていた。
ナンクゥーもブラウニーを使役できるようになりC級認定。ボルッカもこれまで昇級申請してなかったのもあってC+級認定となった。ノッコに関しては『それほど仕事も訓練もしてないが、試しのオーブのステータス判定がすんごい高くなってる』としてC級認定になった。
『おそらく成長に必要な栄養が長期間不足していたのが補われたのではないか?』とギルドは推測している。
ともかくパーティー全体の級が上がって、町長以外にもギルドから直に依頼を持ち掛けられるようになった。
俺達はその中でも、C級相当でなおかつあまりやったことないタイプのクエストもやってみよう、ということになり、このクエストを引き受けていた。
そう、『怪鳥モー・ショボー狩り』を!!
馬首街道を北西に進み、徒歩なら一晩野営しなきゃならないところだが銀毛種の馬車のお陰で夕方には目的地『ヨス村』に着けた。
ヨス村はロングフット族主体の村だが、どうも北方の領地争いに敗れた人達の子孫の村で屈折しているらしい。保守的な宗派の教会を中心にあまり他のコミュニティと交流していないいかにも息苦しい感じの集落だった。
一カ所だけある。部外者用の馬房に馬と馬車の籠を預け、馬房の宿舎に行く御者と別れ、視線の厳しい村民達に追われるように、俺達は案内の村民についてゆき、村長の家の前まできた。
で、いきなり自警団に囲まれる。オイオイ。
「村長の家に入る前に聖水を飲んでもらう。お前達がモー・ショボーでないと証明しろ!」
聖水の瓶を差し出された。
「被るんじゃなくて飲むんだ···」
致し方ない。俺達は聖水を一瓶、ゴクゴクと飲み干した。燃えるイメージがあるからビビったが、モンスター以外が飲む分には神聖属性の水で、なんか爽やかになるだけだった。
村民のこの対応にはワケがある。モー・ショボーは厄介なモンスターだった。
モー・ショボー! 主に人間の女に変身することで魔除けの影響を受け難くなる鳥のモンスター。通常は管理の甘い野営地を荒らすだけなんだが、どうも十年あまり討伐されなかったらしく、力を付け、大胆にもこの寒村ヨスに侵入し夜な夜な村の男を誘惑して喰い殺して回ってるっ!
ヨス村の人々は疑心暗鬼になっていた。
「村の若い衆が失礼した。皆、もう疲れきっているんだよ」
聖水でスッキリ? してから入った村長宅で、ゲッソリした村長は力無く言った。
「あれ? あんまし甘くないわ」
出され茶菓子に早速パクついたノッコが困惑している。確かに、焼き菓子のはずが、普通のパンだかパイ生地なんだか、になっている。
なんなら茶も濃過ぎだ。煮詰めてる。
「田舎の菓子だから悪いね。ジャムを持ってこさせよう」
給仕兼料理人役は村長の息子さんだったが、こちらも顔色が悪い。一言も喋る元気もないようで、言われた通りジャムの瓶と、ジャムスプーンではなくスープ用の大きなスプーンをノッコに持ってきて一礼して黙って退室していった。
「状況はギルドの調査部の資料を見ましたが、変化はありますか?」
「被害は増えるばかりだ。普段から外部と関わってこなかったツケだね。モー・ショボーは女は狙わない。事態が済んだら、女達には村を復興させ、また減った男を増やしてほしいよ」
「そう、ですか···」
俺達は現状を確認し、今日は一旦用意された宿に向かうことにした。
宿に着くと、単独行動は避けつつ誘惑耐性アクセサリー『修道士の指輪』はしっかり身に着け、普通に湯浴みして着替え夕飯を済ませた。さすがにボルッカも酒は飲まなかったが。
俺達の部屋の中にナンクゥーがブラウニーに空気を取り込ませながら『遮音構造の立方体』に変化させ、その中でミーティングを始める。
「被害者は主に老人以外の成人男性だが、殺害捕食後、逃走する本性を見せたモー・ショボーにそれ以外のカテゴリーの人々も怪我を負わされてる」
「そのあと村からは逃げずにまたここで狩りを続行する、てのは相当だぜっ」
「モー・ショボーは脳を食べておおよその記憶も奪います。さらに高度な個体は人の皮や消化器官も奪うので、聖水を飲ませてもあんまり効かないかもしれません。ボク達やエルフのテリトリーではまず『人に変化するモンスターを弾くこと』を魔除けに組み込んでますが、この村の資金とノウハウでは難しかったんでしょう」
「モー・ショボー、怖過ぎるんだけどっ?」
「でも育たんかったらそんな強くないで? ウチらは頭つつかれてもすぐには割れんし、誘惑されとってもそこで気付くから反撃してやっつけんねん!」
「「「え〜っ?」」」
オーガ族の対処法のタフネスに軽く引きつつ、俺達は協議を続け、明日、朝一で動こうと決まったんだが、夜中に村の教会兼治療院から使いがきた。
「モー・ショボーに怪我を負わされた者達の治療を手伝ってくれませんかっ?」
こりゃカズネの出番だな。
俺達は安全の為、全員で固まって教会に向かった。
「サティマ! ムート! タミス! ポーションと···アティ!!」
カズネは怪我人達にまず麻痺魔法で麻酔を掛け、念力魔法で残った異物や劣化物等を除去し、解毒魔法で殺菌し、ポーションで水分と栄養を補いつつ治癒力も高めて回復魔法で完治させていった。
呻き声や啜り泣きが止み、穏やかな寝息を立て始める患者達。
「ふ〜、これでよしっ。基本の処置がしてあったから上手くいきましたよ?」
マジックポーションを飲みながら一息つくカズネ。妹がいつの間にかヒーラー化してる!
「ありがとうございました。ポーションや解毒薬等も中々揃えられず、回復魔法を使える助祭様も高齢で···それに、ここで手当てを受けてる者達の多くは遺族でして。せめて、身体の傷をと。ううっ」
泣き出す治療院の若い人。助祭見習い、かな?
「大丈夫。私達がなんとかします。あなたも今夜は休むといいですよ」
「ありがとうございますっ、カズネ様!」
「いえいえ」
にこやかに応えるカズネっ。なんか『聖女感』出してきてないか??
等と俺が我が妹に戸惑っていると、
「モー・ショボーが出たぁーっ!!」
外で悲鳴が上がり、俺達は治療院から飛び出していった。




