20話 故郷とアイスクリーム
→→→→→兄ターン
「僕はあなた方同様、最初に幸運にもリコット村で旅の支度を整え、ギムリーに向かいました」
厨房の作業に一段落つけたシンイチさんはバンダナを取って、俺達と休憩室を兼ねた宿のゴーレムの調整室で話す時間を取ってくれた。
ココア(ちょっとスパイシーなヤツ)を淹れてくれていて、いい香りがした。
「しかし、気のいいリコット村の人々は把握していませんでしたが、当時の町長は奴隷商と付き合いのある人物で、僕は身の危険を感じ、すぐにギムリーを去り、それからは身分もはっきりしないまま、特別な力もなく、数年間生き残るだけで精一杯の日々を過ごしました」
「そんなことが」
「ギムリーに入った記録は見付けてはいたんですけど、ひどい」
そうか、やっぱ初期に上手く回らないと大変なことになるんだな···
「···人間慣れる物です。この世界は近世から産業革命前夜くらいの時代で安定したようなある意味牧歌的で、自立できる力があれば案外流離い人に寛容な世界でもありましたから」
シンイチさんは馬首街道北のロングフット族のテリトリーで仮の登記を苦労して獲得し、とある雑用の流れでなんとはなしにゼゼシュを訪問し、ここの暮らしが気に入り、最初は食品加工店の下働きをしていたところ、帰郷してきたヨンクゥーさんと恋仲になったそうだ。
「地球に、元の世界にいた頃、僕は親族と縁が薄く、勤めていた職場も生活の為以上の感情は持っていませんでした。勿論、子供の頃暮らした街並みや、ほんの数人の親しい知人等、向こうの暮らしが懐かしくなることはあります。それでも」
ここでヨンクゥーさんと双子の子供達が休憩室に入ってきた。
「どうしたの?」
「いや、瀧川さん達にこれまでのことを話してたんだよ」
「お父さん、林檎のパイ作って!」
「ナンクゥー叔母さんばっかりズルいっ、アイスクリーム!」
「ああ、いいとも」
シンイチさんは立ち上がった。オーダーが通った子供達が喜んで抱き付いてゆく。
「今ではここが僕の故郷です」
俺達の先輩ははにかんでそう言った。
翌朝、シンイチさんやヨンクゥーさん達に見送られ今度こそ俺達はゼゼシュ郷を旅立った。
ナンクゥーは機嫌は直っていたがさすがに少し寂しそうだった。お姉さんに蜂蜜アイスクリームのレシピは教わったから今度作ってやろっかな?
「シンイチさんの難解及び煩雑語&モンスター名早分かり帳がなかったら、私達、未だにリコットでかしこかしこ言ってたかも?」
「あの人が温厚な人だったからリコットの人達もよくしてくれたんだろな」
「···お前ら、ぶっちゃけ悪い来訪者もいるみたいだから油断するなよ?」
「だな、定番のライバルだったりラスボス候補だよな」
「? なに? らいばる? らすぼす?? 地球語か?」
「色々あるからさぁ」
「故郷は離れて良さがわかるものですね···」
「出て5分経ってないよ? 近いし、まだ見えてるし、まだ城門とこいるし」
「故郷は出て5分で帰りたくなるものですね···」
「下方修正してきた?!」
とにかく俺達4人はゼゼシュを出立した。
→→→→→妹ターン
ギムリーに到着しギムリ支部に報告を済ませ、ヨンクゥーさんの推薦状でナンクゥーを『精霊使い』職として仮登録と済ませたんだけど、やっぱ基礎練は必要になったんだよね。
いきなり教練所に預けるとまたトラブりそうだからまず4日間、ボルッカが改めてコーチを引き受けて、ギムリーの公園なんかでみっちり鍛え、それから教練所で5日間、ちょいちょい脱走を図ったり受講拒否したりもあったみたいだけど、どうにか暴走せずに基礎訓練を完了っ。
それからさらに3日間、精霊使いの教官の元でシゴかれ、D級で正規登録して、今日ようやく、宿に帰ってくることになってるんだ!
この12日間、私達瀧川兄妹は途中からコーチ役を終えたボルッカと合流して、近場の簡単な討伐クエストやお使いクエストをして過ごして(厳密には私は内、2日くらいゾフちゃんやタレップちゃんと遊びに行ってたけどっ)いた。
技量! 資金! ギルドの活動評価! 着実に積んだよね。
そんな私達3人は、
「うぉおおーっ! 塩と氷(寒剤ね)はこんなもんかっ?!」
「え〜と、ミルク、生クリーム、鶏卵、砂糖、蜂蜜、バニラ···買った方が安いし美味くねーかっ?」
「気持ちの問題だってっ!」
ゼゼシュ郷の特殊な環境の素材そのままというワケにもいかないけど、私達はヨンクゥーさんのレシピでアイスクリームを作って慣れない上に苦手そうな基礎訓練明けのナンクゥーを労う作戦だった!
一階の貸しキッチン付きの部屋で奮闘っ!
そして予定の午前10時過ぎ(一般普及までいってないけどネオ山梨は24時間割の時計がある!)、アイスに色々付け合わせやドリンクも用意して私達が待ち構えていると、気配! 足音! 部屋のドアがノックされた!
「ボク、です···」
ん? なんか元気無い??
「どうぞ」
私達がちょっと困惑していると、ドアが開けられ、だ〜いぶゲッソリしたナンクゥーとドリアードが現れた。
「ナンクゥーっ?」
「どした??」
「あらら」
「外の、世界は、厳しかった、です···」
ポテっ、と私に倒れ込んでくるナンクゥーとドリアード!
「ナンクゥーーーっ?! ドリアードぉーっ?!」
「ボルッカ! アイスとポーションだっ!!」
「アイスはポーションと同じ位置でいいんか??」
私達は慌ててレスキューに入ったっ。
···で、小一時間後には、ポーションとアイスクリームでお腹一杯になったナンクゥーとドリアードは『お湯かけたふえるワ◯メちゃん』みたいにケロっと復活して、ドリアードの蔓自分を持ち上げさせて花吹雪を室内で乱舞させ、
「ハハハ、ボクがちょっと本気を出せばギムリー支部のギルドマスターの座も容易いことでしょう。支部名は『百花繚乱支部』となります。ハハハハハ」
と絶好調になった。
「「「···」」」
まぁ元気になったんならそれでよかったよ、ナンクゥー。




