五話目 外つ国と中津国神様事情
外つ国にも神様はいらっしゃる。その外つ国の天界とは八百万神務庁はどう接しているのか……。その一部を覗く!
「思明さん、正直無理です。」
目に涙を溜めて他界連携課仏教係の係長"思明"にそう訴えたのは配属したての新米神使だった。
「そうですね……。少し早いですが、配属したての新米のためにこの時期の会議を開きましょう。」
思明はそう言うとサラサラと書類に何かを書き、近くにいた古参の仏教係にそれを渡した。それを受け取った仏教係は
「ああ、この件ですね。すぐに連絡しますけど……今年は少し早めの会議なんですね。」
「それだけ皆から声がある、ということです。これは八百万神務庁だけで済む話ではないですし、情報交換及び交流の場はいくらあっても良いですよ。」
「それに関しては同感です……。」
こんな会話の中、手渡された書類に書いてあったのは"近年の中津国の若者による神仏認識問題について"というものであった。
「この度はこの会議に参加してくださり誠にありがとうございます。」
他界連携課の一角。そこで思明を含む仏教係は足を運んでくれた、仏界に特別に作られた"仏界 特例日本支部"の面々に深く頭を下げた。
「お気になさらず。この問題は私共としても放っておけることではないので。この場がなければいずれこちらから連絡いたしました。それにこちらではそろそろ新しい方々が入る頃だと思いましたので。」
そう微笑む仏界特例日本支部の面々。
それに仏教係も微笑みながら強く握手を交わした。
「今回の問題ですが、人間のお地蔵様を主にした仏様の神格化です。」
思明がそう切り出すと
「そうだと思いました。」
と仏界特例日本支部の派遣者が返した。
「最近の日本の子供はお地蔵様を神様だと思っている節がありますし、お寺で仏様に祈る時もその祈りが何故か日本の天界に向かうことがあるんですよ。」
「神仏が入り混じっている日本ですからねえ。」
「伝家の宝刀、"日本だから"はやはり強いですね。」
日本の神様と仏様は密接且つ複雑な関係だ。この二つの仲が悪い、というような次元の問題ではない。神仏習合からの神仏分離、かと思ったら現代また神仏習合とまではいかないが同一視しがちなものたちが増えてきている。人間界の寺社仏閣関連に携わる者たちも大変だろうが、八百万神務庁はもっと大変で、その中で割を食うのは他界連携課の仏教係と、仏界特例日本支部に配属されたものである。
「仏界側からの意見を聞きたいですね。」
「お地蔵様が神様として拝まれている件についてお地蔵様にお話をお聞きしたところ、"傷付いている人々を救えているのならば、どのようなかたちであれ私は良いのです。"と微笑んでいらっしゃったので現状の問題はないかと。」
新しく仏教係に配属された新米たちは実は今回の会議に全員出席するよう思明よりお達しが出ていたため、邪魔にならないように交わされる話を聞いていたが思っていたような話し合いと違う和やかさに驚いていた。
「他の仏様は?」
「そうですね……。今回そちらさんに新しい方々が多いので毘沙門天様を例にお話しさせていただきます。毘沙門天様は特に日本で神と拝まれがちですが……毘沙門天様曰く、日本だからそういうかたちになるのだろう。とのことです。」
「仏界まで日本だからって言い出してる?!」
「新しい方々は元気が良くて良いですね。仏界と日本の神道は本当にややこしくてですね……。詳しくはあなた方の上司に聞くと良いかと。」
と仏界特例日本支部の面々は笑った。
その言葉で目線を集めた思明は目頭を揉み揉みしながら
「神仏習合及び分離の資料は渡したはずですよ。今私に目を向けた方々の顔は覚えましたので後日渡したはずの神仏関連の資料の感想文を提出するように。」
と言い放った。
ここで同じ新米でも視線を向けてしまったものと視線を向けなかったもので早速仕事量に差がついたのであった。
「とはいえ日本の境界は難しいものですよね。こうして仏界に特例で日本支部ができるのも仕方ありません。」
「仏界には日本の地獄でもお世話になっているのにここにまで申し訳ないです。」
「それだけ仏様の教えが広がっている証拠ですから良いのですよ。」
抹茶を啜りながら会話が続く。
そんな中仏教係の新米がおずおずと疑問に思っていたことを口にする。
「すみません、毘沙門天様について今調べてみたのですが、毘沙門天様は"仏教における天部の仏神である"というものを目にしまして……。仏様であられながら神様でもあられるということですよね……?自分このあたりよくわからなくて……。」
「………………。」
思明も仏界特例日本支部の面々も無言になった。
「……思明殿、そろそろ私たちは仏界に戻りますが頑張ってください。」
そう席を立ち始め荷物をまとめる仏界特例日本支部の面々。
それに対して
「せっかくご足労願ったのにもうお帰りなんてもったいない。ぜひ我が係の新米と話していってくださいよ。」
と、思明含めた古参の仏教係は囲い込みに入るのだった。
そんなやりとりが行われている同じ場所で、また別の問題が増えては消え、消えては増えていた。
「すみません、境界案件課からあった要請ですが"筆談でどうにかなりそう"とのことで要請を撤回するとのことです!」
「はあ?!こっちは時間作ったんだぞ?!」
「なら名称記録課行ってよ。また読めない外つ国の言葉が出てきたってさ。」
「あそこはもう外つ国学べ!」
"そんな余裕あるかーーー!"
「?!」
「あ、進行形で名称記録課と連絡とってたんですよ。」
「先に言え!この後気まずいだろうが!」
「気まずい感情があったらこの先持ちませんよ?」
「そうだけど曇りなき眼でそれを言っちゃうお前どうなの?」
"気まずいとかどうでもいいから早く来てーーー!"
「あ、うん。でもどこの国の言葉か教えてくれない?じゃないとこっちも誰がいけば良いかわからないし……。」
"………………ちょっとそれもわかんない。"
「やっぱり外つ国学べーーー!」
ある場所では仏界からの使者に対してかごめかごめならぬ囲め囲めが行われ、ある場所では他課とのやりとりが行われているのを、他界連携課の統括は漫画を読みながら聞いていた。
「あの、統括……。その漫画ですがどこの国のものですか……?というか何で漫画読んでるんです……?」
異動してきたばかりの神使が統括の机に報告書を積みながら質問した。
「これ?エジプト。漫画なのは俺がただの本より漫画の方が好きだから。どうせなら好きなもので楽しく学びたいじゃん。」
「何故えじぷと……。」
「エジプトの神様が日本に来たいって話を小耳に挟んだから。」
統括は飴玉を取り出して口の中に放り込む。そうして糖分を摂りながら日々新しい知識を自らの心身に打ち込むのであった。
八百万神務庁は今日も一致団結でのりきろうとしている。
「現代人、もっと寝ろおお!」
祈りを届けたくないわけがない、そんな八百万神務庁の神使たち。しかしそんな神使たちも叫ぶ!
次回、八百万神務庁祭祀管理課は総合窓口。




