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八百万神務庁  作者: 永遠
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第三話 人界折衝課新米の苦難

突然尋ねにきたものが「神様の神使なんです。」と言ってきた。あなたはどうする?!

 八百万神務庁、人界折衝課。

 ここで新米が最初に教えられること、それは……。

 「中津国で身分を明かしてはいけません。」

 

 人界折衝課にも新米がやってきた。ここでは"人型になれる神使"しか入れない。人型になれるということは、普通の神使たちよりちょっぴり、少し、多少、力が強いものたちだということを意味している。

 そのため己自身に強い誇りを持っているものが多い。砕けていうと、プライドが高いのだ。

 そんなものたちがここで初めて教えられること、それが上記の"中津国では身分を明かしてはいけない"である。

 これに対して新米神使たちは教育係の先輩神使に抗議した。

 「神の使いである我らに偽りを語れというのか?!」

 「何故身分を明かしてはいけないのでしょうか?」

 そんな数々の声に目を閉じて聞いていた人界折衝課の新米教育係は静かに口を開いた。

 「新米のあなたたちには信じられないかもしれませんが……私たちが普通に人型をとり中津国に降りて神使と言っても信じてもらえないのです。」

 その言葉に新米たちは衝撃を受けた。

 「僕、豊玉姫(とよたまひめ)様を祀る神社の池で泳いでいたら"神の使いだから拝んでおこう"って鯰の姿の時ですら神使と認められたんだよ。僕ならどんな姿でも神使って認めてもらえるはずだよ。」

 鯰の神使のその言葉に我も我もという声が続いた。

 それを教育係は静かに聞いていた。そしてこう言葉を紡いだ。

 「わかりました。では今からあなたたちには中津国に降りて正直に身分を名乗ってみてください。そしてその結果を私にありのまま伝えてください。私の元に来るときには、私の最初の言葉の意味がわかるでしょう。」

 一時間後、人界折衝課から用意された服を着た新米たちが集合した。

 「先輩、この服は……?」

 「その服は中津国では正装と呼ばれている"すうつ"というものです。これより新人教育のためあなたたちをこのまま中津国に送ります。一刻半後までには戻ってくるように。……経験を積んできなさい。」

 新人たちのスーツが光り、瞬きをすると次の瞬間には新米たちはそこにいなかった。

 「人型といえど人間には人間に見える。人間が人間に唐突に"自分が神の使いだ"と名乗ればどうなるか……味わってくると良い。」

 「今年の新米教育係、それ去年の配属したての頃の君に聞かせたいよ。」

 「……先輩、その話はもう忘れてください……。」


 「新手の宗教お断り!!」

 「いえ、神道は昔から日本にある……!」

 言い終わる前に音を立てて閉じられた扉を前に、鹿の神使はこれで何度目だろうか……。と肩を落としていた。

 「自分は蛇の神使で!今回は神使として人間と交流を……。」

 「間に合ってます。」

 「ま、待ってくださ……。」

 そのやりとりを聞いた鹿の神使は頭を上げた。するとさほど離れていない距離の家の玄関前であたふたする同胞と目があった。自然と二匹は合流した。

 「あ、君の方……どんな感じ?」

 先に口を開いたのは蛇の神使だった。

 「えっと……んん……あなたと同じような感じだよ。」

 鹿の神使の言葉に蛇の神使は察した。

 「……私さ、私の主様が祀られてる神社とかで姿を見せると拝まれたりしてたんだ。」

 「僕も変わらないよ。僕、実は奈良公園にいてさ。神使として人に認識されてる自信あったんだよ。」

 そういうと沈黙が訪れる。

 「人型になっただけでこんなことになるとは思わなかった……。」

 二匹の声が重なった。

 「教育係の先輩は一刻半あるって言ってたけど、私はもう八百万神務庁に戻るよ……。」

 「あ…….僕も戻ろうと思う……。」

 二匹に出発前の覇気はなく、スーツが輝いたあと、その場には何も残っていなかった。


 「何故身分を明かしてはいけないか、わかりましたか?」

 一刻も経てば新米たちは皆戻ってきていた。そしてそうなるであろうということをわかっていた新米教育係は半刻経った時点で既にこの場で待っていた。

 「正直に身分を明かした結果、どうなりましたか?」

再度聞いてくる教育係に亀の神使が手を挙げ発言した。

 「僕、よくわからないけどこのあるみほいるとやらを渡されました。」

 「何で?」

 教育係もこれには疑問符を浮かべた。

 「僕もよくわからないんですけど……。神使ですって言ったら"君は電波系なんだね……これ頭に巻き付けるとよくなると思うよ……。"って哀れみの眼差しで渡されて……。えっと、これは僕は頭にこのあるみほいるを巻けば良いんですか?」

 そう言いながら頭にアルミホイルを巻き始める神使に教育係は頭を抱えた。

 「巻かなくて良いです巻かなくて良いです!他の新米はどうでしたか?」

 亀の神使は"それじゃあこれは供物になるのかな……。"と丁寧にしまい始めていた。亀の神使の隣にいた猪の神使はそれを見ながら"今度この亀は自分の主様にそのあるみほいるを供物です!って渡すのか?それ主様戸惑わないか……?"と思っていたが、"まあそれも一つの信仰のかたちか……?"と、考えるのをやめた。

 「僕は奈良公園にいた鹿の神使なんですけど、そう言ったら"あなた鹿じゃないよね"と言われて混乱しました。」

 「君は私よりマシなんじゃない?私は"何の神使なの?"って言われたから"兎です。"って返したら"可愛くない!"とそのまま扉閉められたんだよ?!」

 ああ、洗礼受けてるな。と教育係はうんうんと頷きながら同じような報告を聞いていた。そんな中狸の神使がこんなことを言い出した。

 「あっしはちゃんと認められましたよお。」

 「なんと?!どのように言われましたか?」

 狸の神使に注目が集まる。

 「あっしが神のお使いなんですよって言ったら人間の目が輝きましてね。"君はよくわかってる"って。あっしはその言葉の意味がちょっとよくわからなかったんですけどね?"今度神様を讃える集会があるからおいで"って誘われまして。これはすごい成果だと思うんですよお。」

 ドヤ顔な狸の神使に他の新米は尊敬の眼差しを向ける中、教育係は吠えた。

 「それは認められていません!」

 「何で?!」

 そんなやり取りを見る新米神使以外の人界折衝課たちの面々は優しい眼差しで見守っていた。

 「今年の新米はみんな素直だねえ。」

 「そうねえ。それはそうと、あの新米狸の誘われた集会に関しては一応荒御魂・災異課に持っていきましょうね。」

 そう言った熊の神使は情報をまとめた。


 「どうやって人間と付き合っていけば良いのかわかりません。」

 正座をした新米人界折衝課の神使たちはそう口にした。それに対して教育係の神使はホワイトボードを持ち出しながら話し始めた。

 「まず、普通に身元を明らかにしても良い交流はできません。しかし私たちが嘘八百をつらつら並べるわけにはいきません。ここがこの人界折衝課の難しいところなのです。」

 教育係のその言葉に頷く新米神使たち。

 「ではどうやって人間と交流・交渉をするのか?それは……"嘘はつかずに言葉を変える"のです!」

 教育係は赤ペンでホワイトボードに大きくそう書いた。

 「それはつまり……?」

 「今年は奈良公園にいた鹿の神使がいるので、この神使を例にしましょう。」

 「え、僕?!」

 急に話を振られた鹿の神使は驚いた。実はあがり症だったこの神使は顔が真っ赤になり頭は混乱に追いやられていたが、教育係は知ってか知らずか話を続けた。

 「はい、あなたとしましょう。こちらは奈良県で調べたいことがある、となればこちらはまず奈良県に関係のある神使をこの案件に当てます。これで半分以上問題は解決します。何故なら人間に"あなたはどこのものですか?"など聞かれた際、"この土地のものです。"と返せます。嘘はついていませんよね?あとは案件ごとに"この土地を調査しています、こちらの祠について確認したいことがありまして"と続ければ人間との摩擦が生まれにくくなるのです!」

 その言葉に新米たちは拍手した。

 「確かに!先輩すごいですね!」

 「言葉を変えるってこういうことかあ。」

 「これなら嘘をつくっていう後ろめたさが少なくなるね!」

 拍手喝采に教育係は去年の新米だった己と同期の面々を重ねてなんとも懐かしい気持ちになるのだった。

 「あなたたちを割り当てるのはまずは私たちが行うので、あなたたちは"交流力"を高めてください。」

 では一旦解散、と教育係はまとめた。新米たちはバラバラに散っていったが、一匹の雀の神使が教育係に駆け寄ってこう尋ねた。

 「交流力を高めるにはどうすれば良いですか?」

 「そうですね。ここでたくさん話すのも良いですが、人間との交流力を素早く高めるのに良いところがあります。」

 「ぜひ教えてください!」

 それに教育係は迷うことなくこう応えた。

 「稲荷部に行くと良いですよ。」


 とある場所の用水路。そこに鯰がいた。正確には鯰の神使だが、見た目は完全に鯰である。それに話しかける人影が二つ。見た目は人間だが、実は熊の神使と猿の神使である。

 「……神務庁に帰りたいです……。」

 用水路の鯰はそう言った。

 「君を神務庁に戻すために我らは来たんだよ……。」

 「どうして戻っちゃったの?体調悪かった?」

 心配する上司の猿の神使に新米の鯰の神使は涙を浮かべた。熊の神使は神務庁と連絡をとっている。

 「力尽きました……。」

 「せめて池まで頑張れなかったの?」 

 「……ごめんなさい……。」

 「とりあえず連れて帰るからこの器に入ってね。」

 「はい……。」

 猿の神使が差し出した玉が光ると、そこにいた鯰の姿はすっかりなくなり、玉に鯰の影が浮かんだ。 

 「新米鯰、回収完了したよ〜。」

 猿の神使が用水路から少し離れた位置にいた同僚の熊の神使の元に戻ってきた。

 「……その新米鯰、しばらく働き詰め決定。」

 「あはは、そうなるよね。」

 玉の中の鯰の影が大きく揺れ動く。それに熊の神使が声を上げる。

 「君何したかわかってる?!荒御魂・災異課から鯰の化け物の情報来たときは頭抱えたよ!しかもこれ見て?名称記録課からも連絡きてるの。SNS班から、"すごい勢いで用水路の主って鯰の写真があがってるけど、これ君たちのところの新米でしょ?!"って我ら怒られてるの!こうして君に近づくのも大変だったんだからね。あれほど中津国で人型を解くときは気をつけろって言ったでしょ?責任はしっかりとって!」

 その熊の神使の言葉に玉からは

 「やっぱり神務庁戻りたくないですー!」

 との声が響いた。


 八百万神務庁は今日も賑やかなのであった。

鯰の神使の始末書もろもろ終わらなくても八百万神務庁は今日も開庁!境界案件課から荒御魂・災異課にある案件がきて……。次回、「そなたはなにや?」

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