偶然の出会いと再会
サードアイは、ドラゴンがいると言われている二つ向こうの山へ向かって駆け上がっていた。
山道を駆けながら、昨晩のサイカとの会話を思い出す。
『俺は村に残って、まだ聞けてないドラゴンの情報を集めてみる。サードは無理しない程度に、二つ向こうの山へ行ってドラゴンがいるか見てきてほしい。頼めるか?』
――サイカに頼まれたからには、きっちり調べてやらねばな。
サードは移動しやすいよう身体を道幅に合わせながら、山道を駆け抜ける。山を一つ越えたところで、木々の向こうに集落らしきものが見えてきた。
目を凝らすと、集落の入口には見張り台があり、その周囲にはツノを生やした者たちの姿があった。
――鬼の集落か。
サードは足を止めた。
――ドラゴンのことを知っている鬼がいるかわからんが……ちょっと寄って話を聞いてみるか。
そう考えると方向を変え、鬼の集落へ向かって駆け出した。
*
一方その頃、サイカは婆ちゃんの代わりに川へ洗濯に来ていた。
洗濯を終えたあと、自分が西瓜の中に入ったまま流されてきた川が気になり、上流へ向かって歩いてみることにした。
しばらく進むと、遠くに大きな滝が見えてきた。
「おお……すげえな」
サイカは滝の近くまで走っていった。
大量の水が崖の上から流れ落ち、真っ白な水しぶきが辺り一面に舞っている。
「マイナスイオンが溢れてるな……」
しばらく滝を眺めていると、弥生の顔が頭に浮かんだ。
「姉ちゃんに見せたら喜びそうだけど、一人でここまで来たのがバレたらまずいな」
そろそろ帰らないと、また怒られる。それに、祈祷師にも聞きたいことがある。
サイカが踵を返そうとした、その時だった。
川の反対側から、同じくらいの年の子供が歩いてきた。
よく見ると、額の真ん中にツノが一本生えている。
「……鬼?」
サイカは一瞬身構えた。
だが、間には十メートルほどの川がある。いきなり襲ってきたとしても、すぐにこちらまで来ることはできない。
それに――。
「思ってたのと全然違うな……」
サイカが想像していた鬼は、赤や青の肌にツノを生やし、口から牙を覗かせた恐ろしい姿だった。
だが目の前の子供は、額にツノがあることを除けば、普通の人間の子供とほとんど変わらない。
その子供がサイカに気づき、笑顔で手を振ってきた。
サイカは少し戸惑ったが、すぐに思い出す。
――そういや、今の俺も六歳だった。
見た目だけなら、お互い同じくらいの子供だ。
サイカも手を振り返した。
「俺はサイカ! 君の名前は?」
「僕はギン! よろしくね、サイカ!」
――普通に喋れるんだな。
サイカは改めてギンを見る。
――鬼……なのか? まあ、ツノがあるだけじゃ分からないか。
その時、ギンの後ろにある森から女性の声が聞こえてきた。
「ギンさまー! どこですか〜! 勝手に先に行ってはいけませんと言ったでしょ〜!」
ギンの顔色が変わった。
「あ、怒られる! サイカ、またねー!」
「おう、ギン! またなー!」
ギンは大きく手を振りながら、声のする方へ走っていった。
サイカはその後ろ姿を見送り、小さく呟く。
「俺も怒られないうちに帰ろ」
*
その頃、サードは鬼の集落の前まで来ていた。
――さすがに、この大きな姿のままでは警戒されるか。少し小さくなるか……。
そう思った、その時だった。
ビューー!
見張り台から数本の矢が飛んできた。
ザッ、ザッ、ザッ!
矢がサードの足元へ深く突き刺さる。
「なっ!?」
サードは驚いて後ろへ飛び退いた。
「いきなり何をする!」
見張り台の鬼たちは、すでにサードへ狙いを定めている。
次の瞬間、再び矢が放たれた。
「危ないではないか!」
サードは迫ってくる矢へ向かって咆哮を放った。
「ガァァァッ!」
空気を震わせる衝撃が矢を正面から吹き飛ばし、砕けた木片が地面へ散らばる。
「あたしを怒らせたな! ただでは済まさんぞ!」
サードは大きく息を吸い込み、見張り台へ向かって火球を放とうとした。
その時だった。
「待て! 矢を放つな!」
集落の奥から、一人の男が慌てて飛び出してきた。
「その姿……まさか、ケルベロスか!?」
「……ん?」
サードは息を溜めたまま、その男の顔をじっと見つめた。
どこかで見た覚えがある。
「アッフー……」
間の抜けた声とともに、溜め込んでいた息が鼻から「ほーっ」と煙と一緒に抜けていった。
男もまた、サードを見たまま動かなかった。




