あたしは、子猫じゃないサードアイにゃん
「相棒、山の主以外の呼び名はないのか? 名前で呼びたいんだけど」
「名前など不要じゃ、ご主人よ。我々にはな……」
「相棒なんだから、俺のことはサイカって呼んでくれ。名前は俺が決めるから、気に入らなかったら言ってくれ」
サイカは腕を組み、顎に手を当てて少し考え込んだ。
「それじゃあ、サードアイ。略してサードでどうだ?」
「安直な名前だなぁ……まあ良かろう、サイカよ」
文句を言いながらも、サードのしっぽは左右にぶんぶん揺れていた。
「よし。それじゃ一旦、山のこちら側に戻るか。目的以上の大成果だ」
「あたしもついて行くぞ。姿は小さくできる。この山は、さっきの黒狼に任せれば問題ない」
サードの言葉を聞いて、サイカはふと疑問を口にした。
「というかサード、お前って一体何者なんだ? 人間の言葉も普通に喋るし」
「あたしは、あたしだにゃ……昔は『ケルベロス』なんて呼ばれたこともあったにゃ」
「ケルベロスって猫科だったのか?」
「猫じゃないにゃ! ゴホン……サイカの方こそ、あの団子はなんなんだ? あんな美味そうな匂い、嗅いだことないにゃ」
「サードは相棒だし、話しておくか」
サイカが異世界転生のことや、神さまから貰ったスキルについて一通り説明すると、サードは三つの目を丸くした。
「へぇ〜、そんなこと本当にあるのかにゃ。サイカは嘘をつけるタイプに見えないし、あのきび団子は絶品だったにゃ」
団子の味を思い出したのか、サードのしっぽがまた激しく揺れる。
その時、サイカが急に真面目な顔になった。
「サイカ、いきなり真面目な顔してどうしたにゃ?」
「サード、頼みがある。……ぐぅ〜」
サイカのお腹が派手に鳴った。
「……お腹すいたな。先に帰ろう」
「ズコーッ! シリアスな雰囲気はどこ行ったにゃ!?」
「家に帰ってから話すよ。暗くなったら爺ちゃん婆ちゃんが心配するし、婆ちゃんのご飯は美味いぞ。それに俺、まだ六歳だからな」
サイカとサードは、急いで来た道を戻っていった。
*
「もうすぐ山を出るぞ。サード、仔犬くらいの大きさになれるか?」
辺りはすっかり暗くなっていた。
「なれないこともないが、いざという時にサイカを守れないにゃ」
「大丈夫だ。村には『ドラゴンの加護』があるから、魔物に襲われることはないらしい」
「ドラゴンの加護? そんなもの、聞いたことないにゃ」
「おかしいな……山の主が知らない加護か……」
サイカが首を傾げているうちに山を抜け、村へ入った。
「もう村の中だにゃ。じゃあ小さくなるにゃ。何度も言うが、猫じゃないからな!」
ポンと煙が上がり、サードは小さな子猫のような姿に変わった。
家の前まで来ると、お爺さんが腕を組んで待っていた。
「サイカか! もう真っ暗じゃぞ。何しとったんじゃ。婆さんが心配しとる。早く家に入れ」
「爺ちゃん、お願いがあるんだけど」
「なんじゃ、言ってみな」
サイカは後ろにいたサードを抱き上げた。
「子猫じゃないかい。飼いたいのか、サイカよ」
「うん。すごく懐かれちゃって。可愛いし、お世話もちゃんとするからさ」
すると、サイカの腕の中でサードが口を開いた。
「お願いするにゃ」
「……!」
お爺さんは目を丸くした。
「なんと、喋る子猫とな!? 婆さん、婆さんやーっ!」
――あ。喋るなって言うの忘れてた。
*
お婆さんの手料理をたらふく食べたあと、サイカの部屋で二人は寛いでいた。
「お婆さんのご飯、本当に美味かったから、子猫と言われた件は許してやるにゃ」
「まあ、西瓜から生まれた俺を育ててる爺ちゃん婆ちゃんだし、喋るくらいならすぐ慣れるだろ」
「だ・か・ら! 猫でも犬でもないにゃん……」
サードがすかさずサイカの手を引っ掻いた。
「いてっ! さっき許したんじゃなかったのかよ」
「爺さんは許したにゃ。サイカは今言ったにゃ」
サイカは手をさすりながら苦笑した。
そして、再び真面目な顔になる。
「サード、さっきの続きだ。この村の周辺はドラゴンの加護で守られているって言ったよな」
「さっき聞いたにゃ。だが、ドラゴンがそんなことをするとは聞いたことがないから、少し驚いたにゃ」
サイカは少し間を置いた。
「その加護の代わりに……十年に一度、村の若い娘を生贄に捧げているんだ」
サードのしっぽが止まった。
「俺は、それを止めたい。相手が本物のドラゴンでも」
サイカはサードをまっすぐ見つめる。
「どれだけ強い相手か分からない。それでも、手伝ってくれるか?」
サイカは深々と頭を下げた。
サードは、その頭にポンと前足を乗せる。
「頭を上げるのだ、主人よ。あたしの主人はサイカだけだ。当然、手伝うにゃん」
「ありがとう、サード。本当に助かるよ」
サイカがサードの頭を撫でると、サードは嬉しそうにしっぽを振った。
「それとサード、村の中では滅多に喋らないでくれよ? 怪しまれるからな」
「わかったにゃん」
その時――。
「サイカー!」
外からパタパタと足音が響き、弥生姉ちゃんが部屋へ飛び込んできた。
「弥生お姉ちゃん」
「サイカ! 何そのキュートで可愛い子猫は!? どこから連れてきたの!?」
「山で出会って、懐かれたんだ。名前はサード」
「抱いてみてもいい?」
「もちろん」
「ありがとう! よろしくね、サードちゃん!」
弥生姉ちゃんに抱き上げられたサードは、サイカへ目を向けた。
――生贄ってのは、この娘のことだな。
そう言いたげな目だった。
だが、そのしっぽは激しく左右に揺れている。
サイカは弥生の笑顔を見つめたあと、二つ向こうの山へ厳しい目を向けた。




