↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら西瓜のなかだった。鬼退治をするつもりが、鬼が可愛く見える奴らばっかりだった件  作者: 転生者が西瓜だったら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/34

初めてスキルを使ったが手がぬっとりした。

ひと足先に村へ戻ったサイカは、火比べの矢倉を見つめていた。


鬼が人を襲うといわれているこの世界で、火比べは鬼から村を守るための儀式とされている。矢倉の前には高く木が組み上げられ、その上で赤々と燃える炎が空へ向かって揺れていた。


祈祷師は肩から斜めに掛けた大きな数珠を高々と持ち上げ、炎へ向かって声を張り上げる。


「龍の神、ドラゴンよ。我らの村をお守りくだされ――」


火比べの炎と、祈祷師が張る結界が鬼を村へ寄せつけない。


サイカも、そう教えられてきた。


祈祷師へ目を向け、小さく呟く。


「あと二年か……」


手の甲に浮かぶ西瓜の印と「100」の数字へ目を落とした。


スキルがあり、鬼が存在し、伝説の生き物までいる世界だ。だから祈祷師の結界も、本当に村を守っているのだと思っていた。


「サイカー! 待ちなさいよ!」


後ろから弥生姉ちゃんの声が響く。


振り向くと、そこには――鬼のような顔をしたお姉ちゃんが仁王立ちしていた。


やばい。


「お姉ちゃん、遅〜い。待ちくたびれたよー」


サイカは六歳児らしい笑顔で誤魔化した。


「しょうがないわねー、アンタって」


弥生は呆れながらも、すぐに笑顔を浮かべる。


しばらく二人で火比べを眺めていたが、ふと弥生を見ると、その手は強く握られていた。


――今度こそ、守る。


「あっ、私、もう手伝いに行かなきゃ」


弥生は何事もなかったように笑い、サイカへ手を振ると田んぼの方へ歩いていった。


サイカはその背中をしばらく見つめ、拳を反対の手のひらへパァンと叩きつけた。


「よっしゃあ……!」


爺ちゃんの畑へ向かおうとしたところで、矢倉から降りてきた村長と鉢合わせた。


「村長、こんにちは!」


「おお、サイカか。今日も爺さんと稽古か?」


「うん!」


村長は笑いながら、サイカの頭をぽんと叩いた。


「精が出るのう。いつか、この村を守れるくらい強くなっておくれ」


「任せとけ!」


*


「爺ちゃ〜ん、今日もやるぞー!」


畑仕事を終えた爺ちゃんが、鍬を置きながら振り返った。


「毎日毎日、飽きずによくやるのう。わしはもう腰が痛いんじゃが……」


そう言いながら、顔はどこか嬉しそうだ。


二人は木刀を手に、いつもの稽古を始めた。


「どおりゃーっ!」


サイカが上段から木刀を振り下ろす。


爺ちゃんは片手の木刀を軽く合わせ、そのまま絡め取るように弾き飛ばした。


カランッ、と木刀が地面へ転がる。


「ちくしょぉ! もう一回だぁー!」


「ほっほっほ。昨日より踏み込みは速くなったが、まだ力任せじゃ」


「だったら、もう一回!」


「まったく……腰が、いたた……」


爺ちゃんが腰を押さえた。


「いまだ!」


サイカは一気に間合いを詰める。


だが爺ちゃんは腰を押さえたまま、片手の木刀で軽く右へ払った。


ガンッ!


サイカの木刀が地面を叩く。


「いったぁ……爺ちゃん、腰痛いんじゃなかったの!?」


「腰は痛いぞ」


*


神さまは、きび団子は万能ではないと言っていた。


試しに村の犬ポチへ食べさせてみたが、特に変化はなかった。もともと懐いていたから分からなかっただけかもしれない。


だから今日は、その力をもっと試すつもりだ。


山の奥へ行き、強そうな獣を仲間にする。


――待っているだけなのは、前世で充分だ。


毎日の稽古と畑仕事のおかげで、急な山道を登ってもサイカの足は止まらなかった。


やがて山頂付近まで来ると、向こう側に大きな川が見える。


――川辺なら、動物が水を飲みに来るはずだ。


「行ってみるか」


ただ、爺ちゃんからは山の反対側へは絶対に行くなと言われていた。村の周辺はドラゴンに守られているが、その向こうは守りの外だという。


それでもサイカは足を止めなかった。


強い仲間が必要だ。


弥生姉ちゃんを守るために。


山を下り、大きな川へ出る。


少し離れた場所で、真っ黒な巨大狼が水を飲んでいた。


「……でかいな」


そのそばには、ひと回り小さな狼もいる。小さいといっても、普通の狼ほどの大きさはあった。


「よし……試してみるか」


サイカは拳を握り締め、右手を空高く掲げた。


「俺の右手に集え、きび団子の力! 魂の叫び! レッツ・キビダンゴォォォ!」


掲げた右手に、生暖かくてぬるっとした感触が現れた。


恐る恐る手を開くと、一個のきび団子が乗っている。


「……出た」


小さい方の狼が鼻をひくつかせ、こちらへ近づいてきた。


一度だけ振り返って巨大狼を鋭く睨むと、巨大狼はその場から動かなくなる。


――あれ? こっちの方が偉いのか?


近くまで来たところで、サイカは気づいた。


「……目、三つあるじゃん」


狼の額には、もう一つ目があった。


サイカは少したじろぎながら、きび団子を狼の前へ放り投げる。


すると近くの茂みが大きく揺れ、巨大なクマが姿を現した。クマが団子へ近づこうとした瞬間、三つ目の狼が低く唸る。


「グルルルル……」


クマはぴたりと止まり、しばらく睨み合った末に森の奥へ逃げていった。


「……強っ」


三つ目の狼は何事もなかったように団子へ目を戻した。口元からは涎が垂れている。


「……これ、食べてもよいのか?」


「喋った!」


一瞬驚いたものの、サイカはすぐに思い直した。


――まあ、異世界だし。なんでもありか。


「美味しい団子をお持ちしました。どうぞ召し上がってください」


三つ目の狼が、じろりとサイカを睨む。


「なんか怪しくないか、お前。毒でも入ってるんじゃないか?」


そう言いながらも、涎は止まっていない。


「ちょっと仲間になるだけです」


「……仲間になるだけか?」


「はい」


「なら問題ないな」


――いいのかよ。


三つ目の狼は、ぱくりときび団子を口に入れた。


もぐもぐ、ごくん。


一瞬の沈黙。


「…………ぬぬ?」


三つの目が一斉に見開かれる。


「仲間になるだとぉぉぉぉぉ!」


叫び声が山中に響き渡った。


「うわあああ!」


サイカは慌てて耳を塞いだ。


しばらくして視界が落ち着くと、三つ目の狼がすぐそばまで寄っていた。


「すまなんだ、主人」


「……今、主人って言った?」


「ああ。どういうわけか、お主に逆らう気が起きん」


「きび団子、効きすぎじゃない?」


三つ目の狼は胸を張った。


「あたしは、この山の主だ。よろしく頼む、主人よ」


「山の主!?」


巨大な狼も、クマも、こいつには逆らわなかった。


どうやら、いきなりとんでもないのを仲間にしてしまったらしい。


その時、サイカの手の甲が淡く光った。


「ん?」


西瓜の印へ目を落とす。


「……九十九?」


百だった数字が、一つ減っていた。


サイカは三つ目の狼を見る。そして、もう一度手の甲を確認した。


「もしかして……仲間が増えると減るのか?」


もちろん、神さまの声は聞こえない。


「あ……俺の名はサイカ。これからよろしくな、相棒」


「ああ、よろしく頼む。主人」


「だから、主人じゃなくて相棒な」


「それは無理だ、主人」


「きび団子、やっぱり効きすぎだろ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。