集結ジュラの根城
桃太郎は、一人で彷徨っていた役人を見つけた。役人は人質になっていたことを告げると、国継と人ならざる男とのやり取りを話し始めた。
桃太郎はその役人を、怪我をしているもう一人の役人のもとまで連れていく。
「すまぬが、お主ら二人でここから戻れるか」
二人は顔を見合わせた。
「はい。桃太郎様は、早くご隠居様のもとへ。我々は大丈夫です」
「……すまぬ」
そう言い残すと、桃太郎は暗闇の中へ駆け出した。
(父上、玉藻様……どうかご無事でいてくだされ)
「拙者などに比べれば、お二方のほうがよほど優しい……」
その瞳は、わずかに紅く染まっているように見えた。
*
国継は、人ならざる男の後を歩きながら、四本角の根城へ向かっていた。本来なら腰にあるはずの刀はない。
懐に手を当て、護符があることを確かめる。
(刀は置いてきた。この護符だけで、何ができるかは分からん。じゃが――助けを求める子供がおる)
国継は何も言わず、男の後を追った。
*
巨大な四本の腕を持つ獣。
その亡骸は、なお立ったままだった。額に埋め込まれたジェイドも、まだ微かに紫色の光を放っている。
「サイカ、セツナ! 大丈夫か!」
シルフィードの声が響く。ベヒモスも、サイカとセツナのもとへ駆け寄った。
「うっ……うぅん……」
サイカがゆっくりと目を開け、身体を起こそうとする。だが、何かが上に乗っていて動けない。
「……セツナ」
自分の上に倒れていたのがセツナだと分かると、その背中をゆっくりとさすった。
「セツナ、しっかりしろ。大丈夫か」
軋む身体を起こしながら、セツナをそっと仰向けに寝かせる。息をしているか確かめようと顔を近づけた、その時――。
「……サイカ」
寝言のような小さな声が、セツナの口元から漏れた。
サイカは一瞬、動きを止めた。
その傍らで、ベヒモスは立ったまま動かなくなった獣へ目を向けている。額には、まだ微かな紫色の光が残っていた。
(何が……こやつを、ここまで戦わせていたのでやすか……)
サイカはセツナの無事を確認すると、シルフィードのもとへ向かおうとした。だが、身体が思うように動かない。
「くっ……」
ふと胸元を見ると、西瓜の甲冑には大きな穴が空いていた。
(爺ちゃんに助けられたな……)
痛む身体を押さえながら、二人へ声をかける。
「シルフィード、ベヒモス。二人とも大丈夫か」
傷だらけのシルフィードが答えた。
「オレ様は大丈夫だ。まだ戦えるぜ」
ベヒモスも、身体を覆っていた岩の鎧を解除していく。
「あっしも大丈夫でやす。それより……この獣、一体なんなんでやすか」
その時、背後から物音がした。
ガサッ――。
振り返ると、セツナがゆっくりと身体を起こしている。
「セツナ!」
まだぼんやりとした様子で、セツナは周囲を見渡した。
「サイカ、シルフィード様、ベヒちゃん……みんな、大丈夫?」
「ああ。みんな無事だ」
サイカはそう答えると、四本腕の獣へ目を向けた。額からは、いまだにうっすらと紫色の光が漏れている。
その時、サイカの手の甲にある西瓜の印が淡く光り始めた。
「ん……?」
表示されていた数字が、【97】から【96】へ変わっていく。
「……なんでだ? 誰も仲間になってないぞ」
サイカは手の甲を見つめた。
「この数字……いったい何なんだ?」
獣に目を向けなおして、村の祈祷師を思い出した。
「祈祷師の時と同じだ……紫の宝石の力」
サイカは、立ったまま息絶えた獣を見上げた。
「こいつも……戦いたくて戦ってたわけじゃないのかもしれないな」
拳を強く握りしめる。
「もう、こんなことは許せない」
サイカは四本角の根城を睨んだ。
「……四本角」
*
その頃、玉藻はすでに国継の姿を捉えていた。
先ほど桃太郎が倒した男と同じような姿をした者の後を、国継が何も言わずについていっている。
何か理由があるのだろうと考え、玉藻は気配を消してその後を追っていた。
その時、鼻先をサイカたちの匂いがかすめる。
「来るなと言ったのに……やっぱり来たか。それでこそサイカだにゃ」
ふと、サイカと初めて出会った時のことが思い返された。
自分を仲間にしたいと、馬鹿正直に言ってきたサイカ。
玉藻は小さく笑った。
「あの時、サイカの目を見て……あたしも仲間になりたかったのかもしれんな」
前方では、国継と男が岩の裂け目へ入っていく。
玉藻は一度だけ、サイカたちの匂いがする方へ顔を向けた。
そして何も言わず、二人の後を追って岩の裂け目へ入っていった。




