セツナ覚醒
玉藻は、四本角のアジトへ向かって駆けていた。その姿は先ほどまでよりも大きく、全身を覆う毛は真っ黒に染まっている。背後では、三本に分かれた尾が大きく揺れていた。
「国継……待っておれ。必ず助けてやる」
闇の中を駆けながら、ふと昔の記憶が蘇る。
――まだ、初代桃太郎が生きていた頃。
桃太郎は縁側に腰を下ろし、玉藻を膝の上に乗せていた。いつものように頭を撫でながら、静かに語りかける。
『玉藻よ。この桃太郎も、もう長くはない。長い間、ありがとうな。お前のおかげで奴を打ち破れた。こうして桃太郎家も残せた。もう、心残りはない』
桃太郎は玉藻の頭を、ゆっくりと撫で続ける。
『今のお前なら、もう悪さはせんだろう。これからは好きに生きろ。この国を見て回るのも、きっと楽しいぞ』
少しだけ寂しそうに笑うと、桃太郎は玉藻の頭を撫でていた手を止め、そっとそのまま頭に置いた。
『先に逝くわたしを許せ』
そして、静かに呟く。
『なあ……相棒よ……』
*
国継は暗闇の中、紫色の光を追っていた。人ならざる姿へ変えられた男が、役人を人質にしたまま逃げている。
しばらく追ったところで、突然、男が足を止めた。
「……すまねえな」
国継が刀を構えると、男は苦しげに顔を歪めた。
「子供が捕らえられてるんだ。仕方なかった……俺はどうなってもいい。子供だけでも助け出してくれないか」
そう言うと、男は掴んでいた役人を国継の方へ突き放した。
「うわっ!」
役人が地面を転がる。男はその場で目を閉じ、両腕を下ろした。
「さあ……やってくれ」
国継はしばらく男を見つめたあと、刀を地面へ突き立てた。
「その子を助けたいのであろう。ならば、わしを連れて行け」
男が目を開く。
「……本気か、旦那」
「二度は言わん」
「……すまねえ。ついてきてくれ」
国継は役人へ目を向けた。
「お主は桃太郎のところへ戻れ」
「ですが、国継様」
「行け」
「……はっ」
国継は男と共に、さらに深い闇の中へ歩き出した。
*
サイカ達の闘いーー
大きな獣の額から、溢れんばかりの紫色の光が輝き出す。
ベヒモスは石の剣で獣を斬りつけるが、硬く、刃が通らない。獣は四本の腕でベヒモスを何度も殴りつけ、岩の装甲を次々と剥がし取って行く。
それでもベヒモスは怯まず、獣を斬りつけ続けた。
その時、サイカが大声を張り上げる。
「ベヒモス! 額の光を狙え!」
獣がサイカへ目を向けた。
次の瞬間、巨体が大きく飛び上がり、巨大な拳がサイカめがけて振り下ろされる。
ドゴォン!
サイカの身体が激しく吹き飛び、身につけていた西瓜の甲冑が砕け散った。
「サイカーーっ!」
それを見たセツナが飛び出す。
倒れたサイカは、ぴくりとも動かない。セツナはその前へ立ちはだかり、庇うように両腕を大きく広げた。
その瞬間――セツナの額が光り始める。
髪を留めていた布が千切れて宙へ舞い、額に浮かんだ菱形の印から光が溢れ出した。その光は、セツナと倒れているサイカを包み込んでいく。
だが、獣は止まらない。
「グオォォォン!」
巨大な拳をセツナへ振り下ろす。
ドンッ!
拳が、セツナの眼前で止まった。二人を包む光が壁となり、獣の拳を阻んでいる。
獣は四本の腕を振り上げ、何度も光の壁を殴りつけた。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
ピシッ――。
光の壁に、一本のひびが入る。
さらに拳が振り下ろされた。
ピシッ、ピシピシッ――。
ひびが一気に広がっていく。
その時――獣の背後から、ベヒモスの巨大な岩の剣が突き出された。
ドズンッ!
剣は獣の背中から心臓部を貫き、そのまま胸を突き抜ける。切っ先が、セツナの眼前で止まった。
「グ……オ……」
獣の四本の腕が、だらりと垂れ下がる。そのまま立ったまま、動かなくなった。
やがてセツナとサイカを包んでいた光が消えていく。
光が消えると、セツナは糸が切れたように、そのままサイカへ重なるように倒れ込んだ。




