サードの忠義
一方、サイカたちが泊まっている宿では――。
セツナは、まっすぐサイカを見つめていた。
「わかった。ただし、危なくなったらすぐ逃げろ。約束してくれ」
「……はい。分かりました」
その時、入口の戸の向こうから声が聞こえてきた。
「ただいまにゃ」
「ちょうどサードが帰ってきたか」
サイカが戸を開けると、サードが部屋へ入ってきた。そして、サイカをじっと見つめる。
「サイカ。今回は一緒に行けない」
「おい、サード。それはどういう意味だよ」
「あたしは桃太郎たちと行く。彼奴の子孫を、危険には晒せない」
サードは少しだけ目を伏せた。
「すまない、サイカ。アジトには行くな。あたしと桃太郎家で方をつける」
それだけ伝えると、サードは宿を後にした。
宿の前には、国継と桃太郎、そして奉行所から選ばれた腕の立つ者三名が待っていた。
桃太郎は、屋敷でサードから聞いた言葉を思い返していた。
『桃太郎は、あたしのことを玉藻と呼んでいた』
そして――。
『あの紫色の光は危険じゃ。あたしも一緒に行く。あやつに顔向けできんからのう』
宿からサードが姿を現した。
「玉藻様。よろしいのですか」
「大丈夫じゃ。行こう」
*
「届いたジェイドは、選んだ三匹の心臓に埋め込め」
「しかし……何もしなくとも、二日と持ちませんが」
ジュラは兵士を一瞥した。
「何か……問題でもあるのかな」
「い、いえ。問題ありません」
「なら、目立つ場所に放り出せ。桃太郎家の奴らと戦わせろ。うまくいけば、そのまま奴らを捕らえられる」
ジュラは続けた。
「それと、彼奴にジェイドは埋め込めたか」
「それが……かなり手こずっております。すでに兵士二名が負傷しました」
ダンッ。
ジュラが苛立たしげに床を踏み鳴らした。
「地下牢に子供が一匹いただろ。少しは頭を使え」
「……はっ」
「もういい。出ていけ」
兵士が慌てて部屋を出ていく。
ジュラはその背中を見送り、鼻で笑った。
「使えん奴ばかりだな……」
*
「いきなり、どうしたんでしょうか。サード様は」
セツナが、サードの出ていった戸を見つめていた。
「まあ、サードが自分から桃太郎について行くって言ったんだ。何かあるはずだ。俺はサードを信じるさ」
サイカは仲間たちへ振り返った。
「四本角を放っておくわけにもいかない。それに、桃太郎家にはご馳走になった借りもある」
少し間を置く。
「やっぱり一番は……大切な仲間のサードが危険に晒されるのを、放っておけない」
サイカは仲間たちを見回した。
「シルフィード、ベヒモス。頼めるか。それに、セツナ」
「ふん。オレ様だけでも十分だ」
「あっしの力、見せてやるでやす」
「わたしも足手まといにはなりません。サイカ」
サイカは三人を見て笑った。
「みんな、ありがとう。よし、やってやるかー」
*
日が暮れる少し前――。
桃太郎家一行は足早に、四本角のアジトがある沿岸部を目指していた。
国継が空を見上げる。
「日暮れ前に着かぬと、我らには不利じゃ。このままでは日が暮れる。どうする、桃太郎」
「はっ、父上。では、ここで夜営と致しましょう。奴らは夜目が利く。今夜はここで休み、明朝、四本角のアジトを攻めるのがよいかと」
「よかろう」
国継は同行している役人たちへ目を向けた。
「では、火を起こし、交代で見張りにつけ」
「はっ」
玉藻は、その様子を眺めながら小さく言った。
「あたしは、お前達を守るだけじゃ」
*
日が落ち、辺りがすっかり暗くなった頃。
焚き火の前で、桃太郎が玉藻へ声をかけた。
「玉藻様も、お休みになられた方がよろしいかと。拙者が見張りますゆえ」
「堅苦しいのは不要じゃ、桃太郎や」
玉藻は焚き火を見つめたまま、懐かしそうに目を細めた。
「昔はのう……桃太郎に頭を撫でてもらう時が、一番の幸せじゃった」
しばらく黙ったあと、小さく呟く。
「ちと、頭を……」
だが、すぐに顔を背けた。
「……いや、何でもない」
桃太郎は何も言わず、そっと手を伸ばした。そのまま、玉藻の頭をゆっくりと撫でる。
玉藻は一瞬だけ目を見開いた。
そして何も言わず、静かに目を閉じた。




