からくり地図とは
昔話と同じように、初代桃太郎も桃の中から生まれたのなら――。
西瓜の中から生まれた俺と同じ、転生者だったのかもしれない。
そんなことを考えながら、サイカたちはシルフィードの待つ宿へと帰っていた。道すがら、サイカは先ほど桃太郎と話したことを思い返す。
瓦版で見た蜘蛛の妖。その額には、紫色に輝く石が埋め込まれていた。祈祷師が胸につけていた、あの紫色の宝石と同じものかもしれない。
そして、その背後には四本の角を持つ男がいる。
祈祷師の持っていた地図にも、四本角の男たちの隠れ家が記されているかもしれない。そのことを桃太郎に伝え、サイカたちは屋敷を後にしていた。
「あっし、豆腐にはまりやしたでやす。あのふわっとした食べ物、初めてでやした」
「本当に美味しかったですね、サイカ様」
「うん。腹いっぱいだ」
サイカは薄暗くなった道の先を見る。
「結構遅くなっちまったな。シルフィードのやつ、怒ってるかな」
手に持っていた団子へ目を落とす。
「まあ、団子もあるし、すぐ機嫌直すか。なあ、サード」
「……なんか言ったか、サイカ」
「焼き魚のこと、まだ考えてたのかサードは」
後ろから、セツナとベヒモスの笑い声が聞こえてきた。
*
「東の村で、そのようなことがあったとは……父上、間違いなさそうです」
吉備津彦の言葉を聞き、国継はゆっくりと目を閉じた。
「うむ。そのようじゃな……」
しばしの沈黙の後、国継は拳を強く握りしめる。
「おのれ、四本角……父の仇、この国継が討ってくれようぞ」
「父上……」
国継は吉備津彦へ顔を向けた。
「吉備津彦……いや、桃太郎」
その呼び方に、吉備津彦の表情が引き締まる。
「当主であるお前を失うわけにはいかん。万一の時は……頼んだぞ」
「父上、それは――」
「祈祷師の地図の件は任せる。サイカ殿と協力し、四本角へ繋がる手掛かりを探すのじゃ」
国継は立ち上がった。
「わしはしばらく蔵と離れに籠る。鈍った身体を叩き直し、精神を研ぎ澄ます」
吉備津彦は父を見つめたまま、しばらく黙っていた。やがて、静かに頭を下げる。
「……はっ。承知いたしました、父上」
*
翌朝。
サイカは地図を抱え、サードと共に桃太郎家の屋敷を訪れた。
「サイカ殿、セツナ殿は来ておらぬのか?」
「仲間を昨日、宿にほったらかしにしてたからさ。怒ってて、今はセツナとベヒモスが機嫌を取ってる」
「……よく分からぬが、残念じゃ。それで、地図は持ってきたか?」
「ああ。これがその地図だ」
サイカは桃太郎に地図を差し出した。
「広間で広げてみよう。上がってくれ。茶も出そう」
二人は広間へ移り、地図を畳の上いっぱいに広げた。桃太郎が腕を組み、じっと地図を見つめる。
「怪しそうな場所や、何か書き込みは……」
「うーん……」
サイカも地図へ身を乗り出した。
その時――。
「あっ」
膝が湯呑みに当たった。倒れた湯呑みから熱い茶がこぼれ、地図の上へ広がっていく。
「ああっ! 手掛かりの地図が!」
慌てるサイカの横で、桃太郎が目を見開いた。
「待て、サイカ殿……これは」
茶が染み込んだ場所から、ゆっくりと何かが浮かび上がってくる。
「なんだ、これ?」
地図の上に、それまでなかった印が現れていた。
桃太郎は指先で紙を確かめる。
「そうか……からくり地図か。濡れることで印が浮かぶ仕掛けになっておる」
浮かび上がった印は一つ。都から東へ離れた沿岸部を指していた。
桃太郎の表情が変わる。
「サイカ殿。お手柄だぞ」
「え?」
サイカは倒れた湯呑みと地図を交互に見る。
「にっひひ……まあ、狙い通りだな」
「絶対に違うにゃ」
横で見ていたサードが即座に突っ込んだ。
*
机の上に置かれた紫色の宝玉が、淡く光り始めた。やがて、宝玉の中から低い声が響く。
『ジュラよ。皇女の手掛かりは見つかったか』
ジュラは宝玉へ向き直り、頭を下げた。
「はっ、閣下。依然として何一つ掴めておりません。この三十年、生死すら不明のままです」
『そうか……ならば、鬼族と人族には悪いが、ジェイドの検証を急がねばなるまい』
「はっ。検証は進んでおります。もうしばらくお待ちください」
『頼んだぞ、ジュラ』
「はっ」
紫色の宝玉から、ゆっくりと光が消えていく。
完全に光が消れたのを確認すると、ジュラの口元に笑みが浮かんだ。
「……偉そうにしやがって、ジジイが」
机を拳で叩く。
「あっははは! ジェイドさえ完成すれば……もう、あのジジイに頭を下げる必要もねえ」
ジュラは笑いながら、左肩へ手を添えた。その表情から、笑みが消える。
「それと……桃太郎家」
低い声で吐き捨てる。
「見ていろ。今度こそ、俺様がぶっ殺してやる」




