ジュラ動く
都から、さらに東へ離れた場所。海沿いの洞窟を改造して造られた砦があった。
「被験体六名、こちらに到着しました。現在は地下牢に入れてあります」
「それと、本国より船でジェイドが四つ輸送中です。到着は明後日になるとのことです」
報告を聞いたジュラは、ゆっくりと立ち上がった。
「ご苦労。下がってよし。我は地下牢へ行く」
「はっ」
ジュラは一人、地下へ続く石段を降りていった。
湿った空気の漂う地下牢へ足を踏み入れた途端、いくつもの声が飛んでくる。
「おい! ここから出せやー!」
「お願い! 助けて! ここから出してよ!」
「子供だけでも解放してくれ!」
「お父ちゃん! 母ちゃん、どこー!」
ジュラは答えない。
牢の前を歩きながら、一人ずつ顔を眺めていく。
「……威勢のいいやつはいるか」
やがて足を止め、牢番を呼んだ。
「こいつと、こいつ。それから……これだ」
「はっ」
残った者たちを一瞥し、ジュラは興味を失ったように背を向けた。
「後は、どれも同じだな」
*
その頃、桃太郎の屋敷では――。
「家直様に育てられたのか。あのお方が育てられたのなら心配無用だ。家宝の脇差しまで持たせるほどだからな」
「吉備津彦や。サイカ殿の祖父と我が父は仲がよかった。わしも小さい頃、よく手ほどきを受けたわ。何せ、ミカドの剣術指南役を務めたお方だ」
その時、広間の戸が開いた。
「若様、馳走の準備ができましたので、お運びいたしましょうか?」
女中の声に、サイカが勢いよく振り返った。
「やったー! もう限界寸前だった」
「あっはは。では、続きは馳走を食べながらにしようではないか」
ほどなくして、御膳が運ばれてきた。
村では見たこともない料理が並んでいる。
「うまそうだな。豆腐に焼き魚、それに蕎麦か」
「あっしは、その豆腐ってのは初めてでやす」
サードは焼き魚へ鼻を近づける。
「これは、うまそうだにゃ」
馳走を前にして、セツナが姿勢を正した。
「国継様、吉備津彦様。本日はお招きいただき、ありがとうございます。このような馳走、初めてでございます」
国継が笑う。
「腹も減っておろう。堅苦しい挨拶は抜きじゃ。さあ、食べようではないか。なあ、吉備津彦や」
そして女中へ手を上げた。
「それと、わしには酒じゃ」
「そうですね。ささ、皆さん、召し上がってくだされ」
宴が始まった。
しばらくして、サイカが顔を上げる。
「もぐもぐ……爺ちゃん、強かったけど、そんなに凄かったんだな」
口の中のものを飲み込み、屋敷を見回した。
「桃太郎家って、武家かなんかなのか? こんな広い屋敷に住んでるし」
吉備津彦は少し考えてから答えた。
「初代桃太郎様が仲間と共に、酒呑童子なる鬼族の頭を討ち取った。その功績により、当時のミカドからこの地と屋敷を譲り受けたのだ」
「初代桃太郎……」
「それ以来、当主が『桃太郎』の名を継ぐ。今は拙者が十二代目だ」
「じゃあ、桃太郎って名前じゃなくて、当主の呼び名なんだな」
「左様」
吉備津彦は頷いた。
「初代桃太郎様の仲間には、妖もいたと言われておる」
セツナが微笑む。
「サイカ様と同じですね。サード様にシルフィード様、それにベヒちゃん。皆、仲間です」
「そうかもしれぬな」
吉備津彦は小さく笑った。
「故に我ら桃太郎家が討つのは、人に仇なす鬼や妖のみだ」
サイカが箸を止める。
「鬼なら全部倒すってわけじゃないんだな」
「無論だ。我らが斬るのは、人に仇なす者のみ。人は斬らぬ。それが桃太郎家の契りだ」
「なるほどな……」
「ちと話が長くなってもうたな。冷めぬうちに食べてくだされ。セツナ殿も」
「はい」
皆が再び食事に戻る。
サードは焼き魚を食べながら、ふと顔を上げた。
三つの目が、ゆっくりと広間を巡る。
柱、天井、庭へ続く廊下。
「……ずっと昔に、ここへ来たことがあるような気がするにゃ」
誰に言うでもなく、サードは小さく呟いた。
国継は酒を一口飲むと、サイカとセツナへ目を向けた。
「ところで二人とも、特にサイカ殿はまだ幼いようじゃが、何用で都まで来られたのじゃ?」
「俺たちは、世界を見て回る旅をしてるんだ」
「世界をみるか」
「ああ。それと……鬼を見極めるための旅でもある」
吉備津彦の目が、わずかに細くなった。
「鬼を、見極める、か。面白いことを言う」
サイカは頷いた。
「俺の村では、ずっと鬼は人を襲うものだって教えられてきた。でも、初めて会った鬼の子は、普通の子供だった」
「鬼の子供か」
「ああ。ギンっていうんだ」
サイカは箸を置いた。
「だから、本当に鬼はみんな悪いのか、自分の目で確かめてみたくなった」
吉備津彦は何も言わず、サイカを見つめていた。
やがてサイカは、ギンと出会った日のことから話し始めた。




