早くご馳走食べたい
桃太郎は屋敷の家事場へ向かうと、女中に声をかけた。
「客人を連れてきた。馳走を四人前、用意してくれ」
「かしこまりました」
女中が準備を始めるのを見届けると、桃太郎は一人、小さく笑った。
「まさか拙者が、妖に馳走することになろうとは……世も末か」
そう呟きながら広間へ戻ろうとした、その時。
「ただいま、戻ったぞ」
父の声が聞こえてきた。
「父上、お戻りになられましたか」
「帰っておったか、桃太郎。ちょうどよい。明日、子供を二人ほど屋敷へ招くことになった。女中にも伝えておいてくれ」
「子供を二人……ですか」
桃太郎は少し考えてから口を開いた。
「父上、それは奇遇ですな。実は今、拙者も客人を広間へ通しております。男の子供と、その姉でございますが……」
そこで少し間を置く。
「姉の方が、いやに美しく拙者の目に映りましてな」
父の口元がわずかに緩んだ。
「ほう?」
桃太郎は軽く咳払いする。
「それはさておき、害はなさそうですが、化け猫の妖と、妙な土竜のような妖も一緒でございます」
父は少し驚いたように桃太郎を見る。
「吉備津彦や。お主が妖を屋敷へ招いたとな?」
「はい」
「あっはは、それは良きことじゃ。すべての妖が悪いわけではない」
父は穏やかな表情のまま続けた。
「我が一族は、鬼や妖の悪しき所業を許さぬ。だが、その姿だけで善悪を決めてはならん。その奥に潜む邪を見抜く目を持たねばならん」
「心得ております、父上」
「ならば、わしも見てみようかのう。お主が見染めたおなごと、その妖とやらを」
「父上! 見染めたなどとは、まだ申しておりませぬ!」
*
その頃、広間ではサイカがすっかり足を伸ばして寛いでいた。
壁に掲げられた【桃】の家紋を眺めながら、首を傾げる。
「もしかして……いや、もしかしなくても、あの桃太郎の一族だよな。だったら、この屋敷に犬、雉、猿もいるのかな?」
セツナが不思議そうにサイカを見る。
「サイカ様、桃太郎様のことを何かご存知なんですか?」
サードが横から口を挟んだ。
「サイカはな……なんと言うか、元は違う世界の人間だにゃ。その世界の記憶を持ったまま、この世界に生まれてきたにゃ」
少し考えてから付け加える。
「まあ、今はこの世界の人だにゃ」
「そうなんですね……」
セツナは少し考え、言葉を選びながら口を開いた。
「前の世界の記憶があるけど、今はこの世界の人ってことですよね?なら、私たちと同じじゃないですか」
セツナはにこりと笑った。
「だって、今はみんな一緒に旅をしてるんですから」
サイカはセツナを見つめ、それからサードとベヒモスへ目を向けた。
少し照れくさそうに笑う。
「みんな、この世界で出会った仲間だ。シルフィードもな」
すると、それまで黙って聞いていたベヒモスが胸を張った。
「あっしも、お仲間に入らせてもらいやす」
その瞬間――。
サイカの手の甲にある西瓜の印が、淡く輝き始めた。
「ん?」
浮かんでいた数字が、ゆっくりと変わっていく。
――98。
そして、
――97。
「おっ……また減った」
サイカは手の甲を見つめ、それからベヒモスへ笑顔を向けた。
「ベヒモス。改めてよろしくな」
「ベヒちゃん、よろしくね」
「よろしくにゃ、ベヒモス」
ベヒモスは胸を張り、力強く宣言した。
「このベヒモス、皆さんをお護りいたしやす!」
「…………」
なぜか、ベヒモス以外の全員が笑った。
「な、なんで笑うんでやすか!?」
その時、広間の外から桃太郎の声が聞こえてきた。
「セツナ殿。父上がご挨拶したいと申しております。入ってもよろしいかな?」
「はい。どうぞ、お入りくださいませ」
襖が開き、桃太郎と一人の男が姿を現した。
男は広間へ入ると、サイカたちを一通り見渡した。
「それがし、吉備津彦の父、国継と申す」
セツナも丁寧に頭を下げる。
「東の村のセツナと申します。桃太郎様にお招きいただき、嬉しい限りです」
「俺は……いや、自分は、同じく東の村出身のサイカと申します」
サイカは慣れない口調で挨拶したあと、頭を掻いた。
「やっぱり、こういう堅苦しいのは苦手だな」
国継は「あっはは」と声を上げて笑った。
「無理に畏まらんでもよい」
「あたしは、猫じゃないサードアイにゃ」
「あっしはベヒモスと申しやす。以後、お見知りおきを」
国継はサードとベヒモスを興味深そうに見たあと、再びサイカへ視線を戻した。
「はて……東の村のサイカ、と申したな。お主の祖父はなんと申す?」
「爺ちゃんの名前?」
サイカは首を傾げる。
「今日は二回目だな、それ聞かれるの。飯篠家直だよ」
国継の目が、わずかに見開かれた。
「……やはり。家直様に育てられたサイカ殿であったか」




