遂に都にやってこれた
都からさらに東の、とある場所。
「ジュラ将軍。無音蜘蛛が桃太郎に討たれたとの報告が入ってきました」
「妖の仕業として騒ぎになっているだけで、こちらへ疑いが向く気配はありません」
「そして、被検体六名は現在こちらへ連行中です」
「そうか。ご苦労、下がってよい」
「はっ!」
部下が辞去すると、ジュラは手の中で紫色に輝く宝玉へ目を落とした。
「所詮は妖か。足りぬ力と知恵を与えたところで、蜘蛛は蜘蛛だな」
宝玉を指先で転がし、わずかに口元を歪める。
「だが……補う力そのものは使える」
その時、ジュラの手が左肩へ伸びた。先ほどまでの余裕が消え、低い声に怒気が混じる。
「桃の一族……このままにはしておかぬわ」
*
一方、サイカ一行は野宿を挟み、ようやく東の都を望めるところまでやってきていた。
山道の先には高い城壁が長く伸び、その向こうには無数の屋根が連なっている。そして、その中央にはひときわ高い城がそびえ立っていた。
姿を消して上空を飛んでいたシルフィードが声を飛ばす。
『サイカ! 都が見えたぞ。もうすぐだ!』
「浮いてるだけのお前は楽でいいよな。なあ、セツナ。もうちょいだそうだ」
「初めての都です。楽しみですね、サード様」
「あたしも数十年ぶりだにゃ」
「あっしは、美味いものがあるか楽しみでやす」
サイカは遠くに見える都を眺め、大きく息を吐いた。
「よし! あと少しだ。行くぜー!」
*
しばらくして、サイカたちはようやく都の大門まで辿り着いた。
「着いたぁー! 腹減ったー! とりあえず宿を取って、それから飯だ!」
勢いよく門を通り抜けようとしたところで、門兵の一人がサイカたちの前へ出た。
「待て。そこの子供二人と……猫」
「............」
「見ない顔だな。都へ入るなら手形を見せろ」
「手形?」
サイカはきょとんとした。
「そんなのいるなんて聞いてないぞ……」
セツナを見ると首を横に振る。サードも同じように首を振った。
「知らないにゃ」
「どうすんだよ……」
困ったサイカは腰に手をやり、そこで脇差しに触れた。
出発の日、爺ちゃんが言っていた。
――都で困ったことがあったら、その脇差しを見せてみろ。
「あっ、そうだ!」
サイカは鞘に収めたまま脇差しを外し、門兵へ差し出した。
「おっちゃん、これ見てくれ」
「なんだ? 刀じゃないか。子供がこんな物を持ち歩くんじゃない。危ないから預かるぞ」
門兵が脇差しへ手を伸ばした。
「待て!」
隣にいたもう一人の門兵が、慌ててその腕を掴んだ。
「なんだよ?」
「よく見ろ。その鍔だ」
「鍔?」
門兵が目を凝らす。
次の瞬間、表情が固まった。
「……おい」
鍔には、一つの家紋が刻まれている。
「ミカドの紋じゃないか……」
*
都の一角にある屋敷。
桃太郎は、机の上に置かれた小さな鉱石を見つめていた。
無音蜘蛛の額から取り出したものだ。取り出した直後は紫色に輝いていたが、今はどこにでもありそうな黒ずんだ石にしか見えない。
桃太郎は鉱石を指先で転がした。
「こやつが……あの蜘蛛に力と知恵を与えていたのか?」
蜘蛛の動きが脳裏に蘇る。
刀を狙ったこと。罠へ誘い込んだこと。妖にしては、あまりにも知恵が回りすぎていた。
桃太郎の目が細くなる。
「紫の石……」
しばらく沈黙した後、低く呟いた。
「まさか……我が祖父の仇が、再び動き始めたというのか」




