↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら西瓜のなかだった。鬼退治をするつもりが、鬼が可愛く見える奴らばっかりだった件  作者: 転生者が西瓜だったら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/34

追い詰めたのは

桃太郎は紫色の血の跡を追い、森の中へ入っていった。


奥へ進むにつれ、木々が月明かりを遮り、足元さえ見えなくなっていく。


桃太郎は足を止めた。


「足場さえ分からぬ。仕方がない」


片手で印を結び、小さく何かを呟く。


すると刀が淡く輝き始め、その光が周囲の闇を照らしていった。


「これでは、こちらの居場所を教えているようなものだな」


刀を掲げながら、再び血の跡を追う。


だが、先ほどまで続いていた紫色の血は次第に途切れ途切れになり、やがて一本の大木の前で完全に途絶えた。


桃太郎は足元を確認し、ゆっくりと頭上を見上げる。


「この木の上か……それとも、木を伝って逃げたか。最初に襲ってきた時も足音がなかった。相当に身軽な奴と見た」


その時――。


カサッ。


葉の揺れる音がした。


カサ、カサ、カサ……。


一か所ではない。


右から、左から、そして頭上からも聞こえてくる。


桃太郎は刀を高く掲げた。


光が木々の間を照らした瞬間、その表情が変わる。


無数の白い糸が、枝から枝へ、幹から幹へと張り巡らされていた。


「……しまった。ここは奴の住処か」


桃太郎は刀を握り直した。


「追い込んでいたつもりが……おびき寄せられたのは、拙者の方だったか……」


暗闇の中で、赤い六つの目が光った。


次の瞬間、巨大な蜘蛛の妖が木の上から飛び込んできた。


八本の脚が一斉に桃太郎へ襲いかかる。


「ぬっ!」


桃太郎は咄嗟に後ろへ下がった。


だが、背後の大木が邪魔をして、十分に距離を取れない。


刀を前へ突き出すと、刀身がさらに強い光を放った。


蜘蛛の妖はその光を嫌うように身を翻し、糸を使って再び木々の間へ身を隠す。


直後、頭上から白い糸が吐き出された。


糸は桃太郎の刀に絡みつき、一気に引き上げる。


「ぐっ……!」


桃太郎は両手で刀を握り、力いっぱい引き戻した。


だが、蜘蛛の力は凄まじい。


刀ごと身体を振り回されそうになる。


桃太郎は刀に絡みついた糸を睨み、低く呟いた。


「カグツチ――力を貸せ」


ボウッ!


刀身が炎に包まれた。


絡みついていた糸が一気に燃え上がり、その炎は糸を伝って木々の奥へ走っていく。


「ギキャァッ!」


蜘蛛の悲鳴が森に響いた。


炎は糸を伝って蜘蛛の腹部まで達し、糸を吐き出していた辺りを焼いていく。


蜘蛛は慌てて糸を切り、近くの木へ飛び移った。


桃太郎は刀を構え直す。


「これでもう糸は出せまい。観念するがよい」


蜘蛛は幹に張りついたまま、桃太郎の様子を窺っている。


桃太郎も動かない。


刀を構えたまま、静かに待つ。


しばらく睨み合いが続いた。


先に痺れを切らしたのは蜘蛛だった。


木を蹴り、凄まじい勢いで桃太郎へ飛びかかる。


その瞬間、桃太郎は刀身を強く輝かせた。


「ギッ……!」


六つの目を強い光に照らされ、蜘蛛の動きが鈍る。


蜘蛛は光を避けるように、咄嗟に顔を背けた。


「遅い」


桃太郎が一歩踏み込み、刀を振り抜いた。


ズバァッ!


斬撃が蜘蛛の身体を一直線に切り裂く。


巨大な身体は真っ二つに裂け、地面へ落ちた。


八本の脚を激しくばたつかせていたが、やがてその動きも弱まり――完全に止まった。


桃太郎は刀についた紫色の体液を払い、蜘蛛の死骸を見下ろした。


「此奴、拙者ではなく刀を狙ってきよったな。この手の妖にしては随分と知恵が回る。よほど長く生きた蜘蛛だったのか……」


桃太郎は刀の光を頼りに、周囲を見て回った。


木々の間には、獲物を包むためと思われる白い糸がいくつも垂れ下がっている。


だが、生きたまま糸に巻きつけられた人間は、一人も見つからなかった。


「妙だな……この手の蜘蛛妖なら、捕らえた獲物を生きたまま保存するはずだ。それが一人もおらぬ」


桃太郎は蜘蛛の死骸へ戻ると、刀の先を使って巨大な身体をひっくり返した。


額の辺りに、紫色の光が見える。


桃太郎は眉をひそめ、刀の光を近づけた。


そこには――紫色に光る何かが、蜘蛛の額から覗いていた。


*


サイカ一行は、のんびりと街道を都へ向かって歩いていた。


「おー! スッゲー大きな橋があるぞ! セツナ、見てみろよ!」


街道の先には、太い木材を幾重にも組み上げた大きな橋が架かっていた。


サイカとセツナは、思わず橋の方へ駆け出した。


その後ろで、ベヒモスだけがぴたりと足を止める。


橋をじっと見つめたまま、サイカへ声をかけた。


「あ、あっしは……こ、ここまででやす」


サイカが振り返る。


「あれ? おい、ベヒモス。もしかして橋を渡るのが怖いのか?」


「そ、そんなわけないでやすよ! へ、へっちゃらでやす!」


「うふふ。ベヒちゃん、かわいい」


セツナはしゃがみ込むと、鞄を開いてベヒモスの前へ差し出した。


「どうぞ」


ベヒモスは少しだけ橋を見上げると、そそくさと鞄の中へ入っていった。


「ちょうど、あっしも疲れていたところでやす。皆さんはお気になさらず」


「まあ、そういうことにしておくか」


サイカたちは橋を渡り、そのまま都へ続く街道を進んでいった。


夕暮れが近づくにつれ、街道を行き交う人の姿が少しずつ増えてきた。


サイカは周囲を見回す。


「昨日は、人が襲われるから夜の街道には近づくなって言ってたのに……今日はやけに人が多いな」


しばらく歩くと、街道脇の立て看板に一枚の瓦版が貼られているのを見つけた。


「なんだ、これ?」


サイカは足を止めた。


大きな文字で――


号外――街道を襲っていた蜘蛛の妖、討伐。鬼妖討伐の桃太郎家、これを退治す。


と記されている。


「……桃太郎?」


サイカは瓦版へ顔を近づけた。


「桃太郎って……あの桃太郎か?」


もう一度、書かれている文字を見る。


「でも、桃太郎『家』ってなんだ? 武家みたいなもんか?」


セツナも隣から瓦版を覗き込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。