東の都に出発
サイカたちは、東の都へ向かう途中の山道で、少し休憩することにした。
「少し休憩するか。腹も減ったしな」
そう言うと、婆ちゃんが持たせてくれたおにぎりを取り出し、サードとセツナに差し出した。
「いっぱいあるから遠慮なく食べろよ。干し芋も山盛り持ってきたからな」
「いただくにゃ!」
「お腹ぺこぺこです」
『俺は少し寝る』
シルフィードはそう言うと、その場で丸くなったときに、サイカの手の甲が一瞬光って見えたがそのまま目を閉じた。
サードは器用に前足でおにぎりを押さえ、夢中でかぶりついている。
サイカも一つ食べ終わり、もう一つ取ろうとした。
「あれ? 四つあったと思ったけど……」
そこにあるはずのおにぎりがない。
サードとセツナを見るが、二人ともまだ一つ目を食べている。
「……?」
サイカは風呂敷から、もう一つのおにぎりの包みを取り出そうとした。
その時、中で何かが動いた。
反射的に掴んで持ち上げる。
「あっ、こんにちは。二回目ですね」
「……お前」
以前、畑で芋のつると一緒に釣り上げた、モグラみたいな奴だった。
サイカはそいつに話しかけた。
「お前も腹ペコなのか? まだ沢山あるから、一緒に食べよう」
「いいんでやすか? あっしなんかに……」
「腹ペコだろ。いいから食えよ」
「いただきやす!」
「ただし、もう盗むなよ」
そう言いながら、モグラにおにぎりを差し出した。
謎の生き物は何度も頷くと、おにぎりにかぶりつき、むしゃむしゃと夢中で食べ始める。
「よほど腹を空かしてたんだにゃ。サイカ、あたしにももう一つにゃ!」
セツナも少し照れくさそうに手を伸ばした。
「サイカ様、私もおにぎりください」
「はいはい」
シルフィードだけは、丸まったまま細めた目でモグラをじっと見つめていた。
*
しばらくして――。
「食った食った! 元気出たー!」
サイカは立ち上がり、大きく伸びをした。
「サード、シルフィード、セツナ。そろそろ出発するか。暗くなる前に街道まで行かないとな」
まだおにぎりを食べているモグラに目を向ける。
「それにしても、めちゃくちゃ食べるな。そのサイズで……おにぎりなくなっちゃったぞ」
「お前はどうする? 俺たちはこのまま東の都に向かうつもりだけど、一緒に来るか?」
「あっ、それと名前はあるのか? いつまでも『お前』じゃ呼びにくいしな」
サイカは自分を指差した。
「俺はサイカ。こっちはサード。龍のシルフィード。それからセツナだ」
モグラみたいな生き物は、少し考えるように首を傾げた。
「あっしの名は――ベヒモス」
「……ベヒモス?」
「土竜ではないので、悪しからず」
胸を張る。
どう見てもモグラだった。
「おにぎりのお礼に、都までお供しやす」
サイカは改めてベヒモスを上から下まで眺めた。
「……ベヒモスって、もっとこう……デカい奴じゃないのか?」
「失礼でやすね」
*
東の都から北へ延びる街道を、一人の若者が歩いていた。
腰には一本の刀。
最近、北の街道で夜な夜な旅人が襲われている――。
そんな噂を都で聞きつけ、一人で討伐へ向かっている途中だった。
若者は足を止めることなく、山道へと歩を進めていく。
その額に巻かれた鉢金には――
桃の家紋が刻まれていた。




