↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら西瓜のなかだった。鬼退治をするつもりが、鬼が可愛く見える奴らばっかりだった件  作者: 転生者が西瓜だったら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/34

生け贄とは何なんだ

サイカはそっと玄関の戸を開け、家の中へ入った。姿を消したシルフィードも、その後に続く。


「おはよう、サイカ。爺さんはもう畑に行ったよ」


「婆ちゃん、おはよう。じゃあ、俺も爺ちゃんの手伝いに行ってくる」


「はいよ。気をつけてね」


それだけだった。


(爺ちゃんも婆ちゃんも……やっぱり分かってたのかな)


そんなことを考えながら、サイカは畑へ向かった。


途中、向こうから小さな猫と、弥生姉ちゃんくらいの年頃に見える女の子が歩いてくる。


(……サード?)


「サード! 遅かったから少し心配したぞー!」


「にゃー。あたしは強いんだぞ。心配せんでも大丈夫にゃ」


サードはそう答えると、サイカの後ろへ顔を向けた。


「……ん? サイカ、お前の後ろに誰かいるのかにゃ? 姿は見えないが、気配がするぞ」


「さすがサードだな」


サイカは小さな声で答えた。


「姿を消してもらってるんだけど、ドラゴンの子供だ。シルフィード。新しい仲間」


「にゃにぃー!? ドラゴンの子供だとぉー!」


「しーっ!」


サイカは慌ててサードの口元を押さえた。


「喋る猫とドラゴンを、そんな大声で言ったらダメだろ!」


「むぐぐ……それもそうだにゃ」


「自分で言ってから気づくなよ……」


サイカはため息をつくと、今度はサードの隣にいる女の子へ目を向けた。


弥生姉ちゃんくらいの年頃だろうか。動きやすそうな旅装に、頭には髪を押さえるような幅広の布飾りをつけている。今まで村では見たことのない格好だった。


「ところでサード、その子は誰?」


「ああ、紹介するにゃ。セツナだ。一緒に来ることになったにゃ」


セツナがサイカの前へ出る。


「セツナです。よろしくね」


「俺はサイカ。よろしく!」


その時、何もないはずのサイカの後ろから声がした。


『オレはシルフィードだ。よろしくな』


「えっ!?」


セツナが目を丸くし、辺りを見回す。


「あっ、今のは……」


サイカは頭を掻いた。


「まあ、その辺も含めて説明するよ」


その後、サイカとサードは、互いに昨夜あったことを簡単に伝え合った。


サイカ、サード、セツナ、そして姿を隠したシルフィード。


こうして四人が、初めて同じ場所に揃った。


「……あっ! 爺ちゃんに怒られるー!」


サイカは畑へ向かって全速力で走り出した。


『何だ、あいつ』


「いつものことだにゃ」


セツナがくすっと笑った。


だが――畑へ向かっていたサイカは、村外れで足を止めた。


視線の先で、何か思い詰めた顔をした弥生が、なりふり構わず山の中へ走っていくのが見えたからだ。


(……弥生姉ちゃん!?)


サイカはすぐに、後ろからついてきていたサードたちのもとへ引き返した。


「サード、シルフィード、セツナ。ちょっとここで待っててくれ。すぐ戻る」


「にゃ? どうしたんだにゃ」


「いいから待ってろ!」


サイカはそう言い残すと、足音を殺して弥生のあとを追った。


*


「弥生、少し外に出ていなさい」


両親にそう言われ、弥生は家の外へ出された。


入れ替わるように家の中へ入っていったのは、村長だった。奥の部屋で両親と何を話しているのか、確かめるまでもない。


(やっぱり……あの件だ……)


胸が押し潰されそうになり、弥生はその場にいられなくなった。気づけば走り出していた。


行く当てもなく走り続け、いつの間にか村外れの山へ入っていた。


生い茂る木々の下、息を切らしながら湿った地面へ寝転がる。葉の隙間から覗く白い空を、ぼんやりと見上げた。


「あと二年は猶予があるって……言ってたじゃない……」


村のため。村を守ってくださるドラゴン様のため。


幼い頃から、そう言い聞かされてきた。けれど、いざその時が目前に迫ると、怖くて仕方がない。


「……嫌だよ……生贄なんて、まだなりたくないよ……」


両手で顔を覆い、くぐもった声を絞り出す。


「誰か……誰か助けてよ……」


その時、顔に影が落ちた。


涙で濡れた指の隙間から見上げると、そこには見慣れた少年の顔があった。


サイカだ。


「……っ!?」


弥生は慌てて涙を袖で拭うと、弾かれたように起き上がった。


「サ、サイカ……! また勝手に山に入ってきたらダメじゃない……!」


いつもの姉ちゃんを装った声が、わずかに震えている。


サイカは何も言わず、弥生をまっすぐ見つめた。


「姉ちゃんは、何も心配しなくていい」


「……え?」


「俺が、どうにかするから」


それだけ言うと、サイカは迷いのない足取りで弥生に背を向けた。


「ちょっと、サイカ! 危ないことはしないでよ! 私なんかのために……!」


背後から聞こえる弥生の声を振り切るように、サイカは山を下りた。


*


サードたちのもとへ戻ったサイカの表情からは、いつもの子供っぽさが消えていた。


(やっぱり、生贄の時期が前倒しになったんだ。時間がない……まずは村長に話を聞く)


サイカは短く指示を出した。


「サード、お前はセツナを爺ちゃんと婆ちゃんのところへ連れていってくれ。俺とシルフィードは村長の家に行く」


そして、姿の見えないシルフィードへ顔を向けた。


「行くぞ、シルフィード」


「わかったにゃ」

『わかった』

「わかりました」


*


サイカとシルフィードは、村長の家の前まで来ていた。


「シルフィード。俺が合図したら姿を見せてくれ。頼む」


『頼まれるまでもないことだ』


「よし」


サイカは戸の前に立った。


「村長、サイカだ。話がある!」


そう言うと同時に、戸を開ける。


囲炉裏の前に座っていた村長が、少し驚いたように振り返った。


「サイカか。いきなり何じゃ」


少し苛立った声だった。


サイカは村長の前まで歩いていくと、まっすぐその顔を見た。


「村長。あんたは、ドラゴンが鬼からこの村を守ってくれて、その見返りに村の娘を生贄に差し出してる。そうみんなに言ってるよな?」


村長の表情が変わった。


しばらく黙ったあと、視線を落とす。


「……そうじゃ。生贄を出すのは悲しいことじゃ。じゃが、村のみんなを守るためには仕方がない」


「それ、本当にドラゴンが言ったのか?」


「何?」


「生贄を出せって、ドラゴンが直接言ったのかって聞いてるんだ」


村長は答えなかった。


サイカは続ける。


「昨日、俺はドラゴンに会った。でも、生贄の話なんて一度もなかったぞ」


「ドラゴンに会ったじゃと?」


「ああ。話もした」


村長はしばらくサイカを見つめていたが、やがて呆れたように息を吐いた。


「……大方、夢でも見たんじゃろう。サイカ、お前はまだ子供じゃ。悪いが今は忙しい。家へ帰りなさい」


「夢じゃない」


サイカは何もない囲炉裏の横へ視線を向けた。


「シルフィード」


『ああ』


次の瞬間、何もなかった空間がゆらりと歪んだ。


透けていた輪郭が少しずつ形を取り、角、鱗、長い尾が現れていく。


やがて、一匹の子龍が村長の目の前に姿を現した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。