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48歩 開拓者

「えと。開……拓者は冒険者と違うの?」


町の代表さんへの一つ目の質問。

瞬いて輝く星とニッコリ笑っているかのような月夜がまるで天蓋のよう。

陽気な音楽とたくさんの篝火が爆ぜる音がきっと大森林にも届いてる。

曲にあっているのかいないのか自由に踊る人たちの笑顔が華やか。


賑やかすぎる宴の中で真面目な話をするのはいいのかな?

でもいろいろ聞きたい。

いまこそファイン先生、詐欺師である舌のエスクロに教わった話術を真似するとき。

いきなりルプスお母さまに関わることを聞くのは不自然だと思うから簡単なことから聞いてみることにした。

実際知らないことだし。つまり結局ほとんど素なのかも。


「もちろんだ。冒険者は冒険者ギルドからの依頼を達成することで報酬を得る。冒険者のことなら知ってるか?」


冒険者のお仕事はちらっとだけ知ってる。

依頼主は村単位だったり、個人だったり、国だったりいろいろ。

農作物や家畜を襲う獣や魔獣の退治。商人や旅人の護衛。素材採集。遺跡の調査。ときには国境での小競り合いや野盗退治に雇われることもあるとか。


「うん。少……しだけ。開拓者は違うの?」

「開拓者は依頼があって活動するものじゃないんだ。アーヤは城塞都市フォルテからきたのではないか? 開拓地が近くにない大きな都では開拓者ギルドがあっても開拓者自体はほとんどいないから知らない者も多いだろう」


「うん。アーヤも知……らなかった。旅に出て冒険者の人に会うのも初めてだったし。開拓者なんて全然知らなかった……よ?」


「開拓者は大森林フォレバストや未開の地の探索を主な活動にしている。そこで得られたものを収入源にするのさ。どこまでも続く広野でたった一人で開拓に勤しむ変わり者もいたりな」


変わり者。そういえばわたしが広野で初めて会ったときの青い髭のおじさんティオはなにをしていたんだろう?


「まあ。普通に暮らしてたら関わることはない。もしも関わることがあるとしたら大体が被害を出す魔獣の討伐とか素材の調達だからな。ああ。薬師なら薬草採集を依頼することもあるのは知ってるな? 開拓者ではなく冒険者だとは思うが」


「話に……は聞いたことがあるよ? だけどうちは薬草園があった……から」


ヴァイゼ孤児院の薬草園はとても立派。広い畑にいろんな種類の植物が育てられている。大森林フォレバストにあるような葉っぱもたくさんあった。


「そうか。フォレバストで採集できる新種の植物なんかは価値が高いことがあるらしいぞ? なあ?」


町の代表さんが薬師のお姉さんに話を振った。

新種は価値が高い? そうなの?


「ええ。そうね。だからこそわたしみたいに新種ばかりを狙う変わり者の薬師がこんなところにいるわけだけど。未知の採集物から新薬が作れるのは夢のようよ。アーヤちゃんの薬も魔法鑑定させてもらったけど、とても効能効果のあるものばかりで驚いたわ。薬草園があると言ってたけど珍しい植物があるのかしら? 植物採集と栽培に成功した人はとても優れているのでしょうね」


あー。そっか。あの薬草園の葉っぱは髭のおじさんが集めてきたのかも? いろんなところに狩りとかに行くこともあるって言ってたし。

大森林からわたしをさらった鳥獣の化け物ロクツバサを試作の魔導砲でやっつけたって言ってたし、もしかしたら開拓者みたいなことをしてたりして?

裏ギルド<プラント>の支部長をしていたり孤児を拾ってきたりとあれこれ忙しい人だよね?

次に会うことがあったら聞いてみたい。


それはともかく。話がそれたから元に戻さないと。


「え……と。だからこの町に開拓者が集まってるの? ほか……にもあるの?」


「当然だ。ほかのギルドと同じく各国各地にあるさ。この町はフォレバストを開拓する拠点の一つでな。大森林の周囲に多いがここは街道が近くて便利でいい。もちろん大森林以外にもたくさんあるぞ。開拓者が切り拓いた恩恵は民に潤いをもたらすこともあれば国に貢献することもある。偉大な生業さ」


町の代表さんがとても誇らしそうに話してる。

薬師のお姉さんとの話しを例にすると、新しい薬で疫病とかも治せることがあるだろうから期待している人も多いんだね?


「だからこそ。掟を破り規範を守らない開拓者には厳罰が待っている。今日のように恩恵ばかりじゃない危険なことを招くこともあるからな」


人族が原因で魔獣の群れが町を襲うこともあるって言ってたもんね?

子黒狼を生きたままさらったことで母黒狼が森の外にまで追いかけてきたわけだし。


「掟破りとかすると開……拓者ギルドを通じてすぐにみんなに知れ渡るんだね?」


「内容によってすぐってわけでもないが、どこのギルドも重要事項は密に周知させるものだ。開拓者ギルドも独自の連絡手段をとっている」


なんとか順序よく聞けているかな?

そろそろわたしの知りたい話をしても良さそう。

でもその前に少しだけ。町の代表さんが話をしやすそうにしておいた方がいいかも。ファイン先生の言う通りにするなら……。


「おじさん、とっても詳しいんだ……ね? アーヤ。全然知らなかった。いろいろ教えてくれてあり……がと」

「ああ。俺は町の代表もしているがこの町の開拓者ギルドの長も兼任しているから当然だ。分からないことがあれば聞くといい」


朗らかな笑顔で笑ってくれる。きっといい人。

わたしも話しやすくてうれしいし、知らないことを知ることができるのは楽しい。


「わあ。と……っても偉い人だ。すごいんだね」


素直に手を叩いて小さく拍手した。誠実そうで真摯な瞳が時おり子どもみたいに感じることもある。きっとこの町の人たちに信頼と尊敬を受けて選ばれているんだろうなあ。


「はは。まあな。だからこそ掟破りには厳しく対応しないとな。それこそ責任問題になる」


「掟を破った人……たちってずっとそんなことをしてたのかな?」


これも聞きたいことの一つ。もしかしたら妖精郷を襲った人族と関係があるかも。


「いや。今回が初めてだそうだ。せっかく腕がいいと期待していただけにがっかりもいいとこでな。偉いって言っても実は胃が痛いし大変なんだぞ?」


初めて……。5年前のことだから関係ないよね。


「ふーん。そう……なんだ。お仕事大変。よしよしなでなでする?」


右手を挙げて頭を撫でるポーズをしてみせた。


「ぶっ!? いやそれはどうなんだ!?」


わたしはみんなに頭を撫でてもらうとホッとしたけどなあ。遠慮しなくてもいいのに。偉くなると人の目が気になるのかな?

でも高級クラブ<クラウン>にきてるお客さんはヴィペラママをはじめとした夜の蝶々たちに褒められると喜んでたしなあ。


「やってもらえば?」


薬師のお姉さんが冷ややかな目で町の代表さんを見てる。


「責任問題になりかねんから撫でなくていい!」


なんでそんなに焦ってるのかな?

そろそろ本題を切り出してもいいかも。余計な話が広がる前に。


「そ……んなに責任になることがあるんだね? 例えば密……猟とか? いままでにもきっと大変なことがあったんだよ……ね?」


「そうだな。開拓者ギルドを通さない密猟なんてのは確かにある。各地の森を棲み家にする獣人を狙った奴隷商人とかもいるしな。そういった奴らにも対処しないといけないのは面倒なことだが開拓者ギルドとしては面子を潰されるわけにもいかん。密猟グループは腕の立つ奴が多いが、俺がしっかり叩きのめしてやったこともあるんだぞ」


奴隷商。やっぱりいるんだ。耳長ウィンたちをさらったひどい奴ら。


「さ……すがギルドの長さんだね。とっても強くてすごい。アーヤも強くな……れるかな?」


「わはは。アーヤみたいな力の弱い女の子に開拓者は勧められないな。気づいているかもしれんが開拓者は肉体を鍛えた者が多い。たとえ魔法使いや治癒師でも強靭な肉体がないと開拓者にはとてもなれん。だから戦士が多いし魔法使いでもたくましい。そこは冒険者とは違うところでな。恐ろしい魔獣を相手にして秘境や魔境を開拓する者は強くなくてはいかん」


それはよく分かる。非力で素早く動けない人が森の中に入ったらすぐに死んじゃう。

魔法使いは魔法の研究や都市の発展に力を入れるのが当たり前で冒険者になる人は珍しいって聞いたことがある。


「そ……うなんだ。すごいんだね。もしかしてだけど? 魔……境には恐ろしい魔獣だけじゃなくて伝説の獣とかもいたりするのか……な?」


やっと本題。お願いだから少しでも知りたいことがあって欲しい。


そう思うと緊張で胸が痛い。

ドキドキする鼓動と思いにうっかり顔をしかめてしまう。

それはダメ。

伝説やおとぎ話、双子のライのようにお姫様に憧れるような顔をしないとダメ。

口元を緩めてキラキラするような瞳で町の代表さんを見つめるの。

アーヤ。がんばれ。


「いたりするかも知れん! 神獣とか魔王とか言われる白銀狼ってのがどこぞの都にいるって話も風の噂で聞いたことがあるくらいだしな!」


とうとうきた!

わたしの心臓がとびきり跳ねた。


「白銀狼! 大……森林で見つけたのかな! でもでも密……猟者か開拓者が狩ったりしたのかな? それはとても大変なことだよ……ね?」


伝説の存在のことを聞いてはしゃぐ女の子を演じて見せる。そして心配する素ぶりも。

重要事項が密に周知されるなら。きっとルプスお母さまに関わる情報がある。きっとある。


「あっはっは! それは噂だよ! だから心配しなくてもいい! 白銀狼なんて幻の存在だったらそれこそ開拓者や冒険者だけじゃなく大騒ぎになってるさ! ひと目お目にかかろうとお祭り騒ぎになるってもんだ! (国家レベルやお偉いさんの極秘の依頼だったら分からんが)」


「そうだよね! アーヤも見たいよ! だ……けどひと目だけでいいの? 狩りもするんで……しょ?」


ルプスお母さまは殺されてしまった。この人たちだって欲に目がくらんで同じことをするかもしれないんだ。


「ん? そりゃあなあ。俺たち開拓者は夢と生きるために魔獣を殺す。だがな。偉大な獣に畏怖もするし尊敬もしてる」


偉大? 尊敬? そうなの?


「それに神獣や魔王なんて言われてるもんに手を出してみろ。それこそどうなるか。世界を滅ぼす原因にもなりかねん」

「世……界を?」


あまりに大きすぎる話にきょとんとしてしまった。いくら強くて賢い白銀狼のルプスお母さまだってそんなことができるとは思えない。


「そうだ。聞いたことあるか? 大森林フォレバストが広がってるて話を?」


森が広がる話。

この町の食堂で開拓者たちがそんな話をしていた。


「……ある。かな?」

「まるで森が獣の領域を増やそうとするみたいにな。知ってるか? フォルテ周辺の森にもビリビリスみたいな小さな魔獣の巣ができ始めているらしい」


それ。聞いたことがある。

城塞都市フォルテのおしゃれなカフェにチェーンとファイン先生と行ったときに、たくましい感じのする女の人たちが話をしていた。いまにして思うと冒険者とかだったのかもしれない。


「およそ5年ほど前から少しずつ広がってることが最近になって確認された。森が広がること自体は開拓者にとって夢のあることだから喜ぶやつもいるがな」


5年前……。それって……。


「俺たちもいずれは開拓者になって一攫千金!」

「そんでもって自分の店を持つのが夢だよなー」

「わたしは宿屋の女将になりたいよー」

「冒険者から開拓者になることは俺たち<旅鴉たびがらす>の目標だからな」


ソルさん、ウォリさん、ファイさん、アーチさんがテーブルに突っ伏しながら酔った口調で話してる。


「はは。夢を持つのはいいことだ。大いにがんばるといい。だがな。ムツアシムツメのような凶悪な魔獣が森の表層に現れるくらいだ。俺はなにかの前触れじゃないかと心配だよ」


なんだかとても心配そうにしてる。町の代表でこの町の開拓者ギルドの長なんて気苦労が多いんだろうなあ。

誰か褒めてあげる人っていないの?


「いい子いい子」


椅子から降りたわたしは町の代表さんの頭をよしよしなでなでした。


「……いや。いい子ってなあ!? みんなが見てるからやめてくれ!?」

「警備兵。ここに犯罪者がいるから連行しなさい」

「ちょっと待ってくれないか!? おいい!?」


町の代表さんに冷ややかな視線を送っていた薬師のお姉さんがわたしに笑顔を向ける。


「そうそう。明日の出発前にでも薬のお礼をするから。よろしくね」


お礼? 別にいいけど?

今日はいろいろあったけど明日からまた旅の始まりだね。

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