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47歩 お酒と肉料理

「嬢ちゃん! 酒はたっぷり飲んでるか!」

「注いでやるからジョッキを出せ!」

「アホか! 酒ならこんなに持ってきてあるさ!」

「いやあ。こんなに小さくて可愛くて腕のいい薬師さんにはびっくりだ!」

「おかげで体が楽だぜ!」


わたしは宴の中心に無理やり座らせられていた。

ごっついおじさんやお兄さんたちが我先にとわたしに話しかけてくる。

お酒の入った樽を抱えていたり、木製ジョッキをいくつも持っていたり。

赤い汁がなみなみ注がれた木製ジョッキがわたしの目の前にいくつも差し出されるからしょうがなく受け取ってテーブルに置いていく。最後の一つを胸で抱えた。


「えと。アーヤは11歳……だよ? お酒は飲……まないよ?」


木製ジョッキの中身をふんふんふんふん嗅ぐと強い酒精を感じて鼻が曲がりそう。ウェってなりそうなのを我慢してにっこりと微笑んで見せる。


「ああん? みょうちくりんな顔してどうした?」

「そうだ! まだガキだった! わっはっは!」


我慢できてなかった。恥ずかしくて顔が熱い。


「こんなにうれしい酒が飲めねぇなんてもったいねぇな!」

「命がある喜びに感謝だ!」

「俺の故郷じゃこんなにちびっこいころから飲んでたぞ!」

「たまたま当番だった警備の奴らはそりゃあ感謝してたぞ!」

「恐ろしい魔獣を手懐けるたあ。まるで従魔師みたいだな!」

「違いない! 薬師で従魔師の聖女様に乾杯だ!」


「薬……師はあってるけど従魔師でも聖女様でもないよ? 飲……まないからね?」


お酒は20歳から。なんて法律はないからね。だけど飲む気にはならないから胸に抱えていた一杯もテーブルに置いた。

わたしが持っていた薬を怪我人に処方したことと、この町の薬師のお姉さんに免状を確認されたことで、わたしが薬師であることがすっかり広まってしまっていた。

薬師のお姉さんがなんでか驚いてた。


「だったら食え!」

「山盛りあるぞ!」

「魔獣の肉をたらふく食うといい!」

「貯蔵庫が空っぽになっちまってもいいさ!」

「死んだら食えないからな! 大盤振る舞いだ!」


今度はあっちこっちのテーブルに置かれたたくさんのお肉が運ばれてきた。

普通の豚の丸焼きよりもおっきい骨付き肉がどどんとテーブルの上に乗る。いくつものお肉の塊が目の前に差し出される。

両手に一本ずつ。わたしが持てるくらいのお肉を持ったのにまだ差し出してくる。


「そ……んなに一度に渡されても持てないよー!」


星が瞬く夜空に向かって遠吠えのように叫んでみた。だけどみんなわたしの話を聞いてくれない。


「わはは! 早く食わんともっと持ってくるぞ!」

「ほら食え! やれ食え!」

「こいつを食ってみろ! 死ぬほど美味いぞ!」


わたしの口元に肉汁があふれるお肉が突きつけられた。

これは一口でも食べないと許してもらえない?

見た目と体の大きさは全然違うけど、なんだか妖精郷の宴を思い出す。とっても賑やかでみんなが楽しい宴。


「むむむー」


体がおっきくてごついおじさんの手に持たれた骨付き肉を標的にする。

ふんふんふんふんふんと念入りに匂いを嗅ぐ。


「なんだあ? 犬みたいなことする嬢ちゃんだな!」


しまった。ついうっかり匂いを嗅いでしまった。これだけはどうしてもやっちゃうんだよね。わたしは狼だから仕方ない。


「犬じゃないもん。いた……だきます」


狼と言うのは我慢した。

唇を小さく開いてカプリとお肉にかじりついた。狼のように少しだけ尖った牙がお肉に突き刺さる。


もむもむ。もぐもぐ。もむもむ。もぐもぐ。

ごっくん。

ふわあ。

香ばしい香りが鼻を突き抜けて肉汁がじゅわーってするー。

ぷりぷりとしたお肉の弾力が口の中ではじけて幸せー。

ちょうどいい塩加減に爽やかな香草もぴったり。


「おい……しい」

「わはは! もっと食え!」


お言葉に甘えて。おじさんが持ったままの骨付き肉をカプカプする。そしたら別のお兄さんのお肉が目の前にくるからカプカプ。また違うおじさんのお肉をカプカプ。

次から次に目が回るし口の中はいっぱいだよー。


そんなわたしの様子を見てるみんながとっても満足そうだね?


「ほらほら。いい歳したおっさんたちが子どもで遊んでるんじゃないよ。あっち行った。あっち行った」


わたしに群がるおじさんたちをかき分けて、別のテーブルにいたマルーがやってきた。


「わはは。またな嬢ちゃん!」

「しっかり食えよ!」

「宴を楽しんでな!」

「今日はありがとよ!」


ごついおじさんたちが追い払われてあちこちに散ってゆく。


「わふー。助……かったあ」


テーブルの上にはお酒と肉料理が大量に乗ったまま。これ全部わたしが食べるのかな?

いっそのこと全部食べたい。お腹いっぱいになるのは幸せ。わたしの小さな体じゃ無理だけど。


「ぷはー。アーヤ。ああいうのははっきり断っていいんだぞ」


なみなみ注がれた木製ジョッキを手にとって一気に飲み干してるし。マルーったら豪快だね?


「ん? そ……うなの?」

「そうだよ。アーヤが可愛いからってみんな調子に乗ってんだよ。まったく。もうちょっと年頃だったらと思うと危なっかしくてしょうがない。これだから男どもは油断も隙もない! 女の敵め!」


少し酔ってる? 飲み過ぎは良くないよ?


「ん? マルーも男だよ……ね?」

「え? ああ。もちろんだ。いいか。アーヤは女の子なんだから気をつけないとダメだからな。なにかあったらちゃんと俺に言うんだぞ。狼になった男ってのは暗黒闇魔獣よりも恐ろしいからな」


んー。そうなの? わたしだったら瞬殺できるから問題ないんだけどなあ。


「おいおい。勘弁してやってくれよ」

「ちょっとはしゃいでるだけさ。なあ?」

「こんなに小さいのに立派な薬師様だ。みんなもらった薬の礼がしたいんだよ」

「そうそう。可愛い聖女様の降臨に舞い上がってるだけだって」

「この町には女を食い物にする奴はいねぇよ」

「なんてったって大森林のロマンに心奪われちまったバカばっかりだからな!」


さっきのおじさん、お兄さんたちとは違う人たちが群がってきた。手にはお酒とお肉料理がいっぱい。さすがにお肉ばかりはちょっと。お野菜や果実はないのかな?


薬のお礼というのには理由がある。

母黒狼の攻撃を受けた開拓者と警備兵たちに軟膏や飲み薬とかで手当てをした。

看護しているときにほかにも薬があるかと聞かれて答えた。そしたらいろんな薬を持ってることを知られて求められるままにあげてしまったんだよね。


「こ……んなにいっぱい食材を使っちゃっていいの?」


貯蔵庫が空になるくらいなんだよね?


「いつ死ぬかも分からない俺たちだからな」

「命が助かったこういうときくらいはお祭り騒ぎにしちまうんだよ」

「その方が楽しいだろ?」

「まさに生きてるって感じだよな!」

「その日暮らしの俺たちにちょうどいいさ!」

「いいから食え!」

「細かいことは気にすんな!」


「わふん」

もうお腹いっぱいだけどね。


この宴はいつまで続くんだろう。

変わるがわる交代でわたしのことを褒め称える人たちが笑顔いっぱいで肩や背中を叩いて去っていく。痛いんだけど。


ほっぺたをパンパンに膨らましてつの口をしてみる。不満を表明する。


「まあまあ。今日の主役はアーヤだからな」

「誰一人死ぬことなく助かってみんな大喜びなんだよ」

「なんといってもだな? 暗黒闇魔獣って恐れられるムツアシムツメなんだぞ?」

「そうそう。その恐ろしさは魔獣の王とか言われるくらいなんだから。つまり魔王よ、魔王」


ソルさん、ウォリさん、ファイさん、アーチさん。冒険者パーティー<旅鴉たびがらす>のみんなも楽しそうに酔っ払ってる。

母黒狼の恐怖に耐えて子黒狼の解放に尽力したこの3人も宴の主役だった。町の人に拍手と歓声で出迎えられてとても驚いていた。

ソルさんはお留守番してたからかなり不満そう。


「魔王?」


セーリオがお話ししてくれた絵本にもあった。裏オークションでもそんな言葉を聞いた。


「そうさ。時代の節目に現れると言われる伝説の存在さ」

「人族だったり魔獣だったりと時代時代で違うみたいだけどな?」

「ずっと大昔にはその魔王のせいで世界が滅びる寸前だったこともあるらしいのよ」

「ああ。古代の都が一夜にして滅んだってやつな」

「どこかにその都の遺跡があるらしいじゃん?」

「その度に現れる勇者様と聖女様の力で世界は守られるって話だ」

「まあおとぎ話だけどな」

「いやいや。あのムツアシムツメみたいのが恨みつらみを抱えて魔王になるんだよきっと」

「怖っ! 魔王なんて出てきて欲しくないよー」

「そしたら俺が勇者になって倒して見せるさ!」

「あらまあ。腰抜かしてた奴がよく言うわよね?」

「そしたらアーヤが聖女だな」


酔っ払ってる4人にマルーまで加わって話が止まらない。ろれつが回ってないのにみんなよく聞き取れるね? だからわたしは話半分に聞いてた。


「お。いたいた。アーヤちゃん。今日はありがとうよ」

「あ。御……者のおじさん。な……にが?」


乗合馬車の御者さんが声をかけてきた。


「アーヤちゃんの大活躍のおかげで高くて買えないはずだった食材をタダでもらえることになったんだよ。しかも大量にな。おかげで旅の間はいいものが食えることになったよ」


「ふーん。よかったね? 出発が明日になっちゃったけどだいじょぶ?」

「ああ。ほかの客たちも納得してくれてるさ。旅程が遅れるなんてことがあるのが当たり前だからな。それにこんな宴に参加させてもらってるんだ。文句どころか喜んでるさ。俺もただ酒が飲めて最高に幸せさ!」


「よかったね?」


小首を傾げて答えた。気持ち悪そうに吐いてる人もいるし酩酊してくだを巻いてる人もいるし、こんなのが幸せってよく分かんない。


「ははは。陽気な酒はいいもんだが酒が飲めない嬢ちゃんには分からんよな。大人になればわかるときがくるさ」

「でも飲み……過ぎたらあんな風になっちゃうよ?」


グデングデンになってテーブルに突っ伏してる<旅鴉たびがらす>とマルーを指差した。

あ。そう思ったら起き出してまた飲んで話してる。怖いお話に出てくるゾンビかな?


「まあ。明日からの旅に支障がない程度にはしておくさ。アーヤちゃんも目いっぱい楽しむといい」


わたしにひらひらと手を振る御者のおじさんの足がフラフラしてる。ほんとに明日はだいじょぶかな?


「今日はほんとに助かったわ」

「少し話したいことがあるんだが隣に座ってもいいかな?」


お酒とかを飲んでいなさそうな二人がそれぞれ椅子を手にやってきた。

初老の男の人はこの町の一番偉い人。もう一人は看護でいろいろ相談した薬師のお姉さん。


「ど……うぞ」


話があるというので二人に向かって椅子を座り直す。


「まず。町の代表としてムツアシムツメと住人への対応に感謝を申し上げる」

「あれだけの薬を惜しげもなく処方してくれたことにも薬師としてお礼を言いたいわ」


「まさか魔獣の子に手を出す大バカ者が出るとはな。奴らは冒険者の資格を剥奪の上に追放だ」


「そ……うなの?」

「ああ。魔獣の子どもなんかを町に連れてくるなんて正気の沙汰じゃない。場合によっては魔獣が群れとなって襲ってくる。そうなったらこんな町は一瞬で壊滅だ。開拓者としての矜持もなければ誇りもない奴らだ。掟破りの罰を受けるのは当たり前さ。だからムツアシムツメに二度と手を出すなって言う嬢ちゃんの言い分はもちろんこの町の住民全員に周知させておく」


掟破りの罰なんてあるんだね?


「よかっ……た。ふふ。これでリュコスお姉さんもルーも安心だね」

「誰のことだ?」

「あ。ううん。こっちのこ……と」


「そうか? 今回のことは前例としてしっかり記録しておく。開拓者ギルドを通じてほかの町や拠点にも知らせておくとしよう」


開拓者ギルド? ほかの拠点?

掟破りの罰……もしかして。

ルプスお母さまを襲った人族も開拓者だったりする?

聞いたら手がかりが見つかるかも。


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