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追放された鍛冶錬金師は、数値を信じるギルドを見限って静かに最強になる 〜評価されなかった生産職ですが、使った人だけが違いに気づきます〜  作者: 神崎タクミ


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第9話 回らなくなった工房

 朝、倉庫の扉を開けた瞬間、カイルは小さく息を吐いた。


 ――もう、列ができている。


 路地に並ぶのは、五人。

 装備を抱えた者、手ぶらの者、様子見らしい者。


「……すみません。今日は、対応できる数が限られます」


 そう告げると、不満の声は上がらなかった。


「分かってる」

「無理言って悪いな」


 理解があるのが、逆に胸に刺さる。


 工房に入り、火を入れる。

 道具を並べる。


 だが、手が止まった。


 素材が足りない。


「……やっぱり、ここか」


 端材で済む調整はできる。

 だが、防具や本格的な改修には、質の揃った素材が要る。


 ギルド専属だった頃は、意識しなくてよかった問題だ。


 午前中は、軽い調整だけで時間が過ぎた。

 昼前には、断る依頼も出始める。


「すみません、それは……今は」


「ああ、いい。別の日にする」


 納得して去っていく背中を見送りながら、カイルは唇を噛んだ。


 ――選ばなければならない。


 そう感じ始めていた。


 午後。


 修理を終えた冒険者が、代金とは別に小袋を置いた。


「これは……?」


「気持ちだ。助かったから」


 中には、想定以上の金額。


「受け取れません」


「なら、材料に使え」


 押し戻そうとして、止まる。


 確かに、材料は必要だった。


「……ありがとうございます」


 頭を下げると、冒険者は照れたように笑った。


 夕方。


 最後の依頼を終えた頃には、指先が重かった。

 集中力も、いつもより落ちている。


「……今日は、ここまでだ」


 火を落とし、腰を下ろす。


 静かな倉庫で、カイルは天井を見上げた。


 このままでは、いずれ破綻する。


 依頼を断り続けるか。

 値段を上げるか。

 誰かを雇うか。


 どれも、簡単ではない。


「……向いてないな」


 独り言が、虚しく響く。


 その時。


 控えめなノック音がした。


 扉を開けると、そこに立っていたのは、ミレアだった。


「今日は、もう終わりです」


「承知しています」


 そう言って、中を見回す。


「忙しそうですね」


「……ええ」


 一瞬の沈黙。


「あなたは、全部を自分で抱え込むタイプだ」


 断定口調だった。


「そうしないと、質が落ちると思っている」


 否定できなかった。


 ミレアは、少しだけ考える素振りを見せる。


「次は、依頼の話ではありません」


 そう前置きしてから、言う。


「選択肢の話です」


 カイルは、顔を上げた。


 ――来た。


 まだ、答えは出ていない。


 だが。


 もう、避けられないところまで来ている。



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