第84話 不可視
「最大層を隠します」
その言葉の余韻が、まだ空気に残っていた。
だが、戦場は待たない。
――来る。
「伏せろ!」
カイルの声と同時に、地面が弾けた。
さっきと同じ。
いや、さらに正確だ。
狙撃は止まっていない。
むしろ、精度が上がっている。
ミレアが低く吐き捨てる。
「……見えてるわね、完全に」
「はい」
カイルは頷く。
視線は戦場全体。
誰が目立っているか。
誰が“最大層”として振る舞っているか。
敵はそれを、迷いなく撃ち抜いている。
つまり。
「演技では誤魔化せません」
エルザが言う。
「行動から判別されている」
「はい」
カイルは答える。
「なら」
一拍。
「行動を消します」
ミレアが眉をひそめる。
「……は?」
「最大層の“動き”を消します」
その言葉に、空気が止まる。
「それ、どうやるのよ」
「簡単です」
一拍。
「全員でやります」
沈黙。
そして、ミレアが吹き出した。
「……は?」
「全員が最大層の動きをします」
「無理でしょ」
「はい」
即答。
だが、続ける。
「完全には」
一歩。
「ですが」
「似せることはできます」
エルザが理解する。
「……判別を困難にする」
「はい」
つまり。
最大層を“目立たせない”のではない。
“全員を目立たせる”。
ミレアが笑う。
「いいじゃない」
一拍。
「全員が囮ってわけね」
「はい」
次の瞬間。
カイルが言う。
「動きを共有します」
兵士たちが集まる。
時間はない。
だが、やるしかない。
「踏み込みは浅く」
「だが振りは深く見せる」
「重心は固定」
「崩さない」
言葉は短い。
だが、核心だけを突く。
ミレアが補足する。
「見た目を揃えろ」
「中身じゃない、外だ」
兵士たちが頷く。
不完全。
だが。
それでいい。
「行きます」
カイルの一言。
散開。
そして。
全員が動く。
同じように。
同じ“強さ”で。
次の瞬間。
――来る。
だが。
ズレた。
衝撃は地面を抉る。
だが、誰もいない。
エルザが息を呑む。
「……外れた」
「はい」
カイルは言う。
「判別できていません」
ミレアが笑う。
「やるじゃない」
だが。
次の一撃。
また来る。
今度は、少しだけ正確。
兵士の一人が弾かれる。
「……っ!」
だが、致命ではない。
狙いがブレている。
それだけで、違う。
「効いてる」
ミレアが言う。
「はい」
カイルは頷く。
だが。
その時だった。
――違和感。
「……止まってください」
カイルの声。
全員が動きを止める。
静寂。
そして。
来ない。
狙撃が。
ミレアが眉をひそめる。
「……何?」
エルザが言う。
「撃ってこない……?」
カイルは目を細める。
「……学習しています」
一拍。
「こちらの変化を」
つまり。
このままでは。
また対応される。
ミレアが笑う。
「ほんと、面倒な相手ね」
「はい」
カイルは言う。
そして。
一歩前に出た。
「次に行きます」
「何するの」
一拍。
カイルは答えた。
「隠しません」
ミレアが止まる。
「は?」
「見せます」
「意味わかんないんだけど」
「はい」
一拍。
「ですが」
「見せ方を変えます」
エルザが息を呑む。
「……まさか」
カイルは言う。
「最大層を」
一拍。
「囮にします」
その瞬間。
空気が凍った。
ミレアが笑う。
だが、目は笑っていない。
「……それ、死ぬわよ」
「はい」
カイルは頷く。
「だから」
一拍。
「死なない形にします」
戦いは。
次の段階へ進もうとしていた。
読んでいただきありがとうございます。
今回は「隠す」から「見せる」への転換の一歩手前まで進みました。
敵が学習する以上、こちらも止まれません。
次は――“囮としての最大層”が成立するかどうか。
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