第7話 よく見る客
倉庫の工房に、見慣れない女が現れたのは昼過ぎだった。
装備を抱えているわけでもなく、急いだ様子もない。
ただ、静かに中を覗き込んでいる。
「……依頼ですか?」
カイルが声をかけると、女は一拍置いて頷いた。
「剣の調整を」
簡潔な返答だった。
差し出されたのは、手入れの行き届いた剣。
刃に欠けはなく、柄の革も新しい。
「壊れてはいませんが」
「分かっています」
女は淡々と言った。
「ただ、少しだけ合わない」
カイルは剣を受け取り、重さを確かめる。
振り、角度を変え、柄に指を掛ける。
「……確かに」
致命的ではない。
だが、前線に立つ者なら気になる程度の違和感。
「使い手の癖と、武器の設計が噛み合っていません」
「直せますか」
「大きな改修は不要です」
そう告げると、女は小さく頷いた。
「では、それで」
値段を聞きもしない。
期限も指定しない。
カイルは一瞬だけ首を傾げたが、作業に入った。
女は、工房の隅に腰を下ろした。
騒がしくもなく、邪魔もしない。
だが、視線はずっと作業を追っている。
火の調整。
刃の微修正。
柄の芯材を、ほんの僅かに削る。
特別なことはしていない。
いつも通りだ。
それでも。
――見られている。
そんな感覚が、僅かにあった。
作業が終わり、剣を返す。
「確認を」
女は立ち上がり、剣を抜いた。
ひゅっ、と短く振る。
それだけで、目が細まった。
「……なるほど」
評価は、それだけだった。
「問題は?」
「いいえ」
剣を鞘に収め、代金を置く。
「また来ます」
それだけ言って、女は去っていった。
カイルは、しばらく扉の方を見ていた。
「……変わった客だな」
数日後。
再び、その女が現れた。
今度は、防具を持って。
「前回の剣で、依頼に出ました」
「問題は?」
「ありませんでした」
淡々とした報告。
だが、どこか満足しているのが分かる。
防具を確認し、同じように微調整を施す。
女は今回も、黙って作業を見ていた。
「……よく、見ていますね」
思わず、口に出ていた。
女は首を傾げる。
「工程が無駄に多くない」
「……それだけですか」
「それだけで、十分です」
その言葉に、カイルは何も返せなかった。
作業が終わると、女は一度だけ深く頭を下げた。
「私はミレアといいます」
「……カイルです」
「知っています」
即答だった。
「最近、名前をよく聞く」
そう言って、ミレアは工房を出ていった。
残されたカイルは、工具を置いたまま考え込む。
――知っている?
評価が、いつの間にか外に漏れている。
しかも。
あの女は、
「使いやすい」とも「強い」とも言わなかった。
ただ、
**無駄がない**
とだけ言った。
それが、なぜか胸に残る。
工房の外では、また別の冒険者が待っていた。
だが、カイルはふと、思う。
――あの女は、ただの客じゃない。
まだ、この時点では。
それ以上のことは、分からなかった。




