第6話 違和感の正体
冒険者ギルドの訓練場では、金属音が絶えず響いていた。
「くそっ……!」
怒鳴り声と同時に、剣が地面に転がる。
刃先が、わずかに欠けていた。
「またかよ……」
それを拾い上げた戦闘職の男――ロッドは、顔をしかめる。
「昨日、手入れしたばかりだぞ」
周囲でも、似たような光景が見られた。
防具の継ぎ目が緩む。
薬の効果が安定しない。
「最近、多くないか?」
「気のせいだろ」
そう言い合いながらも、不満は確実に溜まっていた。
ギルドの奥、執務室。
ギルドマスターのバルドは、報告書に目を通していた。
眉間に、わずかな皺。
「……装備破損率、上がっているな」
向かいに立つ副長セインが、即座に答える。
「戦闘が激化しているだけです」
「そうか?」
「ええ。前線が厳しくなれば、消耗も増えます」
淡々とした口調。
数字上は、説明がつく。
「錬金薬の失敗報告も出ていますが」
「想定範囲内です。素材の質が落ちているだけでしょう」
セインはそう言い切り、話を切り上げるように書類をまとめた。
バルドは、それ以上追及しなかった。
「……まあいい」
問題があるとしても、すぐに致命傷にはならない。
そう判断した。
――カイルがいなくなったことと、結びつける発想自体がなかった。
その頃、訓練場では。
「なあロッド、お前の剣……前より重くないか?」
「重さは変わってない」
「じゃあ、なんで振りづらいんだ?」
ロッドは、剣を見下ろす。
「……分からん」
確かに、前と同じ剣のはずだ。
数値も変わらない。
だが、手に馴染まない。
「気のせいだ」
自分に言い聞かせるように呟く。
――そんなはずはない。
だが、そう認めるのは簡単ではなかった。
夕方。
錬金室から、声が上がった。
「薬が分離した!」
「おかしい、配合は同じだぞ!」
慌ただしくなる室内。
しかし、その報告は最終的にこう処理された。
『原因不明。再調整で対応』
根本的な原因は、誰も探ろうとしない。
なぜなら。
そこにあったのは、
数値では測れない工程と、
目に見えない調整だったからだ。
バルドは窓の外を眺めながら、ふと呟く。
「……前から、こんなに不安定だったか?」
セインは、即座に否定した。
「問題ありません。現場が神経質になっているだけです」
その言葉に、バルドは頷いた。
まだ、この時点では。
誰も分かっていない。
自分たちが失ったのが、
単なる技術職ではなく――
“全工程を理解していた存在”だったということを。
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