第5話 紹介という評価
朝、倉庫の扉を開けると、外に人影があった。
「……?」
一瞬、依頼人が来るには早すぎる時間だと思ったが、男はすぐに気づいて振り返った。
「あ、あんたが……カイル、だったか?」
昨日、剣を修理した冒険者だった。
その隣に、見知らぬ男が二人いる。
「直してもらった剣、使ってきた」
前置きもなく、そう切り出された。
「で……こいつらにも、見てもらえないか?」
紹介、という言葉が頭に浮かぶ。
カイルは少し間を置いてから頷いた。
「内容次第ですが」
「十分だ」
連れてこられた冒険者たちは、半信半疑の顔だった。
装備を差し出す手にも、どこか遠慮がある。
「普通の修理屋だろ?」
「まあ、そうだな」
最初の男が苦笑する。
「でもな。ちょっと変なんだ、こいつ」
剣を抜き、軽く振る。
「使ってみれば分かる」
カイルは装備を一つずつ確認していく。
どれも、致命的な問題はない。
ただ、無駄が多い。
力の逃げ。
噛み合っていない継ぎ目。
使い手の癖と合っていない重心。
「大きな改修は必要ありません」
「じゃあ、直らないのか?」
「いえ。少し整えるだけです」
作業は、静かに進んだ。
派手な火花も、特別な薬品も使わない。
見ている側からすれば、何をしているのか分からないだろう。
「……終わりました」
剣を返す。
冒険者は、訝しげに受け取り、振った。
「……」
もう一度。
「……あ?」
言葉が出ない、という顔だった。
「変わって、ないよな?」
「見た目は」
「なのに……」
昨日の剣士が、横で頷く。
「だから言っただろ」
冒険者はしばらく剣を眺めてから、深く息を吐いた。
「……いくらだ?」
「修理代だけで」
「それじゃ足りないだろ」
「今は、それで」
しばしの沈黙。
「……変な鍛冶屋だな」
そう言って、代金を置き、頭を下げる。
彼らが去った後、倉庫は再び静かになった。
――だが、それは一時的なものだった。
昼前。
別の冒険者が訪ねてくる。
「剣、見てほしいって聞いたんだが」
午後。
今度は防具の修理依頼。
夕方には、倉庫の前に二人、三人と人が立つようになった。
「紹介です」
「あの剣士から聞いた」
「派手じゃないけど、変だって」
評価は、どれも曖昧だった。
だが、共通している。
――使いやすい。
カイルは、淡々と作業をこなす。
値段は変えない。
約束したこと以上は、しない。
それでも。
日が暮れる頃には、指先に確かな疲労が溜まっていた。
「……今日は、ここまでだな」
火を落とし、道具を片付ける。
倉庫の外では、まだ話し声がしている。
「明日も来るか」
「空いてたらな」
カイルは、少しだけ立ち止まった。
胸の奥に、わずかな違和感。
嫌なものではない。
――これは。
久しく感じていなかった感覚。
「……仕事、してるな」
独り言は、誰にも聞かれなかった。
だが、その日を境に。
路地裏の倉庫は、
ただの空き場所ではなくなった。




