第4話 戦場で分かる違い
森の奥は、昼間でも薄暗かった。
「……出てきたな」
剣士の青年――昨日、カイルの工房を訪れた冒険者は、息を整えながら前方を睨む。
茂みの向こうで、低い唸り声がした。
相手は、灰色狼。
群れではないが、油断できる魔物でもない。
「いつも通りだ」
自分に言い聞かせ、剣の柄を握る。
――違和感は、その瞬間からあった。
構えたとき、力が逃げない。
手首から肘、肩へと、動きが自然に繋がる。
「……?」
思考が追いつく前に、体が動いた。
踏み込み。
斬撃。
ザシュッ、と鈍い感触が伝わる。
「浅い……いや、入ってる?」
狼が怯んだ。
いつもなら、ここで剣が弾かれるか、手に衝撃が残る。
だが、ない。
剣が、狙った通りに軌道を描いた。
「くっ……!」
反撃に跳び退く。
着地の際も、剣がぶれない。
――疲れない?
息は乱れている。
だが、腕が重くならない。
もう一度、踏み込む。
今度は、確実に。
狼が倒れ、動かなくなった。
「……終わった、か」
剣を下ろし、しばらく立ち尽くす。
おかしい。
いつもより、明らかに楽だった。
剣を見る。
刃は、欠けていない。
歪みもない。
「数値は、変わってないはずだよな……」
ステータスを確認する。
攻撃力も耐久値も、昨日までと同じ。
それでも。
――使いやすい。
依頼を終え、街に戻る道すがらも、違和感は消えなかった。
剣が軽いわけじゃない。
威力が上がったわけでもない。
なのに、戦いやすい。
「……これ、俺だけか?」
ギルドに戻り、報告を済ませる。
受付は淡々としていた。
「装備に問題は?」
「いや……むしろ逆で」
言いかけて、やめた。
説明できない。
言葉にすると、馬鹿みたいだ。
その日の夜。
酒場で、同じパーティの仲間に剣を見せた。
「直したって? どこを?」
「分からん。柄と、刃を少し、って言ってた」
「……ふーん」
半信半疑で仲間が剣を振る。
「……あれ?」
もう一度。
「なんだこれ。変じゃない?」
「変?」
「いや、悪い意味じゃなくて……」
仲間は首を捻った。
「手に馴染む。変な言い方だけど、動きが止まらない」
剣士は、思わず笑った。
「だろ?」
自分だけじゃなかった。
酒を一口飲み、決心する。
「なあ、今度装備、見てもらう気ないか?」
「鍛冶屋、紹介するのか?」
「ああ。腕は……多分、本物だ」
仲間は肩をすくめる。
「なら、一度行ってみるか」
そのやり取りを、誰も大げさには受け取らなかった。
だが。
翌日から、少しずつ。
“あの路地裏の工房”の名は、冒険者の間で囁かれ始める。
静かに。
確実に。
まだ、誰も知らない。
その違和感が、やがてギルド全体を揺るがすことを。




