第3話 修理と、ついで
火が落ち着くまで、少し時間がかかった。
カイルは剣を作業台に固定し、歪みを指先でなぞる。
刃先から根元まで、わずかなズレ。
致命的ではないが、このまま使えば確実に悪化する。
「無理をしたな」
誰に言うでもなく呟き、ハンマーを取る。
叩く位置は、ほんの数か所。
力も強くはいらない。
必要なのは、金属が「戻りたがっている方向」を読むことだけだ。
コン、コン、と乾いた音が倉庫に響く。
剣を焼き直すついでに、カイルは柄の部分にも目を向けた。
革の巻き方が甘い。
それに、持ち主の癖で、少しだけ右に力が逃げている。
「……ここも、直すか」
依頼には含まれていない。
だが、放っておく理由もなかった。
柄を外し、芯材を削る。
ほんの数ミリ。
それだけで、力の流れは変わる。
革を巻き直し、固定する。
見た目は、ほとんど変わらない。
作業が終わった頃には、空はすっかり暗くなっていた。
剣を冷ましながら、カイルは椅子に腰掛ける。
久しぶりの作業だったが、手はよく動いた。
「……問題ない」
自分に言い聞かせるように呟き、剣を壁に立てかける。
翌日。
倉庫の扉を叩く音で、カイルは顔を上げた。
「おーい! 直ったか!?」
昨日の冒険者だった。
目の下に隈を作り、落ち着きがない。
「今、持ってきます」
剣を差し出すと、男は半信半疑で受け取った。
「見た感じ……変わってないな」
「修理なので」
男は肩をすくめ、鞘から剣を抜いた。
ひゅっ。
軽く振っただけで、空気を切る音が違った。
「……あ?」
もう一度。
今度は少し力を込めて振る。
「なんだこれ……?」
男は首を傾げた。
「軽くなったか?」
「重さは変えていません」
「じゃあ、なんで……」
しばらく剣を振り回した後、男は真顔になった。
「……手に馴染む」
ぽつりと、そう言った。
「昨日まで、こんな感じじゃなかった」
カイルは少しだけ視線を逸らす。
「柄を、少し直しました」
「それだけで?」
「それだけです」
男はしばらく黙り込み、やがて笑った。
「……すげぇな、あんた」
剣を鞘に収め、深く頭を下げる。
「本当に助かった。これで依頼に行ける」
代金を差し出され、カイルは受け取った。
提示した通り、修理代だけ。
「なあ」
立ち去る前、男が振り返る。
「名前、聞いていいか?」
一瞬、迷ってから答える。
「カイルです」
「カイル……覚えた」
男はそう言って、路地の向こうへ走っていった。
静かになった倉庫で、カイルは作業台を片付ける。
特別なことは、何もしていない。
直して、整えただけだ。
――だが。
その日の夕方。
再び、扉が叩かれた。
「昨日の剣士から聞いたんだが……」
別の冒険者だった。
カイルは、わずかに目を細める。
評価は、いつもこうして始まる。
音もなく。
気づかれないまま。
それでも、確実に。
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