第67話 期限付きの価値
「一ヶ月……」
ミレアが小さく呟いた。
短い。
あまりにも短い。
エルザがすぐに現実的な計算を始める。
「報告形式は?」
伝令が答える。
「数値評価です」
「項目は」
「戦闘効率、損耗率、再現性」
ミレアが苦笑する。
「一番苦手なやつですね」
再現性。
それは――
今、最も弱い部分。
カイルは静かに聞いていた。
「評価主体は」
エルザが続ける。
「王直属の監査局です」
つまり。
情では動かない。
結果だけを見る。
ミレアが言う。
「完全に潰しに来てますね」
「ええ」
エルザは頷く。
「制度として成立するかの最終判断です」
そしてそれは同時に。
“例外を増やさない”ための確認でもある。
カイルは静かに言った。
「いいですね」
二人が振り向く。
「何がです?」
「条件が明確です」
一拍。
「測られるなら、作れます」
ミレアが少しだけ笑う。
「出ましたね」
エルザが言う。
「ですが、問題はそこではありません」
資料を見ながら続ける。
「一ヶ月で結果を出すには」
一拍。
「広げる必要があります」
「はい」
「ですが再現性が低い」
「はい」
「つまり」
一瞬、言葉を選ぶ。
「現状では不可能です」
断言だった。
カイルは否定しない。
事実だから。
ミレアが腕を組む。
「講習だけじゃ無理ですね」
「ええ」
「数が足りない」
「はい」
沈黙。
だが重くはない。
考えている。
カイルが言う。
「分けます」
エルザが聞く。
「何を」
「用途です」
一拍。
「全部に勝とうとしない」
ミレアが理解する。
「一点突破」
「はい」
エルザが眉を寄せる。
「具体的には」
カイルは言う。
「最大値が必要な場面」
一拍。
「そこだけ取ります」
全ての兵士に広げる必要はない。
だが。
一部に圧倒的な成果を出せば。
評価は変わる。
ミレアが笑う。
「分かりやすいですね」
「はい」
「エリート特化」
「はい」
エルザが静かに言う。
「……数字で勝つ」
それは王の土俵。
だが。
やり方は違う。
カイルは続ける。
「選びます」
「誰を」
「変えられる人を」
ミレアが頷く。
「適性ですね」
「はい」
誰でもできる必要はない。
できる人だけでいい。
その代わり。
圧倒的にする。
その時。
訓練場の外で、また別の声が上がる。
「おい見ろ!」
兵士たちが集まっている。
ミレアが顔を出す。
「……またですか」
市場から来た商人。
新しい装備。
ヴァルディア製。
さらに改良されている。
軽く。
均一で。
使いやすい。
ミレアが小さく言う。
「向こうも動いてますね」
カイルはそれを見て、静かに言った。
「いいですね」
「え?」
「早い」
一拍。
「だから分かりやすい」
競争は始まっている。
そして。
期限もある。
カイルは静かに言った。
「一ヶ月」
一拍。
「十分です」
ミレアが笑う。
「言いますね」
エルザは何も言わなかった。
ただ、記録を取りながら思う。
この一ヶ月で。
すべてが決まる。
制度か。
消滅か。
その境界線に、今立っている。
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