第66話 最大値の証明
翌日。
講習場ではなく、砦の外れにある訓練場が使われていた。
地面は固く踏み固められ、中央には的となる分厚い木板が立てられている。
周囲には兵士たちが集まっていた。
「何が始まるんだ?」
「また講習か?」
ざわつく中、ミレアが前に出る。
「今日は比較をします」
エルザが横で記録の準備をしている。
カイルは少し離れた位置に立っていた。
「同じ人が、同じ動作で、違う結果を出せるか」
ミレアは二本の剣を持ち上げる。
一つはヴァルディア製。
もう一つは――
カイルが昨夜仕上げた剣。
見た目は似ている。
だが細部が違う。
柄の太さ。
重心。
刃のわずかな角度。
「同じ人で試します」
一人の兵士が前に出る。
昨日、最初に違和感を覚えた兵士だった。
「まずはこっち」
ヴァルディア製。
兵士が構える。
深呼吸。
そして振り下ろす。
衝撃。
木板に食い込む。
だが――
「……こんなもんか」
浅い。
悪くはない。
だが、決定的ではない。
ミレアが頷く。
「次」
カイルの剣を渡す。
兵士が握る。
「……重さが違うな」
「どうです?」
「ちょっと違和感ある」
正直な感想。
だが構える。
振り下ろす。
衝撃。
音が変わる。
深く、重い。
木板が大きく裂ける。
周囲が静まり返る。
「……は?」
兵士自身が一番驚いていた。
「今の、俺か?」
ミレアが言う。
「同じ人です」
兵士がもう一度振る。
同じ結果。
深く入る。
力が乗る。
ミレアが静かに言う。
「これが“合わせる”です」
エルザが記録を取りながら呟く。
「出力差……明確」
兵士たちがざわつく。
「同じ人であれか?」
「全然違うぞ」
別の兵士が言う。
「でも慣れはいるな」
「ええ」
ミレアは頷く。
「最初は違和感があります」
一拍。
「でも」
カイルが続ける。
「越えると、変わります」
兵士が剣を見る。
さっきまでの“楽さ”とは違う。
だが。
明らかに強い。
「……どっちを選ぶかだな」
その言葉に、空気が変わる。
楽で安定か。
手間がかかるが最大か。
選択。
基準。
揺れている。
エルザが静かに言う。
「……分岐が生まれました」
カイルは頷く。
「はい」
全員が同じものを選ぶ状態は崩れた。
ミレアが笑う。
「これで一枚噛めますね」
まだ勝っていない。
だが。
選択肢にはなった。
その時、遠くで馬の音が響いた。
兵士が振り向く。
「……またか」
伝令が走ってくる。
「報告!」
エルザが応じる。
「何ですか」
「王都より通達!」
空気が引き締まる。
「例外制度について」
一拍。
「評価期間が設定されました」
ミレアが小さく呟く。
「……来ましたね」
伝令が続ける。
「期限は一ヶ月」
短い。
あまりにも。
「成果が確認できない場合」
一瞬の間。
「制度は廃止されます」
静寂。
カイルは空を見た。
時間が、形を持った。
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