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追放された鍛冶錬金師は、数値を信じるギルドを見限って静かに最強になる 〜評価されなかった生産職ですが、使った人だけが違いに気づきます〜  作者: 神崎タクミ


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第65話 正しさの欠陥

 市場は、今日も賑わっていた。


 ヴァルディアの装備はよく売れている。


 均一。

 安定。

 安価。


 それは誰にとっても“正しい選択”だった。


 兵士が剣を選ぶ。


 整備兵が部品を確認する。


 商人が数を数える。


 すべてが、滑らかに回っている。


 カイルはその様子を見ていた。


 ミレアが横に立つ。


「どう壊します?」


 カイルは答えない。


 ただ、一つの剣を手に取った。


 ヴァルディア製。


 均一な刃。


 無駄のない重心。


 完成されている。


「いいですね」


「ええ」


 ミレアも頷く。


「隙がない」


 その通りだった。


 だが。


 カイルは剣を軽く振った。


 そして。


 別の兵士に渡す。


「これを使ってください」


「今ですか?」


「はい」


 兵士は不思議そうにしながらも構える。


 カイルが言う。


「全力で振ってください」


 兵士が振る。


 風を切る音。


 鋭い。


「もう一回」


 振る。


「もう一回」


 三回。


 四回。


 五回。


 兵士の呼吸が少し乱れる。


「……軽いな、これ」


「ええ」


 カイルは頷く。


「楽ですね」


 兵士は笑う。


「そりゃそうだ」


 だが。


 カイルは次に言った。


「そのまま、全力で打ち込んでください」


 目の前に置かれたのは、木の塊。


 兵士が振り下ろす。


 衝撃。


 音が響く。


 だが。


「……あれ?」


 兵士が眉をひそめる。


「浅いな」


 ミレアが小さく言う。


「乗らない」


 力が。


 カイルは別の兵士を呼ぶ。


「同じことを」


 今度は別の兵士。


 同じ剣。


 同じ動作。


 だが結果が違う。


「お、入るな」


 深く刺さる。


 最初の兵士が驚く。


「なんでだ?」


 カイルは静かに言った。


「合っていません」


「何が?」


「人に」


 一拍。


「最適化されていない」


 ミレアが補足する。


「全員に平均で合うように作られてるんです」


「つまり」


 兵士が言う。


「誰にもピッタリじゃない?」


「はい」


 沈黙。


 それは、小さな違和感だった。


 だが。


 確実に存在する。


 カイルは言う。


「楽です」


「はい」


「でも」


 一拍。


「最大は出ません」


 兵士が剣を見る。


 確かに扱いやすい。


 だが。


 さっきの一撃は、物足りなかった。


 別の兵士が言う。


「……じゃあ」


 一拍。


「合わせたらどうなる?」


 カイルは少しだけ笑った。


「変わります」


 ミレアが続ける。


「かなり」


 兵士たちの視線が変わる。


 疑問。


 興味。


 選択の揺れ。


 それは小さい。


 だが。


 確実に生まれた。


 エルザが低く言う。


「……基準が揺れた」


 カイルは頷いた。


「はい」


 ヴァルディアは正しい。


 だが。


 “最大ではない”


 その一点だけが。


 欠陥だった。


 ミレアが小さく笑う。


「壊れましたね」


 カイルは静かに言った。


「少しだけ」


 選ばれる理由は、まだ強い。


 だが。


 完全ではなくなった。


 戦いは、次の段階へ進んでいた。

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