第61話 選ばれる基準
市場の人の流れは、止まらなかった。
兵士だけではない。
整備兵。
補給係。
さらには周辺の職人たち。
全員が、同じ場所に集まっている。
ヴァルディアの商人の前。
「これ、同じ型はどれだけある」
整備兵が聞く。
「百本単位で用意できますよ」
「交換部品は?」
「すべて規格化されています」
即答だった。
整備兵が小さく頷く。
「……助かるな」
その言葉は重かった。
整備区画。
ミレアがその様子を遠くから見ている。
「完全に掴まれてますね」
「ええ」
エルザは資料を握りしめる。
「整備工程ごと持っていかれています」
装備だけではない。
修理。
交換。
補給。
すべて含めた“仕組み”。
カイルは静かに言った。
「強いですね」
ミレアが笑う。
「正しいですからね」
否定できない。
それが厄介だった。
エルザが言う。
「報告書を上げます」
「はい」
「ただし」
一拍。
「内容は厳しいものになります」
カイルは頷いた。
「構いません」
事実は変わらない。
その時、整備区画に一人の兵士が入ってきた。
手にはヴァルディア製の剣。
「……すみません」
少し申し訳なさそうな顔。
「これ、見てもらえますか」
ミレアが受け取る。
「どこが気になります?」
「切れ味はいいんですけど」
一拍。
「重さが、少しだけ合わない」
ミレアが剣を振る。
軽い。
バランスは均一。
だが。
「合ってないですね」
「やっぱりか」
兵士は苦笑する。
「でもまあ」
肩をすくめる。
「慣れれば問題ないし」
その一言で、空気が変わる。
ミレアがゆっくり言う。
「慣れる前提なんですね」
「え?」
「装備に合わせる」
一拍。
「人が」
兵士は少しだけ考える。
だが、すぐに言った。
「そっちの方が楽だろ」
その言葉に、カイルの視線が動いた。
兵士は続ける。
「全員同じなら、教えるのも楽だし」
「……」
「変に違う方が困る」
合理だった。
完全に。
兵士は剣を受け取り、去っていく。
ミレアが小さく息を吐く。
「これが選ばれる理由ですね」
カイルは静かに言った。
「基準が固定される」
「はい」
「だから楽」
「はい」
一拍。
「だから広がる」
エルザが言う。
「そして支配する」
それが規格の力だった。
カイルは少しだけ考えた。
戦場では勝てた。
だが。
ここでは違う。
ミレアが言う。
「どうします?」
カイルは答えなかった。
ただ市場を見る。
人の流れ。
選択。
基準。
そして静かに言った。
「変えます」
ミレアが少しだけ笑う。
「何をです?」
カイルは言う。
「選ばれる理由を」
戦いは、形を変えて続いていた。
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