第60話 市場の侵食
砦の外に、簡易の市が立っていた。
戦後の補給のために開かれた臨時市場。
だがそこに並ぶ品は、いつもと違っていた。
兵士の一人が剣を手に取る。
「……軽いな」
見た目は規格装備に近い。
だが作りが違う。
柄の重心。
刃の厚み。
仕上げの均一さ。
整いすぎている。
商人が笑う。
「北から入った品ですよ」
「北?」
「ええ」
一拍。
「ヴァルディア製です」
その言葉に、兵士の手が止まる。
別の兵士が近づく。
「いくらだ」
「王国製より安いですよ」
価格を聞いて、兵士たちがざわつく。
「……半分以下か」
商人は肩をすくめる。
「大量生産ですからね」
均一。
安価。
安定供給。
それは戦場において、圧倒的な強みだった。
整備区画。
エルザが報告書を読んでいる。
「……市場に流れています」
カイルは黙って聞いている。
「ヴァルディア製装備」
「ええ」
「しかも」
一枚めくる。
「整備性が高い」
ミレアが言う。
「壊れにくい?」
「いえ」
エルザは首を振る。
「壊れ方が一定です」
それはつまり。
修理しやすい。
部品交換で済む。
「規格の完成度が高い」
ミレアが小さく笑う。
「ちゃんと作ってきてますね」
敵ではない。
対抗だ。
しかも真正面から。
カイルは静かに言った。
「戦場ではなく」
一拍。
「市場で来ましたね」
エルザが頷く。
「はい」
そして言う。
「こちらは対抗できません」
カイルの技術は優れている。
だが。
量産できない。
価格で勝てない。
供給で勝てない。
ミレアが呟く。
「これが」
一拍。
「合理ですね」
整備区画の外で、兵士たちが会話している。
「安いならこっちでいいだろ」
「壊れにくいしな」
「同じのが手に入るなら安心だ」
その言葉が、空気を変える。
安心。
それは、規格の強みだった。
カイルは外を見る。
市場。
人の流れ。
選ばれているのは――
ヴァルディアの装備。
エルザが低く言う。
「王はこれを許容すると思いますか」
カイルは少しだけ考えた。
「短期なら」
一拍。
「許容します」
「長期は?」
「潰します」
当然だった。
国家は依存を嫌う。
だが。
その前に問題がある。
ミレアが言う。
「現場はもう選び始めてます」
兵士。
整備兵。
補給。
すべて。
合理に流れる。
カイルは静かに言った。
「これは」
一拍。
「戦場より難しいですね」
敵は壊れない。
敵は選ばれる。
そして――
正しい。
それが、一番厄介だった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




