第53話 戦場の差
森の奥の光が消えてから、戦場の空気が変わった。
魔物の動きが、ばらけ始めた。
それまで揃っていた突進の角度が乱れ、群れが互いにぶつかり合うように動き出す。
将校がそれに気づいた。
「……流れが崩れた」
兵士たちも感じている。
さっきまでの圧が、少し軽い。
だが油断はできない。
数はまだ多い。
カイルは丘の上から全体を見ていた。
中央の隊列。
左翼。
右翼。
全ての位置関係。
魔物の進行速度。
兵士の疲労。
それらを一つずつ確認していく。
ミレアが言う。
「誘導装置、完全に止まったわけではありませんね」
「ええ」
森の奥を指す。
「一つは止まりました」
だが残り二つは動いている。
つまり敵の技術者はまだいる。
ただし――
計測が崩れた。
それは技術者にとって大きい。
戦場の情報が信用できない。
その瞬間、魔物の群れの中央で大きな猪型が突進してきた。
盾兵の列へ一直線。
将校が叫ぶ。
「中央警戒!」
兵士たちが盾を構える。
衝突。
重い衝撃が走る。
だが盾は割れない。
斜めの角度。
流す衝撃。
そして後列の支え。
第一波とは違う。
猪型が押し返され、槍が刺さる。
巨体が崩れた。
兵士の一人が息を荒くする。
「……持つ」
別の兵士が笑う。
「いけるぞ」
将校が振り向く。
「押し返せ!」
槍兵が前へ出る。
魔物の群れが徐々に後退する。
完全な勝利ではない。
だが、崩壊はしていない。
ミレアが静かに言う。
「差が出ましたね」
カイルは頷いた。
「はい」
規格装備は悪くない。
むしろ優秀だ。
だが――
使い方が固定されている。
それが問題だった。
「装備ではなく」
カイルが言う。
「工程です」
戦場の工程。
観察。
判断。
修正。
それが回り始めた。
森の奥。
誰かがこの戦場を見ている。
だが今、その人物は理解している。
この戦場は。
単純な実験にはならない。
そしてその時、遠くの森で小さな光が一瞬だけ揺れた。
それは信号だった。
撤退の。
魔物の流れがゆっくりと変わり始める。
群れが森へ戻り始めた。
兵士たちが驚く。
「……退く?」
将校が目を細める。
「そうか」
一拍。
「終わりだ」
完全にではない。
だがこの戦場の測定は終わった。
カイルは森を見た。
見えない場所にいる技術者へ向けて、静かに言う。
「答えは出ましたね」
戦場の差は。
装備ではなく。
考え方だった。
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