第46話 規格の限界
防衛線は、まだ崩れていない。
だが、持ちこたえているだけだった。
魔物の突進が、同じ角度で繰り返される。
盾が衝撃を受ける。
槍が刺さる。
だが、その次の瞬間――
同じ場所に、同じ衝撃。
木柵がきしむ。
兵士が歯を食いしばる。
将校が叫ぶ。
「隊列維持!」
だがカイルは、別のものを見ていた。
盾。
表面ではない。
内側の補強金具。
そこに、わずかな歪みが出ている。
「あと二十」
ミレアが小さく言う。
「回数ですか」
「ええ」
同じ負荷が二十回入れば、割れる。
規格装備は強い。
だが“同じ場所”に負荷が集中すると弱い。
それを――
向こうは理解している。
前線で、また盾が割れた。
兵士が後ろへ引きずられる。
すぐに補充。
だが次の盾も、同じ型。
同じ強度。
同じ弱点。
エルザが呟く。
「規格の欠点……」
「はい」
カイルは頷く。
「再現できるということは」
一拍。
「壊れ方も再現できる」
魔物が突進する。
盾が受ける。
衝撃。
衝撃。
衝撃。
そして。
また一つ、割れた。
将校が歯を食いしばる。
「補給!」
整備兵が盾を運ぶ。
だが、それも同じ規格。
カイルは丘の上から全体を見る。
群れは減っていない。
むしろ押し続けている。
兵士の疲労も蓄積している。
ミレアが言う。
「このままだと」
「線が崩れます」
時間の問題だった。
エルザがカイルを見る。
「どうしますか」
その問いには、二つの意味があった。
技術者として。
例外として。
カイルは少しだけ考えた。
「装備は作りません」
エルザが驚く。
「この状況で?」
「はい」
今から装備を作っても、数が足りない。
戦場はすでに始まっている。
必要なのは――
別のもの。
カイルは丘を下りた。
整備区画へ向かう。
壊れた盾を一枚持ち上げる。
ミレアがついてくる。
「何をするんです?」
カイルは盾を裏返した。
補強金具の位置を指で叩く。
「ここが壊れます」
「はい」
「だから」
一拍。
「壊れない場所で受けます」
ミレアが眉をひそめる。
「そんなことできますか?」
「装備では無理です」
カイルは前線を見る。
盾兵たち。
隊列。
立ち位置。
「ですが」
静かに言う。
「人ならできます」
将校のところへ歩いていく。
兵士たちが次々と盾を受け止めている。
将校が振り向く。
「何だ」
カイルは短く言った。
「隊列を変えてください」
将校の顔が険しくなる。
「今さら隊形変更だと?」
「壊れる場所が決まっています」
盾の裏を指す。
「ここを守れば、線は持ちます」
将校は一瞬迷う。
だが、次の盾が割れた。
兵士が倒れる。
その瞬間。
将校は決断した。
「聞く」
短い言葉。
「どう変える」
カイルは丘を指した。
「角度を変えます」
そして言う。
「衝撃を流します」
装備ではなく。
戦い方を変える。
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