第43話 例外という危険
王が席に着いてから、審議会の空気はさらに張り詰めた。
誰も無駄な言葉を発しない。
王は、机の上の資料を一枚だけめくる。
「例外技術保持者」
その言葉を、ゆっくりと読み上げる。
それがカイルの呼び名だった。
「面白い呼び方だ」
王の声は穏やかだが、視線は鋭い。
「国家技術者ではない。
商会技術者でもない」
一拍。
「どこにも属していない」
ガイゼル将軍が、すぐに言葉を継いだ。
「それが問題なのです」
はっきりと言い切る。
「属さない技術は、危険です」
円卓に視線を巡らせる。
「軍とは統制だ。
戦場とは命令だ」
例外は許されない。
「属人技術は命令で動かない」
だから危険。
軍拡派の論理は明確だった。
レナードが静かに口を開く。
「ですが」
資料を指で押す。
「現場は、その例外に助けられています」
北部拠点の報告。
損耗率。
装備破損率。
数字が並ぶ。
ガイゼルは一瞥もしない。
「個人の偶然だ」
「三度続けば偶然ではありません」
審議会の視線が、カイルに集まる。
王が初めて、直接問う。
「お前は、軍を助けるつもりがあるか」
問いは単純だった。
カイルは迷わない。
「あります」
即答だった。
だが、続く言葉が重要だった。
「命令ではなく」
一拍。
「必要なときに」
審議会の空気が揺れる。
ガイゼルが低く笑う。
「それだ」
机を軽く叩く。
「その考えが危険だ」
戦場は気まぐれでは回らない。
「軍は“必要なときに来る者”を当てにできない」
正論だった。
そのとき。
静かだったミレアが、初めて口を開いた。
「将軍」
審議会の全員が彼女を見る。
「一つ確認させてください」
「何だ」
「規格装備は、なぜ安全なのですか」
予想外の質問だった。
「再現できるからだ」
「それだけですか」
ミレアは淡々と続ける。
「再現できる装備が壊れた場合、
誰が責任を取りますか」
ガイゼルの眉がわずかに動く。
「軍だ」
「現場では?」
沈黙。
「兵士です」
ミレアは言う。
「壊れた装備を使うのは、兵士です」
円卓の空気が変わる。
「例外技術は危険です」
ミレアは認める。
「ですが」
一拍。
「壊れない装備も、危険ですか?」
ガイゼルは答えない。
王は、初めて小さく笑った。
「面白い」
その一言で、場の緊張が少しだけ緩む。
王は資料を閉じた。
「結論は急がぬ」
視線が円卓を巡る。
「だが、状況が変わった」
その瞬間。
審議会の扉が勢いよく開いた。
伝令だった。
「北部防衛線より急報!」
全員が振り向く。
「魔物群が拡大しています!」
審議会の空気が一瞬で変わる。
王が立ち上がる。
「規模は」
伝令が震える声で答えた。
「予測の三倍です」
沈黙。
王は、カイルを見た。
「例外技術保持者」
一拍。
「現場を見てこい」
命令ではない。
だが、王の言葉だった。
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