第42話 秩序の席
王宮の奥、審議会の間。
天井は高く、窓は細い。
光は入るが、外は見えない。
中央に円卓が置かれている。
席はすでに埋まっていた。
軍服の男。
貴族の衣装。
文官。
それぞれの視線が、一斉にこちらへ向く。
「例外技術保持者、カイル・アーベル」
エルザが、静かに名を告げる。
ざわめきは起きない。
だが、空気が変わる。
円卓の右側、鋭い目をした男が腕を組んでいた。
「随分と若い」
低い声。
軍服の肩章が重い。
「ガイゼル将軍です」
エルザが小さく説明する。
軍拡派の中心人物。
「お前が、例の工房か」
問いというより確認。
「はい」
カイルは、簡潔に答える。
円卓の反対側から、別の声が出る。
「ようこそ」
穏やかな男だった。
貴族の装い。
年は三十代後半。
「レナード・クラインです」
改革派の代表。
「あなたの話は、よく聞いています」
その言葉に、ガイゼルが鼻を鳴らす。
「聞きすぎだ」
机を軽く叩く。
「問題はそこだ」
全員の視線が、将軍に集まる。
「属人技術」
一語で言い切る。
「再現不可。統制不可。教育不可」
軍の思想とは、真逆。
「戦時にそんなものを持ち込めば、軍は崩壊する」
正論だった。
レナードが、静かに言う。
「ですが、生存率は上がっています」
机の上に、資料が置かれる。
「北部拠点の記録」
数値が並ぶ。
「装備破損率、低下。
負傷率、低下」
ガイゼルは、視線も落とさない。
「個人の例外だ」
「だから呼ばれたのでしょう」
レナードは、視線をカイルに向ける。
「あなたに聞きたい」
問いは、はっきりしていた。
「なぜ標準化しない?」
審議会の空気が止まる。
技術者なら、答えは決まっている。
広める。
共有する。
だがカイルは、少しだけ考えた。
「できないからです」
即答ではない。
説明だった。
「工程の一部が、人を見る」
負荷。
歪み。
使用者の癖。
「そこを外すと、別の技術になります」
沈黙。
レナードは、興味深そうに頷く。
ガイゼルは、冷たい目を向ける。
「つまり」
将軍が言う。
「お前がいなければ成立しない」
「そうです」
否定しない。
その瞬間、審議会の空気が一段重くなった。
ガイゼルが、ゆっくりと言う。
「それを軍に持ち込めば、どうなる」
答えは、簡単だった。
「戦場で、お前がいなければ崩れる」
それは、軍としては致命的だ。
カイルは、静かに言った。
「だから、広めていません」
その言葉に、ガイゼルの眉がわずかに動いた。
レナードは、小さく笑う。
「面白い」
軍拡派は嫌う。
改革派は興味を持つ。
審議会の扉が、ゆっくりと開いた。
全員が立ち上がる。
入ってきた人物は、一人。
王だった。
誰も名を呼ばない。
だが、空気が変わる。
王は、席に着くと静かに言った。
「続けよ」
それだけだった。
だが、その一言で、
この議論は国家のものになった。
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