第33話 奪えないもの
商会の動きが、変わった。
締め出しは続いている。
だが、それだけでは足りないと悟ったらしい。
「……来ました」
ミレアが、短く告げる。
「何がですか」
「人です」
その日の夕方、ロッドが工房を訪れた。
いつもより、表情が硬い。
「……誘われた」
それだけで、察しはついた。
「商会から?」
「ああ」
ロッドは、苦く笑う。
「条件は、良かった」
金。
安定した依頼。
将来の保証。
「現場責任者の席まで用意されてた」
普通なら、断らない。
「返事は?」
ミレアが、静かに尋ねる。
「まだだ」
ロッドは、視線を伏せる。
「考えさせてくれ、って言った」
工房の中に、沈黙が落ちる。
商会は、正確に狙ってきている。
技術者ではない。
だが、信用の要所。
「……正直な話をしていいか」
ロッドが、顔を上げる。
「俺は、強くなりたい」
言葉は、真っ直ぐだった。
「でも」
一拍置く。
「強くなるために、誰かを売るのは違う」
カイルは、ゆっくりと頷いた。
「あなたが選ぶことです」
引き止めない。
縛らない。
それが、答えだった。
ロッドは、しばらく考え――
「断る」
短く、言った。
「理由は?」
「分かってるだろ」
ロッドは、苦笑する。
「俺が強くなれたのは、
あんたが、ちゃんと装備を作ってくれたからだ」
数字じゃない。
契約でもない。
「それを、売れって言われたら」
首を振る。
「無理だ」
ミレアは、帳面を閉じた。
「商会は、誤算しましたね」
「ええ」
カイルは、炉を見る。
「奪えると思った」
だが、奪えなかった。
人は、物じゃない。
信用は、契約書に書けない。
夜。
別の報告が届く。
囲われていた職人の一人が、
契約解除を申し出たという話だ。
「……崩れ始めています」
ミレアの声は、低い。
「はい」
カイルは、静かに言う。
「守ったものが、
人を動かしました」
商会が奪えなかったもの。
それは、
技術でも、金でもない。
“信頼”だった。
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